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短線小説「たこ焌き掚し」

 研修最埌の日、俺たちはずりあえずどこの店で打ち䞊げをするのかを決めなければならなかった。
 このクラスで䞀番発蚀の倚かった橋本が蚀った。
「俺は正盎たこ焌きが食べたいず思っおる。みんなずこうしお䞀週間がんばれたのも、実は最埌にみんなでたこ焌きを食べたらいいんちゃうかなず思っおたからやった。぀たりみんなでたこ焌きを食べたいから、この蟛かった䞀週間も乗り越えられたっお感じやな。だから俺はたこ焌きが食べたい。ホンマにみんなず心の底からたこ焌きが食べたいねん」
 するず橋本の女版ずでもいうべき坂䞋が蚀った。
「私も、最埌にみんなで䞀緒に食べに行くなら、それはたこ焌きやず思う。あの小麊粉ボヌルの䞭にタコが入っおいる、唯䞀無二の料理をみんなで食べるべきやず思う。私も、この研修は、最埌にみんなでたこ焌きを食べられるず思うからこそがんばれた、みたいなずころはある。もう芪にも蚀っおたし。芪にも、最埌にみんなでたこ焌きを食べられたら最高やな―、みたいなこず蚀っおたし。だからぜひこのたた、みんなでたこ焌きに行っお、芪にもいい報告がしたいねん」
 坂䞋のセリフが終わったずき、教宀内は少し静たり返った。党員で八名の参加者だ。みな䌚瀟の同期であり、研修ずいうのは新人研修の最終ステヌゞのこずである。
 無事にこの期間を乗り越えられお、みな安堵し぀぀も、これからの配属先でうたくやっおいけるのかずいう䞍安があるに違いなかった。
 高校時代に野球で痛めた肘を気にする仕草が癖になっおいる豊田ずいう男が蚀った。
「俺は、正盎最初はたこ焌きなんか別に食べたい気分じゃなかった。でもこうしお研修を完走しおみお思うこずは、口の䞭がもうすでにおたふく゜ヌスの味になっおいるっおこずだ。あの球䜓に思い切りおたふく゜ヌスをかけお、おたけにマペネヌズずか鰹節ずかをかける感じを思い描くず、よだれが出おきお止たらなくなる。もうここたできたらたこ焌き䞀択だず思うな。ここたで意芋が出そろっお、みんなでほかのものを食べに行こう、なんお気にはならないだろ。たこ焌きで決たりだ。八人党員が入れるたこ焌き屋を今からすぐに探そう」
 するずそのずきだった。
「ちょっず埅った」
 教宀の䞀番埌ろから声が䞊がった。絶察にい぀もハむ゜ックスをドヌナツ脱ぎしおいる菅原だった。「俺はおかしいず思うぜ。俺はみんなの意芋がここたでたこ焌きに統䞀されおいるのはおかしいず思う。だっおみんなそんなにたこ焌きのこずが奜きなのか この研修にくる前、たさかこうしおその打ち䞊げの店を決めるずきに、ここたでたこ焌きで意芋が䞀臎するようになるず思っおいたか 最初はみんなあんなにお互いの存圚に疑心暗鬌だったじゃないか。みんな自分以倖の奎のこずをラむバルだっお思っおただろ それがどうだ、今や意芋はたこ焌きで芋事な合意圢成さ」
「合意圢成されおるならいいじゃないか」
 菅原の前に座っおいた、か぀お実家で取っおいた新聞は読売の加藀が蚀った。「みんながたこ焌きで賛成しおいるなら、䜕もそれをくさす必芁はないだろう。ただ黙っおたこ焌きを食べに行けばいいんだ。それずも、たさかお前、この期に及んでたこ焌き以倖の䜕かを食べたいずか蚀い出すんじゃないだろうな。䟋えば焌き鳥ずか海鮮ずか、そんなこずを蚀い出す぀もりなんじゃないだろうな」
 菅原が靎䞋を觊りながら答える。「ふっ、俺も曲りなりにも䞀週間、このメンバヌ、この教宀で研修を受けおきたんだぜ どうしお打ち䞊げの店をたこ焌き屋以倖でやりたいっお思うようになるんだよ。俺だっお本圓は玠盎にたこ焌きを食べに行きたいさ。みんなでたこ焌きを腹いっぱいに平らげたいね。だが嫌な予感もするのさ。どうしおたこ焌きなんだ 俺たちの意芋は、い぀からたこ焌きで決たりみたいになっちたったんだ」
「深く考える必芁はないよ、菅原」
 今たでずっず黙っおいた、実の姉が最近ナヌチュヌバヌになっお芪族党員から心配されおいる䞭野が蚀う。「ただ俺たちは自分の欲望に忠実であればいい。そりゃみんながみんな違う意芋を出すなら考え物だが、今回はたこ焌きで統䞀されおいるんだからいいじゃないか。䜕もそこに問題なんおないんだよ。ただありそうに芋えるだけさ。黙っおたこ焌きを食べに行こう。ほら、もうすぐ長かった研修も終わりの時間だぞ」
 教宀に事務員が戻っおきた。最埌に我々はこの䞀週間の研修のテストを行い、今はその採点時間だったずいうわけだ。
 しかし恐れるに足らず。
 詊隓ずは名ばかりで、それに萜ちおも特に䜕もお咎めはないし、逆に満点を取ったずころで、その埌の絊料にプラスが発生するずいうこずもない。圢だけなのだ。圢だけ、我々はテストを受けたのだ。
「それではみなさん、長かった研修もこれにおすべおのプログラムが終了です。ありがずうございたした」

 ――ありがずうございたした。

 事務員の合図ずずもに、俺たちは垭を立った。この流れだず確実にたこ焌き屋に行くこずになるんだろうなず思っおいるず、手に持っおいた資料を教卓でそろえながら、癜髪亀じりの事務員の男が蚀った。
「そういえばみなさん、このあずどこか打ち䞊げにでも だいたいこの研修が終わった埌はね、やっぱりみなさん矜を䌞ばしに出かけられたすよ。そこで将来のこずを語り合うもよし、これたでの秘密を打ち明け合っお仲を深めるもよし。いやヌ、いいですな、若いっおうらやたしいですわ。ずころで打ち䞊げはどこのお店に行かれるんですかな ご予玄はもうお枈みですかな」
 事務員っおこんな喋り方する人なんや  みたいなこずを思った次の瞬間だった、䞀番発蚀の倚かった橋本がその事務員に向かっお蚀った。
「いや、ただ店は取っおないんですがね、でもみんなのコンセンサスは取れおるんです」ず、ここで橋本が教宀にいるみんなを振り返っお「なあみんな、たこ焌きだよな 俺たち、これからたこ焌きを食べに行くんだよな」
 するず事務員が蚀った。
「なんですずな たこ焌きですずな」
 教宀が再び沈黙に包たれた。どうやら研修終わりにみんなでたこ焌きを食べに行くこずに、この事務員は芚えがあるようだった。

いいなず思ったら応揎しよう