見出し画像

SBT対応でAIはどこまで使える?算定・Scope3・申請準備の8つの実務【2026年版】


SBT、SMESBT、よくわからず複雑ですよね。
度々更新が入るので、キャッチも大変ですし。。。
そんなあなたへ、SBT申請においてAIがどこまで活用できるかをお伝えします。

月末の会議室。

机の上には、電力請求書、燃料データ、購買明細、出張実績、廃棄物マニフェスト、サプライヤー回答票。

パソコンには、SBTiの基準、GHGプロトコル、社内算定マニュアル、過去年度のExcel。

ファイルを探し、単位をそろえ、前年との差を確認しているうちに一日が終わる。

この作業へAIを使えないか。そう考えるのは自然です。

結論から言えば、SBT対応でAIを活用できる場面はかなりあります。

ただし、AIへ目標設定を丸ごと任せるのではありません。

AIに向くのは、探す、抜く、揃える、比べる、漏れを示す作業。
人が担うのは、境界を決める、根拠を選ぶ、説明し、責任を持つ判断。

この分担を守ると、AIはSBT担当者の代わりではなく、担当者が判断へ時間を使うための実務補助になります。

最初に|2026年はSBTiの移行期

AI活用の前に、どの基準へ対応するかをそろえる必要があります。

2026年6月、SBTiはCorporate Net-Zero Standard Version 2.0を公表しました。一方、SBTiは、2026年に目標を設定・更新・再設定する企業へ、現行のCorporate Net-Zero Standard V1.3.1を使って早めに進めるよう案内しています。

V2.0を使った検証は、2027年2月1日から開始予定です。

2026年7月29日時点を、実務向けに整理すると次のようになります。

V1は2027年末まで目標設定に利用できる予定ですが、V2の新しい手法・経路、解釈ガイダンス、進捗評価関連資料には、2026年後半に最終化・追加公表予定のものがあります。

つまりAIへ資料を読ませるときも、「SBTのルールを教えて」だけでは危険です。

対象文書:
文書名:
バージョン:
発行日:
適用開始日:
自社の申請予定日:
業種別基準の有無:

を先に固定します。

現行基準で、AI活用と関係する要点

現行のCorporate Near-Term Criteria V5.3.1では、たとえば次の要件があります。

  • Scope1・2は会社全体を対象とする

  • 関連するScope3がScope1・2・3合計の40%以上なら、近中期目標へ含める

  • Scope3目標は、報告・除外したScope3排出量の少なくとも67%をカバーする

  • 関連する排出源を含むScope3インベントリを作成する

  • SBTiが承認する最新の手法・ツールでモデル化する

  • Scope2は目標設定と進捗管理で一貫した算定アプローチを使う

AIは、これらの該当性やデータを確認する作業を速められます。

しかし、

「この子会社を組織境界へ含めるか」

「この支出をScope3のどのカテゴリへ置くか」

「この排出係数が自社の活動を表すか」

という判断そのものは、企業の算定方針と証拠に基づき、人が決める必要があります。

SBTでAIを使える8つの実務

1|公式文書を横断し、変更点を探す

SBT対応では、基準、FAQ、業種別ガイダンス、Criteria Assessment Indicators、申請フォーム、ツールを行き来します。

AIへ公式資料だけを参照させれば、次の作業を補助できます。

  • V1.3.1とV2.0の変更点を項目別に整理する

  • 「shall」「should」「may」を分ける

  • 自社業種に適用される文書候補を一覧化する

  • 条文と申請フォームの入力欄をひもづける

  • 更新日・適用日・経過措置を並べる

良い出力条件

回答本文だけでなく、必ず次を付けさせます。

根拠文書名:
バージョン:
該当箇所:
引用ではなく要約:
適用条件:
未確認事項:

リンクやページを出せない回答は、実務上は「調査メモ候補」です。

正式な解釈として扱わず、人が原文を確認します。

2|請求書・購買データを抽出し、単位をそろえる

AIの文書認識や表抽出は、次の一次整理に使えます。

  • 電力・ガス・燃料請求書から活動量と対象期間を抜く

  • サプライヤー別の購買明細を品目群へ仮分類する

  • kWh、MWh、GJ、L、kgなどの単位表記をそろえる

  • 重複行、日付範囲の重なり、空欄を検出する

  • 証憑ファイル名と計算表の行番号をひもづける

ただし、画像から読み取った数字は転記ミスが起こり得ます。

次のような照合ルールが必要です。

請求書合計 = 抽出データ合計
対象月数 = 12カ月
拠点マスタ件数 = 収集済み拠点+未収集拠点
原単位分母 = 財務・生産部門の確定値

AIが作った表を、そのまま排出量計算の確定値にしません。

3|Scope3カテゴリを「仮分類」する

Scope3の難しさは、同じ支出名でも契約、用途、所有関係によってカテゴリが変わることです。

AIは、取引摘要や品目名から次を出す補助に向きます。

  • 第一候補のカテゴリ

  • 第二候補

  • 判断根拠

  • 分類に不足する情報

  • 担当部門へ確認する質問

たとえば「リース料」という摘要だけでは、資産の種類、契約形態、自社の組織境界によって確認が必要です。

AIには断定させず、迷いを見える化させます。

使いやすい指示例

以下の購買摘要をScope3カテゴリへ仮分類してください。
各行について、
1. 第一候補
2. 代替候補
3. 判断根拠
4. 不足情報
5. 社内確認先
を出してください。

分類を確定せず、確信度が低いものは「要確認」としてください。
参照するのは指定したGHGプロトコル文書だけにしてください。

4|欠損、異常値、データ品質の弱い場所を探す

AIは、計算より前の「おかしさ探し」に強みがあります。

  • 前年比が大きく変動した拠点

  • 単位が他行と異なるデータ

  • 同一請求書の重複

  • 排出係数の年度・地域の不一致

  • 金額データしかなく、物量化が必要な項目

  • サプライヤー一次データの境界不足

  • 算定方法が前年から変わったカテゴリ

ここでは、異常値を自動で削除しないことが重要です。

工場増設や事業売却など、正しい変動かもしれないからです。

AIの役割は「直す」ではなく、「人が見るべき順番をつける」です。

5|目標シナリオを比較する

AIは、SBTiの公式ツールへ入れる前後のシナリオ整理に使えます。

たとえば、

  • 基準年を変えた場合の必要データ

  • 絶対削減目標と原単位目標の前提差

  • Scope3の目標境界候補

  • 再エネ調達、生産効率、物流改善の寄与

  • 成長計画を含む排出量見通し

  • 目標経路と自社削減施策のギャップ

を表にできます。

ただし、AIが独自に削減率を作るのではありません。

最終的な目標モデルは、適用されるSBTiの最新手法・公式ツールを使います。

AIは、前提を整理し、複数シナリオの差を説明する役です。

★AIが扱う:
前提一覧、シナリオ比較、感度分析、説明文案

公式ツール・人が扱う:
適用経路、削減率、目標年、目標文言の確定

6|サプライヤーへの依頼と回答整理を補助する

Scope3やサプライヤーエンゲージメントでは、同じ依頼文を全社へ送るだけでは回答が集まりにくいことがあります。

AIを使うと、

  • 業種・品目別に質問を調整する

  • 回答例と用語解説を作る

  • 未回答項目を自動で一覧化する

  • 回答内容を「一次データ」「推計」「不明」へ仮分類する

  • 排出係数の境界、対象年、検証有無を抜き出す

  • 日本語と英語の依頼文を整える

ことができます。

一方、取引先の機密情報を一般公開型のAIへ入力してよいとは限りません。

社内で承認された環境、データ利用契約、保存・学習設定、アクセス権を確認します。

7|申請に必要な証跡を「要件別」に並べる

V2.0では、目標を設定するだけでなく、ガバナンス、移行計画、進捗評価、証拠の重要性が強まっています。

SBTiが2026年6月に公表したV2.0向けの暫定的なMinimum Evidence Requiredには、たとえば、

  • 最高レベルのガバナンスによる承認

  • 目標実施を監督する体制

  • 移行計画

  • 基準年データ

  • 算定・目標設定の裏づけ

に関する証拠例が整理されています。

AIは、社内ファイルを要件へひもづける作業に使えます。

要件:
必要な証拠:
社内ファイル:
対象期間:
承認者:
不足:
次の担当者:

この表を作ると、「数字はあるが承認記録がない」「説明資料はあるが対象年度が古い」といった穴が見えます。

ただし、SBTi自身も、この暫定チェックリストだけで適合や承認が保証されるものではないと明記しています。

AIのチェックも同じです。提出可能性を高める補助であって、合格判定ではありません。

8|進捗差異と削減施策の遅れを早く見つける

V2.0は、目標設定時点だけでなく、実施、進捗、サイクル終了時の評価を重視しています。

AIは月次・四半期データから、

  • 目標経路との差

  • 前年同期比

  • 活動量増加と原単位悪化の切り分け

  • 設備、購買、物流など主要因の仮説

  • 削減施策の進捗遅れ

  • 追加確認が必要な拠点・カテゴリ

を出す補助に使えます。

ここでも「原因を断定させない」ことが大切です。

AIには、原因候補と確認質問を出させます。

差異:
原因候補:
根拠データ:
反証となるデータ:
確認先:
必要な追加資料:

任せてよい作業、任せてはいけない判断

実務の境界を一枚にすると、次のようになります。

とくに、次の六つはAIだけで確定しません。

  1. 組織境界と連結方法

  2. 排出源の関連性と除外

  3. 排出係数・算定方法の採用

  4. 基準年再計算の要否

  5. 目標境界・削減率・目標文言

  6. 社外開示と申請の最終承認

AIを使ったこと自体も、記録する

ここは2026年らしい論点です。

GHGプロトコルのCorporate Standard改定に関する2026年5月のテクニカルワーキンググループ資料では、排出量算定にAIを使った場合、

  • どのAIツールを使ったか

  • どのように使ったか

を開示する案が議論されています。

この案には作業部会で多数の支持が示されていますが、現時点の最終要件ではありません

それでも、今からAI利用記録を残す意味はあります。

利用日:
担当者:
AIツール/モデル:
利用目的:
入力データの名称・版:
入力した情報の機密区分:
使用した指示:
出力ファイル:
参照した公式文書:
人が修正した内容:
レビュー者:
最終判断:

将来の説明だけでなく、翌年に同じ処理を再現するためにも役立ちます。

「AIがそう答えた」は根拠になりません。

何を入れ、何を参照し、誰が確かめたかまで残して、初めて実務の記録になります。

まず使うなら、この4つのプロンプト

1|基準の差分確認

添付したSBTi公式文書だけを参照し、
旧版と新版の変更点を比較してください。

列は、
1. 論点
2. 旧版
3. 新版
4. 適用条件
5. 発効日
6. 自社への確認事項
7. 根拠ページ
としてください。

推測で空欄を埋めず、不明は「要原文確認」としてください。

2|Scope3仮分類

購買摘要をScope3へ仮分類してください。

第一候補、代替候補、判断根拠、不足情報、
社内確認先、確信度を出してください。

カテゴリを確定せず、
契約・用途・所有関係が不足する行は「要確認」としてください。

3|証跡の不足確認

指定したSBTi要件一覧と社内証跡一覧を照合し、

十分
一部不足
未整備
対象外候補

に分けてください。

各項目に、根拠ファイル、対象年度、承認者、
不足内容、次に確認する質問を付けてください。
合格・不合格の判断はしないでください。

4|進捗差異の分析

目標経路と実績の差を分析してください。

確定している事実と原因仮説を分け、
各仮説について、
根拠、反証になり得るデータ、確認先、
追加で必要な資料を示してください。

データがない原因を断定しないでください。

30日で試す、SBT×AIの小さな導入

いきなり全社のScope3をAI化する必要はありません。

まず一カテゴリ、または一拠点で試します。

1週目|対象とルールを固定する

  • 対象業務を一つ選ぶ

  • 使用できるAI環境を確認する

  • 参照する公式文書と版を固定する

  • 人が承認する項目を決める

2週目|過去データで試す

  • すでに確定した前年データを入力する

  • AIの抽出値と確定値を比較する

  • 分類精度、欠損検知率、修正時間を測る

3週目|証跡とログを整える

  • 入力、出力、根拠、レビュー記録を残す

  • 誤りの種類を分類する

  • プロンプトと確認手順を修正する

4週目|本番利用の可否を判断する

  • 削減できた工数

  • 人のレビュー時間

  • 重大な誤り

  • 再現性

  • 情報管理上の問題

を見て、対象を広げるか判断します。

精度だけでなく、最終的な総工数が減ったかを確認することが重要です。

AIの出力を直す時間が増えたなら、使う工程を変えます。

導入前チェックリスト

□ 対応するSBTi文書とバージョンを固定した
□ 公式文書以外を根拠にしない設定がある
□ 機密情報を入力できるAI環境か確認した
□ 入力データの所有者と利用許可を確認した
□ AIが確定してはいけない判断を決めた
□ 数値の合計照合ルールがある
□ Scope3分類を人が確認する
□ 排出係数の地域・年度・境界を人が確認する
□ 公式ツールで目標をモデル化する
□ AI利用日、モデル、入力、出力を記録する
□ 修正内容とレビュー者を残す
□ 最終申請と社外主張は責任者が承認する

まとめ|AIで「判断」をなくすのではなく、判断へ時間を戻す

SBT対応でAIを使えるのは、次の八つです。

  1. 公式文書の検索・差分整理

  2. 請求書・購買データの抽出と整形

  3. Scope3カテゴリの仮分類

  4. 欠損・異常値・品質課題の検知

  5. 目標シナリオの比較

  6. サプライヤー依頼と回答整理

  7. 申請証跡の要件別整理

  8. 進捗差異と施策遅れの分析

一方、境界、除外、排出係数、目標方法、最終申請、社外主張は、人が根拠を確認して責任を持ちます。

SBTi V2.0では、目標の設定だけでなく、移行計画、進捗、ガバナンス、証拠の重要性が増しています。AIを入れる目的は、人の判断を消すことではありません。資料探しと転記に使っていた時間を、削減策、事業部との対話、経営判断へ戻すことです。

まずは、確定済みの前年データを使った一業務の試行から。AIが何を速くし、どこで間違え、誰が修正したか。そこまで記録できれば、SBT対応のAI活用は実務になります。

参考資料

※本記事は2026年7月29日時点の公開情報を基にした実務整理です。SBTi V1・V2の移行措置、手法、業種別基準、保証・申請要件には今後更新される資料があります。実際の申請では、申請時点の最新公式文書とSBTi Servicesの案内を確認してください。AIの出力は正式な適合性判断、保証、法務・会計判断の代わりにはなりません。

いいなと思ったら応援しよう!