第12話【法人乗っ取り】顧問就任
定款を最初から読み進めていく。
目的。
事業。
役員。
理事会。
評議員会。
そして――
あった。
あったー!
「どういうことですか?」
多田理事長と今田さんが、私の顔を見る。
「ここですよ。」
定款の一条を指さした。
○条 法人は、運営に必要な助言や相談を受けることを目的として、理事会の承認を得て、顧問を委嘱することができる。
これだ。
「正直に言いますね。」
二人の顔を見る。
「お二人だけでの対応に、ちょっと不安を感じました。」
「…………」
「大きなお世話かもしれませんが、私が顧問になって、当面の間、サポートしましょうか?」
そして念を押した。
「当面の間ですよ。」
「ありがとうございます。」
多田さんが頭を下げる。
「ありがとうございます……。」
今田さんは涙ぐんでいる。
余程、怖かったのだろう。
利用者さんが怪我をした。
その叔父である山口さんが突然乗り込んできた。
責任をどう取るんだ。
逃げるんじゃないだろうな。
答えろ。
畳みかけるように責められ、二人とも完全に萎縮していた。
だからといって、私が勝手に介入するわけにはいかない。
ここは社会福祉法人である。
正式な手続きを踏む。
「さて、持ち回りで理事会の承認を取りましょう。」
「え?」
「まず稟議書を作ります。」
稟議者は今田さん。
決裁者は多田理事長。
そして理事の皆さんに事情を説明して、必要な承認を得る。
今田さんが困った顔をした。
「どうやってやるんですか?」
「書面は私が作ります。」
「理事の皆さんがどこにいるか調べてください。書類を持参して、今回の経緯と私を顧問にする理由を説明する。そして承認をもらう。」
一人ずつ回ればいい。
面倒でも、こういう時ほど手続きを省略してはいけない。
権限は、勝手に手に入れてはいけない。
定款に根拠を求める。
理事の承認を得る。
正式に委嘱を受ける。
そのうえで仕事をする。
これが組織というものだ。
「そこまで済んだら、私が顧問として山口さんと直接話をします。」
二人の表情が少し明るくなった。
ところが多田さんが、申し訳なさそうに聞いてきた。
「でも……お給料とかは?」
「いりませんよ。」
「え?」
「報酬はいりません。必要な日の日当と交通費だけで結構です。」
別に、金が欲しくて首を突っ込むわけではない。
困っているから手伝う。
それだけだった。
この時の私は、
本当に「当面の間」のつもりだった。
利用者さんの事故対応を終わらせる。
山口さんとの話をまとめる。
法人が落ち着いたら、私は顧問を辞める。
それで終わるはずだった。
まさかこの顧問就任が、
後に法人そのものをめぐる争いに巻き込まれていく入口になるとは、
この時はまだ知る由もなかった。
