迷路の街、トレドとエル・グレコ
スペインの古都、トレドを訪れたことがある。
「もし1日しかスペインに滞在しないなら、迷わずトレドへ行け」
そう言われるほど、中世の面影を色濃く残す街だ。
旧市街は、タホ川に三方を囲まれた高台にある。
遠くから眺めると、丘の上に古い建物が幾重にも重なり、その中から大聖堂の塔が空へ伸びている。
けれど、街の中へ入ると景色は一変する。

細い道が曲がりくねり、先へ進んだと思ったら、また別の細い道が現れる。
車が一台通るのがやっとというところもある。
まるで迷路の中を歩いているようだった。
そんなトレドは、私の好きな画家、エル・グレコが後半生を過ごした街でもある。
迷路のような道を歩いて向かったのが、サント・トメ教会だった。
ここに、400年以上前に描かれた『オルガス伯の埋葬』がある。

絵の下半分には、伯爵の埋葬に立ち会う人々が現実の世界にいるかのように描かれ、その上には、雲の向こうに広がる天上の世界がある。
一枚の絵の中に、地上と天上という二つの世界が存在している。
画集などで見てきた作品が、描かれた土地に今も残り、その前に自分が立っている。
旅先で美術を見る楽しさは、そんなところにもあるのかもしれない。
さらに細い道を歩いていくと、やがて巨大なトレド大聖堂が姿を現す。

外から見上げても圧倒されるが、中へ入ると、今度は天井の高さと装飾の美しさに目を奪われた。
そして聖器室には、エル・グレコのもう一つの傑作『聖衣剥奪』がある。

画面の中央に立つキリストがまとう深紅の衣。
周囲を取り囲む人々や暗い背景のなかで、その赤だけが強い光を放っているように見えた。
迷路のような街を歩き、教会の扉を開けると、そこに何百年も前の絵が今もある。
トレドで見た景色を思い返すと、街そのものとエル・グレコの絵が、どこか一つにつながって記憶に残っている。
