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第1話【呪縛と坊主】通帳漁り

益男君から久しぶりに電話があった。

「ご無沙汰しています。

母の時は大変お世話になりました。」

あれから5年か6年ほど経っていただろうか。

お母様の納骨以来だった。

「その後いかがですか?」

そう尋ねると、

少し疲れた声が返ってきた。

「父を介護していました。」

益男君は会社を辞めて故郷へ戻り、

一人で父親を支えていた。

しかし途中から在宅介護は難しくなり、

施設へお願いすることになったという。

「その父も亡くなりました。」

私は静かに答えた。

「お疲れ様でした。」

「お一人で見送られたのですね。」

すると益男君は少し間を置いて言った。

「今回は姉が来ました。」

私は驚いた。

「お姉さん?」

「お母様の時は来ませんでしたよね。」

「海外にいらっしゃるとか。」

「東京にいます。」

「ええ?」

思わず声が出た。

お母様の葬儀にも納骨にも現れなかった。

それが東京在住だったとは。

「丸投げだったのですか?」

「そうですね。」

益男君は苦笑した。

「母が亡くなった時は、

『あんたが長男なんだから自分でやりなさい。』

『家を継ぐんでしょう。』

そう言われました。」

そのまま音信不通。

以来、実家へ来ることもなかったという。

「それが今回は来たのです。」

「お父様のご供養にですか?」

私はそう尋ねた。

「違います。」

少し強い口調だった。

「たぶん違うと思います。」

「そうですか。」

「何のために来られたのでしょうね。」

すると益男君は深いため息をついた。

「私もそう思うのですよ。」

「先生に相談に乗ってほしくて。」

私は答えた。

「もちろんです。」

「何かトラブルがありましたね?」

「はい。」

「分かりますか?」

「何となくです。」

「よかったら聞かせてください。」

益男君は語り始めた。

父の逝去を知らせ、

火葬を終え、

納骨は住職さんのところでお願いしよう。

そう姉に伝えた。

すると突然やって来た。

実に八年ぶりだった。

姉は仏壇の前へ進み、

遺骨と遺影を一瞥した。

手を合わせるでもなく、

涙を流すでもなく、

開口一番こう言った。

「通帳を出しなさいよ。」

私は思わず聞き返した。

「いきなりですか?」

「はい。」

「いきなりです。」

そして姉は続けた。

「あんた、仕事を辞めて田舎に帰ってきたんでしょう。」

「親のお金を使い込んだんじゃないの?」

「この泥棒!」

益男君は呆然とした。

父を介護し、

仕事を辞め、

一人で見送り、

ようやく火葬を終えた直後だった。

相談できる相手もいない。

だから納骨の依頼とあわせて、

私に電話をかけてきたのだった。

私は思った。

どうやらこれは、

納骨の相談ではない。

相続戦争の始まりだ。

(つづく)

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