書評:絶滅危惧昆虫図鑑 いろいろな意味で 息をのむ美しさ
■概要
『絶滅危惧昆虫図鑑』
Extinct & Endangered Insects in Peril
写真:レヴォン・ビス Levon Biss
昆虫標本:アメリカ自然史博物館
翻訳・日本語版監修:丸山宗利
日経ナショナル ジオグラフィック、2023/4/10
本書は、アメリカ自然史博物館が所蔵する標本の中から、すでに絶滅した、あるいは絶滅の危機にある40種の昆虫を選び、特殊な撮影方法によって最大300倍に拡大して収めた図鑑です。
隅々まで完全にフォーカスの合った写真は、息をのむほど美しいものです。しかしその非現実的なまでの美しさは、同時にどこか不吉な予感を呼び起こします。ここに写っているのは、失われた/失われつつあるものの記録でもあるからです。
昆虫のように短期間でも個体数を増やしやすく、必要とする資源も少ない生物でさえ、多くが絶滅の危機に瀕しているという事実には、強い衝撃を受けます。
■内容
◆昆虫
・オオカバマダラ(Monarch butterfly, Danaus plexippus)
かつては億頭単位でいたのに急速に減少しつつある
トウワタを植える活動も行われている
・キュウホシテントウ(Nine-spotted lady beetle, Coccinella novemnotata)
ニューヨーク州の州昆虫だが、1980年代以後激減、10年以上目撃されていなかった
実験室での飼育、幼虫の販売も行われるようになった
・シロモンカバイロシジミ (Xerces blue, Glaucopsyche xerces)
1940年代に確認されたのが最後
人間の活動が原因で姿を消した最初の北アメリカ産のチョウ
・パタゴニアオオマルハナガチ (Giant Patagonian bumblebee, Bombus dahlbomii)
空飛ぶネズミと呼ばれたほど大きい
世界最大のマルハナバチ 約4㎝
・ピューリタンハンミョウ (Puritan tiger beetle, Ellipsoptera puritana)
水辺で昆虫や小型の甲殻類を捕食
多様なチームが保護を行っている
・ロードハウナナフシ (Lord Howe Island stick insect, Dryococelus australis)
タスマン海のロード・ハウ島
絶滅したと考えられてきたが2001年に近くの島で発見されて再生
野外に放す検討も行われている
・ロッキートビバッタ (Rocky Mountain locust, Melanoplus spretus)
1800年代後半までは何億匹もいた
1902年に見られたきり、もどってこなかった
◆撮影方法
望遠マクロレンズの先に顕微鏡レンズをつけ、被写体を細かなバーツごとに撮影する
カメラを前後に動かしてピントの浅い写真(解像度の高い)を層状に撮影し、ピントの合っている部分だけをソフトで合成して一枚の写真にする
それをさらに一匹の昆虫へと平面的に合成
一枚の写真は数千~数万枚の写真を合成したもの
◆レヴォン・ビス Levon Bissの動画
◆丸山宗利先生(翻訳・日本語版監修)
著書・共著の一部
◆生物保存のための寄付サイト
*寄付をすすめるつもりは全くありませんが ご参考まで*
■終わりに向かって
たとえばCOP29では、途上国向けの気候資金として2035年までに年間3,000億ドル、さらに公的・民間資金を含めた全体では年1.3兆ドル以上を目標とすることが示されました。日本政府も、国際支援として2021〜2025年に6.5兆円を拠出し、さらに最大100億ドルの追加支援を表明しています。国内でも、GXに向けて今後10年で150兆円超の官民投資を想定し、国が20兆円規模を先行支援する方針です。
賛否両論ある中で、これほど巨額の資金が動くのであれば、そのごく一部を絶滅危惧生物のサンプルや遺伝情報の保存に振り向けてはどうでしょうか。
発電、送電網、水素、産業転換といった気候投資に比べれば、標本、組織、精子と卵、細胞、ゲノム配列、環境DNAなどを体系的に保存する事業は、はるかに小さい予算で進められはずで、しかも一度失われた遺伝情報は二度と取り戻せないからです。
もちろん遺伝情報だけで生物や生態系を復活させることはできませんが、最低限のバックアップとして優先順位を上げるべきと考えます。
最後までお読みいただき ありがとうございました。
