SSBJって、なに?――「任意」が「法定」に変わる意味
この記事で伝えたいこと
何の説明もなく、訳の分からない話をしたことにより、読者の皆様の心を遠ざけてしまったかもしれないことに私は反省しています。
これまでサステナ界隈は「開示してもしなくてもよい決まり」(≒任意)が主流だったのですが、最近、「開示しなければならない決まり」(≒法定)が定まりました。それがSSBJ基準と呼ばれているものです。
SSBJ基準への準拠を迫られる前に、自らあるべき姿へ軌道修正できるか。そこが、サステナビリティ開示を持続可能にできるかの分水嶺になります。
SSBJは「Sustainability Standards Board of Japan」が正。
今回のサムネに「S:最後は、S:精神論で、B:ぶっこむ、J:Japan」と仕込みましたが、これは少しでもSSBJに興味を持ってもらいたくて、別読みしただけの小細工です。
この内容に期待して、本記事を開いていただいた方がいらっしゃれば、大変申し訳なく存じます。
でも、せっかくこの記事をお開きいただいたので、もう少しだけお付き合いいただけませんでしょうか。

SSBJ基準は、サステナビリティ開示が「任意」から「法定」へ移る大きな転換点です。
ここを押さえていただくと、「サステナビリティ」への見方が変わるかもしれません。
さて、本来のSSBJの話に戻します。
最初に読む気を奪ってしまうようなことを言ってしまいますが、実はこれ、地味で泥臭い法定開示制度の話です。
先週の私は「速報」というサムネで記事を書いたのですが、しばらくして、ふと思い至ったのは……
まあ、そもそも読者の皆さんの多くは、
あまり興味ないよね……
ということでした。
これは、世間がサステナビリティに関心を抱かないことに義憤を覚えるなどといった独りよがりな話ではなく、私の身勝手な発信に、ただただ私が反省するといった類の思考です。
そこで今回は、そもそも「SSBJって、なに?」ということを説明していきたいと思います。
(縁遠いなーと思われる方も何卒お付き合いいただけたら、幸甚です)
サステナビリティ開示の潮流
ご専門の方々からお叱りを受けてしまうかもしれませんが、今回は外観だけでもつかんでいただくため、出来るだけ業界独特な表現は避け、分かりやすく説明していこうと思います。
もし、内容に問題がありましたら、コメントでご指摘いただけますと幸いです。内容を確認次第、謹んで修正・訂正させていただきます。
前置きが長くなりましたが、「サステナビリティ開示」の潮流を分かりやすくかつ端的に説明します。
サステナビリティ開示を取り巻く3つの問題
【多すぎ】
ESRS 、TCFD、TNFD、GRI、SASB、ISO 14064・14067・26000など
【被りすぎ】
4ピラー(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)、温室効果ガス(GHG)排出量など
【難しすぎ】
シナリオ分析、定性評価、定量評価、財務影響、削減貢献量、ランドスケープアプローチなど
細かい話をし始めるときりがないのですが、ひとまず、3つの問題の見出しだけでも押さえていただければ十分です。
まず、【多すぎ】・【被りすぎ】の問題について。
国際的には「ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)」という組織が基準づくりを進めています。
ISSBは、IFRS(国際財務報告基準)を作っている財団(IFRS財団)の中にある組織で、会計基準に加えて開示基準も所管しています。
そして「SSBJ:サステナビリティ基準委員会」は、そのISSBの基準を踏まえた日本版の基準を策定する日本の組織です。公益財団法人財務会計基準機構(FASF)の中に設置されています。
まだまだ細かい制度論がありますが、これも長くなるので、この話はここで切り上げます。
要するに、乱立する開示ルールを統一する国際的な動きがある中で、それに準拠しつつも「日本のローカルルール」を作る組織がSSBJで、その組織が作った開示基準がSSBJ基準だと思っていただければ、問題ありません。
そして残った【難しすぎ】は、SSBJ基準ができても、解消されるものではありません。
それにも関わらず、【難しすぎ】の一部は、SSBJ基準で正面から取り組まなければならない領域となっています。
そもそもですが、これまでのサステナビリティ開示フレームワークの多くは、「任意開示」が原則となっておりました。
つまり、極論すれば、開示してもしなくてもよい。
だから、多くの企業による「【難しすぎ】の内容に自己解釈を加えながら、準拠したものとして情報発信すること」が許されてきた、ということです。
たとえば、「SDGs」のロゴがついた情報をイメージしてみてください。
テレビや広告などでも見かけるアレです。
……なんとなく、言いたいことが分かりますか?
他にもたくさんありますし、留意事項はあるのですが、これもきりがないのでここでは割愛します。
しかし、SSBJ基準の登場で、サステナビリティ開示業界の「任意開示」がスタンダードという潮目が完全に変わることになりました。
SSBJ基準は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正等を通じて、有価証券報告書での開示に組み込まれる予定の法定開示です。金融庁による段階適用の準備が進められています。
極論すれば、絶対に開示しなければならない。
もっと言えば、法令で定められた開示なので、自己解釈ベースで基準に準拠したとして、軽々に開示できなくなりました。
そして、2027年3月期から時価総額が3兆円以上の上場企業(どなたでも知っていそうな会社)を対象に、順次、対応が求められる予定です。
でも、サステナビリティ開示は【難しすぎ】なので、SSBJ開示に迫られている会社担当者や担当役員の皆さんの間では、各社どういう開示をするのかが注視され、関係者で情報交換も行われてきたのです。
そして、SSBJ基準にチャレンジしてみようと考える奇特な上場会社が出てくるかもしれない。
開示時期の関係で2026年6月26日前後が、最もそういった会社が出てくるタイミングだった。
というのが、直近の状況と整理いただければよいかと思います。
なぜ、SSBJ基準が必要なのか?
この時点で、既にとっつきにくい話をしすぎたかもしれません。
もし、情報インプットが食傷気味でしたら、本章だけでも押さえていただければよいかもしれません。
まずはなによりも、なぜ生まれたのかについてです。
これは先にも申しましたが、サステナビリティ開示には【多すぎ】・【被りすぎ】・【難しすぎ】という問題があると申しましたが、これは作り手だけではなく、読み手にとっても深刻なのです。
企業ごとに書き方も指標も時間軸もばらばら。
読み手は並べて比較できず、何に使えばよいのか分からない。
たとえば、同じ「気候変動への取り組み」でも、A社は決意表明、B社は温室効果ガスの削減目標、C社は白紙、という不揃いな情報が並ぶことがあります。
情報の質と量もばらばらで、何を比べられますか?
(比較可能性の問題と言われます)
温室効果ガスの削減目標を立てていれば、
事業がうまくいっていると判断できますか?
(財務・非財務の断絶の問題と私は表現しています)
実はこれ、今もなお、多くの企業の開示で解決できていない問題として常態化しています。
ですから、上場企業への株式投資判断を行う投資家や、その企業と取引を行う利害関係者などは、意思決定において企業のサステナビリティ開示をほとんど使えていない、ということになります。
これが今の実情です。
だからこそ法令で、開示のルールを決めて、情報の粒度も揃える。
これがSSBJ基準の存在意義と言ってよいでしょう。
でも、注意が必要です
開示ルールを揃え、比較可能性を整えることを求められると、どうなるか。
もう一度言いますが、開示する企業側の自己解釈を基に作った情報で、基準に準拠したというこれまでの論理が通じなくなる。
これ、実務者からすれば、大変なことです。
なお、2026年7月時点において、SSBJ基準はあくまで適用が予告された基準で、現状は任意で早期適用、つまり企業判断でSSBJ基準に準拠した開示をしてもよいという段階で、準拠しなくても直ちに違法になることはありません。
また、初期段階ではSSBJ基準の普及を優先するため、将来情報(見通し・シナリオ・目標など)については、開示当時に合理的な根拠があれば、事実と異なっても責任を問わないというセーフハーバー・ルールの適用が見込まれています。
ただし、この免責は将来情報に限られ、過去の実績値や実測値の虚偽記載は、金商法上の制裁対象になります。
結局、何が言いたいのか?――「任意」が「法定」に変わると彼らが動く
要するに、これまでは書かなくても違法ではないし、書いた内容が甘くても、それだけで責任を問われることがなかったのが、これまでのサステナビリティ開示でした。
でも、SSBJ基準の適用で、書かなかった場合は違法になりますし、開示する情報に対しても責任を負わなければならなくなりますので、当然、"これまでのサステナビリティ"が通用しなくなります。
こうなってくると、彼らが動き出すことが予想されます。
アクティビストの存在――非財務資本が狙われている
アクティビストとは、株式を一定量取得したうえで、株主提案や公開書簡、議決権行使を通じて対象企業に変革を求める投資家のことです。
彼らの目的は短期的な自己利益の追求で、強引なやり方で投資先企業の経営陣と対峙することが多い。
とはいえ、提案内容だけを見れば、企業の未来を案じた株主の意見であることには変わりありません。
実は、そのアクティビストたちは投資先の「非財務資本」、つまりSSBJ基準の領域で扱われる要素を見ているのです。
どういうことか、2025年に日本で観察された事例を見てみましょう。
① 花王 vs Oasis Management
Oasisは公開書簡で、花王の海外売上比率は約35%にとどまり、ユニリーバの80%超と比較して大幅に劣後していると指摘しました。強力なブランドを保有しながらグローバルでの活用余地が顕在化していない、という主張です。あわせて、外国人を含む独立社外取締役5名の選任提案を提出しました。
これは、非財務資本が論点だと整理できます。
知的資本(ブランド)と人的資本(取締役スキルセット)の話です。
② 小林製薬 vs Oasis Management
2024年に発生した紅麹関連製品による健康被害の問題を受け、Oasisは独立調査委員の選任要求と、独立社外取締役3名の選任提案を提出しました。会社側の対応・調査体制・開示のあり方への疑義が背景にあります。健康被害等の詳細については、厚生労働省と小林製薬の公表資料をご参照ください。
これも、非財務資本が論点だと整理できます。
企業がステークホルダーとの間で築いてきた信頼、いわゆる社会・関係資本の毀損。
③ サッポロホールディングス vs 3D Investment Partners
3Dは公開書簡で、恵比寿ガーデンプレイスをはじめとする不動産事業(約4,000億円相当)とビール事業を並存させている構造を問題視し、事業ポートフォリオの再構成を求めました。ビール事業への集中投資と、不動産事業の外部資本導入または売却が主要な論点です。
これも、非財務資本が論点だと整理できます。
収益不動産は、飲料品製造会社として持つべき製造資本とは異なるという主張です。
④ 京成電鉄 vs Palliser Capital
京成電鉄が保有するオリエンタルランド株(約20%)は、Palliserによれば大規模な政策保有株にあたり、資本効率を毀損しているとされました。取締役の再任について、ISSとグラスルイスの両者が反対を推奨したことが報道されています。
これも、非財務資本が論点だと整理できます。
社会・関係資本の一部としての政策保有株を扱うことの是非が問われた事例です。
他にも、SSBJ基準でカバーされる(すべき)非財務資本の情報が争点になった事例は多くあります。
ブランド、取締役スキルセット、社会的信用、事業ポートフォリオ、株式の持ち合いなど。
解釈次第では、非財務資本が関係しないアクティビズムは皆無かもしれません。
SSBJ基準で具に非財務資本の情報を開示することになれば、脇の甘い部分は、今以上に明瞭に浮き上がり、責任追及されてもおかしくないのです。
注:本章のアクティビストの事例は、公開情報の範囲での私の主観で整理したものであり、その内容を保証するものではないことをご了承ください。
興味を持っていただけましたか?――私がSSBJを追う意味
なぜ、私がSSBJ基準について騒いでいるのか、なんとなく、お分かりいただけましたでしょうか。
来年から基準適用が開始されるのですが、それに合わせて、サステナビリティ業界が様変わりしていくことを予想しています。
そして、それは私がこれまでnote記事を通じて発信してきた「本質的なサステナビリティ」に回帰していくきっかけになるだろうと思っている。いえ、というより、私がそうなることを願っているだけかもしれません。
どういった結果が待っているかは、その未来を迎えるまで分かりません。
しかし、確実に時は進み、
SSBJ基準適用が
日本の上場企業に迫ってきています。
言われてから直すのでは遅い。
自ら気づき、あるべき姿に自ら進む。
持続的な「サステナビリティ開示」
の分水嶺はここにあります。
現実的には、彼らが比較基準を持つことを許されない限り、自分たちが抑圧されているという事実に気づきさえしないのだ
第一章 無知は力なり
「一九八四年」 ジョージ・オーウェル(早川書房)
最後に
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出典・脚注
―――
- サステナビリティ基準委員会(SSBJ)「サステナビリティ開示基準」2025年3月5日公表 <https://www.ssb-j.jp/>
- SSBJ「気候関連開示基準」項102〜105(初年度経過措置)
- 金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正関連資料 <https://www.fsa.go.jp/>
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) <https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025>
- Oasis Management公開書簡・株主提案書(花王 4452/小林製薬 4967)2025年
- 3D Investment Partners公開書簡(サッポロホールディングス 2501)2025年
- Palliser Capital公開書簡(京成電鉄 9009)2025年
- ISS/Glass Lewis 議決権行使推奨レポート 2025年
- 厚生労働省・小林製薬 紅麹関連公表資料 2024年〜
- ジョージ・オーウェル『一九八四年』高橋和久訳、早川書房(ハヤカワepi文庫)、2009年新訳版、ISBN 978-4-15-120053-3
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