「誕生日の夜、一人で泣いた38歳が語る。40代を"自分史上最高"にする、地味すぎる話。」
38歳、独身。コンビニで「シニア向けチラシ」を手渡された日に、俺の30代が終わった気がした。
40代を「老け期」にするか「自分史上最高期」にするかは、30代後半の過ごし方で決まる
誕生日の朝に起きた、小さくて致命的な事件
38歳の誕生日の朝だった。
コンビニのレジで会計を済ませたとき、店員——おそらく大学2年生くらいの女の子——が、ちょっと申し訳なさそうな笑顔でチラシを差し出してきた。
「よろしければどうぞ」
受け取った。見た。
「シニアの健康を守る!ひざ・腰・目のサプリ特集」
…………。
マジか。
いや待って。待って待って待って。
俺、今日誕生日なんだけど? 38歳になったばかりなんだけど?
「シニア」って、そっちのくくりなの、俺?
頭が真っ白になった。笑えない。いや、笑えないどころじゃない。これはもう、現実を突きつけられたというより、現実に顔面をぶん殴られた感覚だ。
傷ついた顔をしていたんだろう。店員の子が「あ、すみません!」と言ってくれた。
でもその「すみません」が、また別の角度から刺さった。
謝らせてしまうくらい、俺の反応はわかりやすかったらしい。
その夜、久しぶりにスマホのインカメラで自分の顔をまともに見た。
……いた。
「疲れたサラリーマン」が、俺の顔の上に住んでいた。
瞼が重い。眉間に深い溝。口角が、どこへ向かうでもなく、ただ下がっている。
「あ、これ、俺か」
他人の顔みたいだった。なのに、紛れもなく俺だった。
その夜ちょっとだけ、泣いた。誕生日に一人で。笑ってくれ。
「老け」はドラマみたいに突然来ない。じわじわ来る。それが一番タチ悪い。
毎朝、鏡を見る。「今日はちょっと疲れてるな」で終わる。
翌日も「疲れてるな」。その次も「疲れてるな」。
これが100日続いても、毎朝「今日はちょっと」で終わる。
老けているんじゃなくて、疲れているんだと思い込み続ける。
そしてある日、飲み会で誰かが撮った写真に映った自分を見て
マジか、これが俺か……。
となる。「あ、疲れじゃなかったんだ」と、ようやく気づく。
株の含み損に似てると思う。毎日の値動きはたいしたことない。でもある日、口座を開いたら資産が半分になっている。あの絶望感。俺の場合はそれが、コンビニのチラシだった。
ただ、顔の話だけならまだよかった。もっと怖かったのは内側のことだ。
何かを始めようとして「まあ、いいか」で終わる回数が増えていた。週末に「今日こそ何かしよう」と思って、気づいたら夕方になっている。新しい音楽を聴く気になれない。行きたい店を調べても、なんか面倒になってブラウザを閉じる。
「ワクワク」が、どこかに置いてきた傘みたいに、なくなっていた。
これが「老け」の本当の正体だ、と今は思っている。
見た目の変化は、内側が枯れた結果が外に出てきているだけだ。
やっちまった話① 48,000円を溶かした男
36歳のとき、俺は「よし、筋トレだ!」と思い立った。
完全にSNSのせいだ。マッチョな人たちが「人生変わった」「自信がついた」「モテた」と言い続けるのを半年見ていたら、信じてしまった。単純か。
ジムに入会した。月8,000円。
プロテインも買った。バナナ味にした(なんとなく)。
ジムウェアも揃えた。なぜかXSを選んで、当然体が入らなかった。
やっちまった。
いや、「太っている自分」に気づいていなかったわけじゃない。でもXSを手に取ったとき、なぜか「これくらいいけるだろ」と思った。根拠はゼロだった。
最初の1週間は行った。2週目も行った。3週目——筋肉痛が全身を支配していた。仕事は忙しかった。そしてある日、ジムの更衣室で知らないおじさんに15分間、プロテインの銘柄について熱弁を振るわれた。
それ以来、行かなくなった。
退会手続きが面倒なことで有名なチェーンだったので、そのまま放置した。半年間、月8,000円を払い続けた。
合計、48,000円。
やっちまった。盛大に。
ハワイ行けた。石垣島でも行けた。ユニクロで全身揃えてもお釣りが出た。
でも今振り返ると、この失敗の本質は「筋トレが嫌いだった」という話じゃない。「義務感だけで体を動かすのは、俺には無理だ」ということに、48,000円かけて気づいた、という話だ。
楽しくないことを続けるには意志力がいる。
意志力は仕事でほぼ使い果たしている。
残量ゼロの意志力で、さらに何かをやろうとしていた。
そりゃ、無理だ。
やっちまった話② 「モテたい」が「俺って誰?」になった件
36〜37歳のあたり、同世代の空気がじわじわ変わってきた。既婚の友人が増えて、子どもの写真がSNSに流れてくるようになって、「そろそろ考えなきゃな」という謎のプレッシャーが、どこからともなく降ってきた。
で、俺は対策として「謎のオシャレ化計画」を立てた。
服を変えた。「これ俺っぽくないな」と思いながら買った。
髪型を変えた。「美容師さんに任せます」と言ったらフワフワになった。翌日の会議で上司に「何かいいことありましたか?」と聞かれた。
マジか。「いいこと」って何だよ。別に何もないよ。
プロフィール写真は7回撮り直した。どれも「なんか違う」で終わった。7回目に至っては、撮り直す前と撮り直した後でほぼ同じ顔をしていた。
おかしなことに、外側をいじればいじるほど、自分が誰なのかわからなくなっていった。
夜中に、妙な問いが浮かんでくるようになった。
俺、何が好きだったんだっけ。
20代のとき、夢中になってたこと、なんだっけ。
「俺っぽい」って、そもそも何だ。
ファッションを考えていたはずが、気づいたら実存と向き合っていた。コスパが悪すぎる。
そこでひとつ、腑に落ちることがあった。外側から変えようとするのは、順番が逆だ、と。「自分が何者か」が先で、スタイルはあとからついてくる。それがないまま服だけ変えても、中身のないマネキンと変わらない。
遠回りして、ようやく手に入れた3つのこと
失敗を重ねて、48,000円溶かして、夜中に実存と向き合って、それでもようやく気づいたことがある。地味だけど、本物だと思っているものを3つだけ書く。
ひとつ目。「好きだったこと」に、こっそり戻る。
俺は20代のころ、映画が好きだった。月に何本も観ていた。それがいつのまにか「そんな時間ない」という言い訳の下に消えていた。
ある週末、なんとなく映画館に行った。一人で。昼間のガラガラの回に。
観終わって、外に出た。空が夕方に変わっていた。胸のあたりが、じわっとした。
「あ、俺、これが好きだったんだ」
その感覚を思い出した瞬間——ちょっと、泣きそうになった。
大げさじゃなく。ほんとうに。
なんで泣きそうになるんだ、と思ったけど、たぶん「好きだったのに、ずっと放置してた」ことへの後悔みたいなものだったと思う。エネルギーは義務からは湧かない。好きなものからしか、湧いてこない。
ふたつ目。眠ることを、ちゃんとやる。
ずっと「睡眠=サボり」だと思ってた。夜遅くまで何かしている方が頑張っている気がして、それが好きだった。
でもある時期、試しに7時間きっちり寝てみた。
半月で、顔が変わった。
マジか、これ睡眠だけで?
クマが引いた。頬の位置が上がった気がした。朝の判断力が明らかに違った。仕事でイライラする回数が、体感で半分くらいになった。
こんなに単純な話だったのか、と拍子抜けした。睡眠は「今夜のご褒美」じゃなくて、「明日の自分への先行投資」だと気づいてから、夜更かしが馬鹿らしくなった。
みっつ目。一人の時間を、罪悪感なく使う。
独身で一人の時間が長いのは、ずっとデメリットだと思っていた。「取り残されてる感」があって、その空白を何かで埋めようとしていた。
でも今は逆だと思っている。
誰かの機嫌に合わせなくていい夜がある。誰かのスケジュールに引っ張られない週末がある。「今日、何食べたい?」で揉めない夕方がある。その時間が、全部、自分に使える。
孤独は、向き合い方次第で、これ以上ない贅沢になる。
結局、30代後半の「正解」って何なのか
俺なりの答えを言う。
「なりたい40代を、今日の小さな行動で少しずつ仮組みしていく」こと。
それだけだ。
「今日から毎日筋トレ!」は無理だった。「甘いもの完全禁止!」も無理だった(禁止した瞬間に食べたくなるのはなぜなのか)。
結局続いたのは、負荷がほぼゼロのことだけだ。
朝、窓を開けて外の空気を5秒吸う。週に一回、好きなことに2時間使うと決める。夜11時以降はスマホを触らない。月に一度、一人で好きな場所へ行く(俺は喫茶店だ)。鏡を、批評のためじゃなく「今日の俺を確認するため」に見る。
地味だ。全部、本当に地味だ。
でも6ヶ月続けたら、なんか変わった。
朝起きたとき「あ、また今日か……」じゃなくて「さて」ってなっていた。
この違い、伝わる人には伝わると思う。
38歳の俺から、37歳の俺へ
一つだけ言えるなら、これだ。
「焦らなくていい。でも、止まるな。」
40代が「老け期」になるかどうかは、見た目の話じゃない。「俺の人生の主語が、俺に戻っているかどうか」の話だ。
モテなくていい。金持ちじゃなくていい。筋肉ムキムキじゃなくていい(48,000円かけて学んだ)。
「今日の俺、昨日の俺よりちょっとだけ好きかも」
これが言えるかどうか。それだけだ。
コンビニでシニア向けチラシを渡されて、誕生日の夜に一人でちょっと泣いた38歳が言うんだから、まあ、信憑性はそれなりにあると思う。
あの店員の子には、今でも複雑な感謝をしている。
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https://note.com/fair_eagle8873/n/n661e560fd4d3
