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AI時代、なぜ私たちはあえて「ノーAI」の教育から始めるのか?エンジニアの「背骨」を育てる2段階のアプローチ

現在、生成AIはコードを瞬時に出力し、システム設計の手間を大幅に削減するなど、開発現場を劇的に変えつつあります。しかし、エンジニアを育てる「教育」の最前線に身を置く人間として、私は今、非常に強い危機感を抱いています。

「AIが何でもやってくれる時代だからこそ、これからのエンジニアに本当に必要な教育とは何なのか?」

今回は、私たちが新人・若手エンジニアの育成現場で直面している「AI時代の落とし穴」と、それを乗り越えて本物のエンジニア(FDE:Forward Deployed Engineer)を育てるための、私の教育方針と基本的な考え方について熱く語らせていただきます。ITに詳しくない方や非エンジニアの方にも直感的に伝わるよう、日常の例えを交えてお伝えします。


1. AIがもたらした「教育現場の罠」:楽すぎて考えなくなる若者たち

実は昨年、私たちはAIを全面的に導入した新人研修を試験的に実施しました。そこで突きつけられたのは、私たちの想像を超える厳しい現実でした。

一言で言えば、**「ツールが便利すぎて、受講者が自分の頭で考えなくなってしまった」**のです。

AIに指示(プロンプト)を投げれば、それらしいコードや回答は一瞬で返ってきます。しかし、そのプロセスには「なぜそのコードになるのか」「どうしてこのエラーが起きるのか」を、自分の頭と手で泥臭く模索するステップが存在しません。 結果として、自分で課題を解決する力(課題解決力)が育たないまま研修期間を終えてしまうという、本末転倒な事態が起きてしまいました。


2. 日常の例えで見る「基礎がないとAIに騙される」理由

AIは「何でも知っている優秀なアシスタント」ですが、平然と間違い(ハルシネーションと呼ばれる嘘や不完全な情報)を混ぜて返答するという致命的な特徴があります。

  • 基礎がある人:AIが出した回答を見て「ここが間違っている」「この条件だと動かない」と瞬時に見抜き、的確に指示を修正(検証・デバッグ)できる。

  • 基礎がない人:AIが出した答えをそのまま信用して使い、後から致命的なトラブル(システムの動作停止や重大なセキュリティ事故)を引き起こす。

例えるなら、「外国語の辞書を丸暗記したAIに通訳をさせているが、自分自身はその言語をまったく話せない状態」です。 AIがどれほど流暢に喋っていても、その訳が本当に合っているか、おかしなニュアンスになっていないか、自分に知識がなければ判断できません。結果として、相手との会話やビジネスの関係性が崩壊してしまうのです。


3. 具体的な3つの技術領域での「あるある失敗例」

「基礎知識」を持たずにAIに依存したエンジニアが、実務や研修の現場でどのような壁にぶつかるのか。具体的な3つの領域で解説します。

① プログラミング・開発分野

  • 必要な基礎知識:変数の扱い方、処理の順番(アルゴリズム)、エラーメッセージの解読方法。

  • 基礎がないと起きること: AIに「こういう画面を作って」と指示すると、一見動くプログラムを吐き出してくれます。しかし、いざバグが起きたり、「画面のボタン位置を少しだけ変えたい」と思った瞬間、AIが吐き出した膨大なコードのどこを直せばいいのかが1行も分からないという状態に陥ります。結果、指示の出し直しを繰り返し、泥沼化してゼロから作り直す羽目になります。

② データベース(情報の保管庫)分野

  • 必要な基礎知識:データの検索方法、重複を防ぐ設計原則、アクセス権限などのセキュリティ設定。

  • 基礎がないと起きること: AIにデータ抽出の命令文(SQL)を作らせると、確かにその場では動きます。しかし、基礎知識がないと「データが100万件に増えた途端に、システムが重くなって全く動かなくなる」という性能面の欠陥や、「個人情報が外部から誰でも見られる状態になっていた」という安全面(セキュリティ)の設計ミスに全く気づけないという恐ろしいリスクを抱えることになります。

③ ネットワーク・インフラ(通信の仕組み)分野

  • 必要な基礎知識:サーバー同士がどう通信しているか、IPアドレスや通信経路、アクセス権限の仕組み。

  • 基礎がないと起きること: AIの指示通りに設定して「一見、通信が繋がった」ように見えても、トラブルで一度接続が切れた途端、手も足も出なくなります。 「通信経路の問題なのか」「アクセス権限の設定ミスなのか」「サーバー自体の故障なのか」という原因の切り分けが一切できず、復旧作業が完全に詰んでしまうのです。


4. 解決策:「ノーAI(No AI)」と「ウィズAI(With AI)」の2段階アプローチ

このAIの「落とし穴」を回避し、AIを真に乗りこなせるエンジニアを育てるために、私たちは教育モデルに「2段階のハイブリッド・アプローチ」を取り入れています。

【第1段階:ノーAI(No AI)】あえて「使わせない」から始める

新人の初期研修や基礎学習においては、あえて生成AIの使用を完全に制限(または禁止)します。たとえば「組込み育成」では、 マイコンのレジスタ操作や、電流・電圧の物理的制御を伴うC言語でのプログラム記述など、ハードウェアに近い低レイヤーの仕組みを、自分の頭と手を使って泥臭く実装させます。

「なぜ動くのか」「なぜバグが発生するのか」を自分の頭で考えてエラーを自力で解決する体験を積むことで、将来的にAIが出力したコードの良し悪しを判定し、二重チェック(監査・デバッグ)できる**「技術の背骨」**を鍛え上げます。

【第2段階:ウィズAI(With AI)】強力な武器として徹底的に使いこなす

徹底的に基礎が身体化し、「背骨」ができた後の応用演習や実務(OJT・ハッカソン等)のフェーズでは、一転してAIの活用を積極的に推奨・義務化します。 「エラーログの分析をAIにやらせる」「膨大なテストパターンの自動作成をAIに任せる」など、実務を圧倒的に加速させる「高度な道具としてのAI活用」を体に定着させ、開発生産性を飛躍的に高める訓練を行います。


5. これからのエンジニア教育:合格点数を追う「スコア主義」の終わり

AIは「代わりに作業をしてくれる手足」にはなりますが、「思考や判断を行う頭脳」の代わりにはなり得ません。

これからのエンジニア教育において、ペーパーテストで何点を取ったか、指定の言語の構文を暗記しているかという「スコア主義(合格点数)」による評価は完全に陈腐化します。 本当に価値があるのは、**「どのような複雑な課題に対して、どれだけ試行錯誤して壁を乗り越えたか」という学習プロセス(体験データの履歴)**です。

私たちは、単に「仕様通りに綺麗なコードを書く人」を育てるのではありません。 あえてAIを使わずに技術の仕組みを根本から語れる「確固たる背骨」を持ちながら、実務ではAIを縦横無尽に使いこなし、現場に深く入り込んで顧客の課題を発見し、ビジネス成果に責任を持ってコミットする、そんな**「FDE(Forward Deployed Engineer)」**のような人材を育てていきます。

「作る人」から「現場と一緒に価値を創り、成果に責任を持つ人」へ。 私たちは、この新しいエンジニア教育モデルの社会実装に向けて、カリキュラムと評価制度を抜本的にアップデートしていきます。



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