ミネルヴァの刻印|フランスのシルバージュエリーの豆知識
前回の記事では、フランスの小型銀製品に見られる
「イノシシ頭部刻印」についてご紹介しました。
その中で少しだけ触れたのが、
ミネルヴァ頭部刻印です。
今回は、フランスの銀製品に用いられてきた
ミネルヴァの刻印について、少し詳しく見ていきます。
フランスの銀製品に刻まれた
女神の横顔
ミネルヴァは、ローマ神話に登場する知恵と技芸の女神であり、知性や手仕事、芸術、工芸を象徴する存在として知られています。
フランスの銀製品には、この女神の横顔をかたどった刻印が用いられてきました。
フランス語では、
Poinçon de tête de Minerve
と呼ばれており、フランスの貴金属保証制度において、
銀の品位を示すために打刻される保証刻印です。
この刻印にはいくつかのバリエーションがあり、
刻印の中に見られる数字や枠の形、
こめかみ部分の髪の房の有無、
年代文字、そして小さな識別記号によって、
その銀製品の品位や時代、検査された地域を読み解く手がかりになります。
数字の「1」と「2」が示すもの
ミネルヴァ頭部刻印で特に重要なのが、
刻印の中に入る数字です。
数字の「1」は、第1品位。
数字の「2」は、第2品位を示します。
ただし、第1品位が示す銀の含有率は時代によって異なります。
19世紀から20世紀前半にかけての第1品位は、
950‰、つまり銀含有率95.0%以上を示していました。
一方、第2品位は800‰。
銀含有率80.0%以上を示します。
その後、1970年代以降には、第1品位の基準が925‰へと変わっていきます。
つまり、同じ「1er titre(第1品位)」であっても、
時代によって950‰を示す場合と、925‰を示す場合があるのです。
1838年〜1919年頃のミネルヴァ刻印
1838年以降、パリで用いられていたミネルヴァ頭部刻印には、
こめかみ部分に髪の房があるタイプが見られます。
第1品位の刻印では、数字の「1」が入り、
銀品位950‰を示します。

同じ時期の第2品位には、数字の「2」が入ります。

このように、同じミネルヴァの横顔であっても
銀の品位が変わります。
1919年以降の変化
1919年以降、パリでも地方でも、
こめかみ部分に髪の房がないタイプのミネルヴァ刻印が用いられるようになります。
この時期の第1品位は、引き続き950‰を示します。

sans mèche de cheveux sur la tempe
また、第2品位の刻印では、額の前に小さな記号が見られることがあります。
これは différent、ディフェランと呼ばれる識別マークです。
ディフェランは銀の品位を示すものではなく、
どの保証局・都市で検査されたかを示す手がかりとされています。

1973年以降の第1品位
1970年代に入ると、第1品位の基準にも変化が見られます。
1973年以降のミネルヴァ頭部刻印では、
第1品位が925‰、
つまり銀含有率92.5%以上を示すようになります。
このタイプには、あご下などに年代文字が入るものがあります。

年代文字は、理論上10年ごとに変わる識別文字です。
A:1973–1982
B:1983–1992
C:1993–2002
D:2003–2012
E:2013–2022
F:2023–2032
ただし実際には、保証局で使用される刻印の交換状況によって、
必ずしも理論通りに運用されるとは限らないとされています。
そのため、年代文字は重要な手がかりでありながら、
ほかの情報と合わせて慎重に見る必要があります。
ジュエリーで見かけるミネルヴァ刻印
ここまでご紹介した枠入りのミネルヴァ刻印は、
銀器や比較的大きな銀製品の資料でよく見られるものです。
一方で、ジュエリーのような小型銀製品では、
もう少し小さな刻印に出会うことがあります。
それが、切り抜き型のミネルヴァ頭部刻印です。

切り抜き型ミネルヴァ頭部刻印
これは、女神の横顔そのものの輪郭が刻印の外形になったようなタイプです。
以前の記事でご紹介したカニ刻印やイノシシ頭部刻印と同じように、
小さなジュエリーの中に、肉眼では見落としてしまいそうなほど小さく打刻されていることがあります。
また、小さなパーツや打刻されている箇所によっては確認が困難なものも少なくはありません。
リング、チェーン、ブローチ、ペンダントなどでは、
大きな枠入りの刻印よりも、こうした小さな切り抜き型の刻印の方が現実的です。
また、この切り抜き型ミネルヴァ頭部刻印は、新しく製造された銀製品だけではなく、中古の銀製品に打刻される場合もあります。
ただしその対象となるのは、
銀品位800‰以上の品物であり、
菱形の製造者責任刻印、または楕円形の輸入者責任刻印を備えているもの。さらに、フランスの保証制度上、刻印義務の対象となる基準を超えている必要があります。
つまり、単に古い銀製品であれば必ず打刻されるというものではなく、
品位や責任刻印、重量・大きさなどの条件を満たしたものに限られると考えられます。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
小さな刻印のひとつひとつにも、素材や時代、国の制度、そしてその品物が歩んできた時間が残されています。
次回も、ヴィンテージジュエリーに残された小さな手がかりを、少しずつご紹介していきたいと思います。
Éphémère 小宮
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参考資料
この記事は、Osprey Parisによるフランスの貴金属刻印解説、Mike Fieggen 氏の著書『Les Poinçons Français des Métaux Précieux de 1789 à ce Jour』、および『あたらしいフランスアンティークジュエリーの教科書』を参考にしています。
※記事内の刻印画像は、参考資料の内容をもとに、特徴を分かりやすくお伝えするために作成した資料画像です。原資料の図版をそのまま使用・転載したものではありません。実際の刻印は、打刻の状態や摩耗、見る角度によって判別しにくい場合があります。
フランスの刻印は非常に小さく、実物では摩耗などにより判別が難しい場合があります。
この記事では、参考資料と実物観察をもとに、ミネルヴァ頭部刻印について簡単にまとめました。
