見出し画像

「マリーゴールドホテルで会いましょう」 勝手にご飯映画祭⑥

 

大和川 長治

 はい、またお会いしましたねー。皆さん、映画はお好きですか?  邦画が好き、洋画が好きなんて好みはあっても、映画が嫌いだという人は少ないでしょう。

   ところで、SF、ラブストーリー、ホラー、時代劇…いろんなジャンルがありますが、ジャンルにかかわらず多くの映画に登場するシーンがあります。それは食事シーンです。なぜ多くの映画に食事シーンが登場するのかといえば、映画は「人」を描くもので、そのためには食事に触れない訳にはいかないからです。作品によって重要度はさまざまですが多くの作品で、そこに登場する料理にはその料理でなければならない理由があります。

    しかし、たいていの映画では時間の都合でその理由にはあまり触れません。そこで、登場する料理に注目して映画を紹介するのが「勝手にごはん映画祭」です。今月はイギリス映画「マリーゴールドホテルで会いましょう」を上映します。



マリーゴールドホテルで会いましょう

 40年間連れ添った夫を亡くしたイヴリン(ジュディ・デンチ)は、夫の負債を返済するために家を売却し、インドの高級リゾート「マリーゴールド・ホテル」で余生をおくる決意する。インドに向かうために空港にやって来たイヴリンは、同じようにマリーゴールド・ホテルへ向かう6人の年配の男女に出会う。

 その6人とは、退職金を貸した娘が事業に失敗してしまったダグラス(ビル・ナイ)とジーン(ペネロープ・ウィルトン)夫婦。イギリスの病院が半年待ちで、渋々インドの病院で足の手術をするミュリエル(マギー・スミス)。インドで最後のロマンスを目論むノーマン(ロナルド・ピックアップ)。結婚と離婚を繰り返すマッジ(セリア・イムリー)の目的はお金持ちの夫探し。ある人を探すために40年ぶりにインドを訪れる元判事のグレアム(トム・ウィルキンソン)。

 それぞれに悩みを抱える7人を待っていたのは、ジャイプールの街に溢れる音と色彩、暑さ、そして、ネットやパンフレットの写真とはあまりにも違うオンボロの「マリーゴールド・ホテル」だった。マリーゴールド・ホテルの若き支配人ソニー(デヴ・パテル)は、亡き父からホテルを譲り受けた、やる気だけは人一倍の明るい若者。電話が使えない、部屋のドアがない、水道は水漏れする、そんなオンボロホテルを高級リゾートにするために努力するがままならない。

 一方、7人はお互いに交流を深めながら、それぞれ新生活を模索していく。そして45日め、探し人との再会を果たしたグレアムが心臓の病で亡くなる。イヴリンはショックを受け、ダグラスとジーンはイギリスに帰ると言い出す。時を同じくしてソニーの母親がホテルを売却する話を進め、ソニーはヤケになってホテルの閉鎖を決意する。再び人生の岐路に立たされた6人だが、その心境はイギリスを出た時とは明らかに違っていた。

「アル・パラタ」TIRAKITA(インド・アジア雑貨店)のHPより

アル・パラタの理由

 マリーゴールドホテルに向かうバスの中で、ダグラスは現地の乗客から、アル・パラタを勧められます。ダグラスはおいしそうに食べますが、妻のジーンは不衛生だと断ります。

 アル・パラタは、マッシュポテトをチャパティでくるんで焼き上げた、北インドではポピュラーな家庭料理で、この場面ではインドという異文化の象徴です。

    見知らぬ乗客がポケットから取り出した、紙に包んだアル・パラタをためらうことなく食べたダグラスには異文化に対する警戒も、新環境での気負いもなかったのです。このやりとりは、ダクラス夫婦の異文化への適応能力を暗示していますが、カレーとナン等、数あるインド料理の中でなぜアル・パラタだったのでしょうか?

ナン

 日本では、インドのカレーと言えば「ナン」がセットだと思われていますが、実際のインドではそうとは限りません。ナンはタンドールという土釜で焼きますが、タンドールは巨大なのでインドのほとんどの家庭にはありません。ですから、インドでもナンはレストランで食べるか、買って帰るのが普通です。

    筆者は「日本に来て初めてナンを食べました」「ナンって美味しいですねー」というインド人留学生を何人も知っています。

チャパティ

    しかし毎日、毎食分を買う訳にもいきません。そこで、庶民の家庭では、インド北部ではチャパティ、南部では米を主食にしています。とは言え、インドでは米を日本のように炊くのではなく茹でます。いわゆる「湯取り法」と言うやり方です。それには大量のお湯を準備しなければならないので、主婦の間では面倒だと思われています。

パラタ

     チャパティは、全粒粉を水と塩で練った生地を、丸めてめん棒で薄くのばし、専用の鉄板で焼いた薄焼きパンです。醗酵させないので簡単に作れます。チャパティの生地に、スパイスで味付けした、カリフラワー、じゃがいもなどを包み込んで焼いたのが「パラタ」です。これが大人にも子ども達にも大人気で、簡単なお弁当にもなります。

インドのお弁当

    インドにもちゃんとしたお弁当文化はありますが、日本のようにお弁当を持って出勤するのではありません。インドでは、ダッバーワーラー(Dabbawala)と呼ばれる弁当の配達サービスが利用されています。毎朝、配達人が顧客の家庭を回って弁当を集め、ひとつずつ勤務先へ届けるのです。このシステムでは、昼までにお弁当を作って、配達人に渡すので独身・単身者は利用できません。また、仕事で外回りをする人もいるわけで、すべての人にとって便利だというわけでもありません。そこで、パラタの出番です。パラタなら紙に包んで持ち歩けますし、食べれば後は紙くずだけなので身軽です。

ここから先は

2,292字 / 4画像

¥ 300

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?