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小説「実圚人間、架空人間」第䞀話

あらすじ


 圌は食事の途䞭だった。

 口内に次々に吞い蟌たれる䞖界。そうしお意識を倱い、癜い郚屋で目芚める。曖昧な蚘憶を蟿りながら、その郚屋が珟実であるず知り、愕然ずする。

 そこで芋知った䌊東ず出䌚い、郚屋からの脱出を詊みるが──。


◇


 私は食事の途䞭だった。

 ワむン瓶片手に螺旋階段を䞊る。倩井裏から䞋郚に突出した剥き出しにされた電球。電球はだらんず垂れ䞋がっおいお、゜ケットに繋げられおいる黒いコヌドには、付着された癜いカビが、枊を巻く様に瞞暡様を描いおいる。

 真䞋に青く照った発光ダむオヌドが、舞った埃を虹色に倉色させ、思わずむせ返る。

 䞊る床に靎が朚目調に錆び付いた段差ずぶ぀かっおカンッず響く音に加え、手すりを掎むずミシリず軋きしむ぀の䞍協和音が耳に障る。

 脳が揺れる。ぐにゃりず景色が捻じ曲がる。

 熱く燃える様に目が、こめかみが脈打ち、心音が異垞に鳎り響く。瞊長の金属で猫が爪を研ぐかの様な䞍快な耳鳎りが続き、続いた。アルミ補の扉の前に立぀ず倒れる様にドアノブを捻り、僅かに開いた扉の隙間に䜓を捻じ蟌たせる。

 宀内を目にした途端、芖界が䞀気に開き芚醒する高揚感。

 耳鳎りも䞍自然に自然に脳から耳ぞ䌝わる事が無くなり、足取りも軜い。食り気の無い朚補のテヌブルに、䞋の倉庫のワむンセラヌから持ち出した赀を眮く。テヌブルに無造䜜に眮かれた゜ムリ゚ナむフを手に取るず、瓶の銖にナむフの刃を圓お半呚させる。

 切り蟌みに刃先を滑らせ芪指の腹で挟み、捻りながらキャップシヌルを切り離す。ナむフの腹に付いおいるコルクスクリュヌを匕き起こし、䞊から刺しおコルクに円を描きながら抌し蟌む。

 突劂蜟音ず共に壁が揺れた。同時に肌寒い颚が宀内に入り蟌んだ。

 閉め損ね、僅かに開いた扉の隙間に颚が抌し出しお扉が倧きく開いおは、さらに吹いた颚で勢いよく埀埩するようにしお閉たった様だ。

 ナむフの柄にあるフックをボトルの口に匕っ掛け、テコの原理で持ち手を䞊に匕き䞊げる。䞃分皋出たコルクを手で回しながら抜き取り、そのたたボトルを口に぀けた。

 アントシアニン、レスベラトロヌル、タンニン、カテキン、アルコヌル。

 それらが口を䌝っお喉を熱くさせる。そのたた胃ぞず向かい、䜓内ぞ。それらはやがお分解、消化される事だろう。

 怅子に座るず、皿にある焊げ目の倚い现切れの肉を箞で取り、頬匵る。

 私は目の前にあるステンレス補のグラスを手に取るず、暪に倒しおテヌブル䞊で転がしながら䞭を芗き蟌こんだ。グラスに映りこむ、曲線を描き、歪むがやけた私の顔。蟺りの景色ず䞀䜓ずなっお身震いする。

 先日賌入したグラス、じっず曲線を楜しむ。この質玠なフォルムがたたらない。

「  」

 思わず情けない声が出る。

 いや、正確には声は出しおはいない。ぐにゃりず曲がる。

 そのグラスの曲線が、景色が、枊を巻いお私ぞず向かっお来たのだ。

 蟺りが私の口内ぞず吞い蟌たれおいく。

 叀がけた淡い青のキャビネットも、朚補のテヌブルも、ガラス窓の付いたアルミ補の扉も、薄茶色に倉色した壁玙も倩井も、コルク、箞、皿、ナむフ、フォヌク、䜕もかもが質感を無くし、曲がり、うねる。それが䞀぀の枊ずなっお党おが入り蟌んでくる。

 やがお色は消え、音も消え、真っ癜な䞖界が広がった。

 背もたれを無くした䜓は埌ろに倒れ、地面があれば腰から着地するはずだったが、その間もなく意識が遠のいおいく。































実圚人間、架空人間































 癜が芋えた。

 勿論色の事だ。倩井だった。

 ずいうより、目を閉じおいた感芚さえ無いので、正確にはいきなり癜い倩井が目に映った。

 私は車で曞斎代わりにしおいる母の家ぞ向かっおいたはずだったが、気付けばここで暪たわっおいる。田舎で粟肉店を営んでいた母に育おられた私は、珟圚郜内で暮らしおいる。兄匟はいない。父は私が生たれる前に死んだ。

 䞀日に十䞇回拍動し、様々な芁因によっお血管の内偎が狭くなり、血液が䞍足する心臓。

 心筋梗塞。それが父の死因だず聞かされた。

 進孊の為の䞊京だったが、小説家になる倢がどうしおも捚お切れず、ろくに勉匷もせず毎日曞いた。

 貯えが無かった私は、母が事故で亡くなっおから実家の粟肉店で生蚈を立おおいたが、運よく執筆掻動が幞か䞍幞か生掻を安定させおくれた。今になっお母に恩返しできないのが悔やたれる。

 郜内から車で䞉時間。

 道䞭、小説のネタにでもなればず向かったが、しかし──。

 しかし、田舎道の山間がいきなり癜い倩井である。

 車道に攟り出された蚳でも無ければ、怪我も無い。痛みも無く、手足、䜓も動く。立ち䞊がり芋枡せば、目に映るのは蟺り䞀面『癜』。歩いおさらに芋回す。

 四角く広がる郚屋の盎埄は目枬で皋。倩井たではあるかどうかずいったぐらいか。郚屋の真ん䞭には倧きな癜い円卓があり、そのテヌブルを囲むように背もたれの付いた食りの無い簡玠な、これもたた癜い怅子が九脚䞊べられおいる。

 壁の角には成人男性が䞉人、党身を映しこめる皋の癜い倖枠にはめ蟌たれた巚倧な鏡が䞀枚、壁に立お掛けおあり、鏡を越えた䞊郚の壁には、癜い箱型のデゞタル時蚈が、壁から前方に突き出す様に蚭眮されおいる。

 幅は鏡ず合わせられおいお倩井たで䌞びおいる。珟圚。

 時刻を瀺す色も癜で統䞀されおいるが、光が攟぀淡い数字は、壁や箱の濃い癜色ず混ざる事も無く、癜のグラデヌションずなっお、しっかりず遠くからでも芖認する事ができた。

 意識もはっきりずしおいお重力も感じられるので、䜕らかの事故で息絶え、死埌の䞖界に蟿り着いたずいう蚳でも無さそうだが、窓も無ければ、照明噚具すら芋圓たらないこの郚屋の芖界は良奜だ。

 この明るさは、どこからか光が郚屋を照らしおいる事を蚌明しおいる。

 が、䜕かがおかしい。

 テヌブルや怅子は芋るからに人為的に䜜られおいる。恐らく朚材を癜く塗装した物だ。

 この郚屋は癜いクロスが匵られおいるず、壁や倩井を芋お刀断が付くし、角もしっかりず分かる。

 物の質感や、近寄れば僅かな凹凞が確認できる。凹凞が芖認できるずいう事は圱があるずいう事。しかし、私に圱は無い。自身に圱が存圚しない。さらには、鏡の前に立぀ず自分の姿が映らない。郚屋はしっかりず映り蟌んでいるが自身がそこに映りこむ事が無い。

 倪陜や電灯等の光源がある事で、光を発しない物䜓の衚面に四方八方に跳ね返り、その跳ね返った光が目に入る事で初めお物䜓を芋る事ができる。

 レヌザヌポむンタ等で暗闇を照らせば、光は盎進しお䜕かに圓たる。鏡に圓たれば反射し、反射した光も盎進しおいお、入射角、反射角を倉える事で方向が倉わるが、曲線を描く事は無い。これを光の盎進性ずいう。

 自分の姿が鏡で芋れるのは、経路䞊で光の向きを反察にする事で、来た経路を戻る事を意味する。光の進み方は可逆的であり、これを光の逆進性ずいう。

 しかし、光を反射するのは鏡だけでは無く、あらゆる物䜓を反射しおいお、䟋えば、この郚屋の癜い壁玙はほが党おの光を反射する。が、鏡のように物䜓が映る事は無い。

 壁玙の衚面には小さな凹凞があり、ここに光が圓たる事で乱反射しお光が幟重にも重なる為、鏡の様に物䜓が映りこたないのだ。

 歩き回れば必ず䜕凊かに圱が珟れるはずだ。手で芆えばそこに圱が珟れるはずだ。だが、私の圱は䜕凊にも存圚しない。光の法則性に反しおいる。宀内の明るさはごく䞀般的な電灯を䜿甚しおいる郚屋の明るさであるにも関わらずだ。

 詊しに鏡を少し揺らしお芋る。映りこむはずの物をそこに立䜓的に描いおあるだけかも知れない。だが鏡はしっかりず物を捕らえおいた。絵が揺れる事は無かった。角や凹凞、質感が芖認できるずいう非珟実が、この郚屋で共存しおいお䜕も説明が付かない。

 倢でも芋おいるのかも知れない。

 しかし、ここたで意識がはっきりずする事などあるのだろうか。

 倢ならばがやけた曖昧な感芚、もしくは意図しない展開を自身の芖点で傍芳する事が倚いはずだ。手に取れたずしお感芚もあったずしお、挠然ずただそこにあるずいう感芚がここに無い。しっかりずした認識もあり、ここは写実的であるず蚀える状態が私にある。

 だずすればここは䞀䜓䜕なのか、やはり死埌の䞖界で、私は  。

「ひい、らぎ、さん   柊さん、柊さんですよね」

 離れた䜍眮、背埌から声が聞こえた。同時に、こちらに駆け寄る足音も聞こえた。倚少驚きはしたが、声から誰かは予想が付いた。振り返り、その声の䞻を確認する。

「䌊東です、あなたの担圓の」

 名は唯可、女性。

 曞房出版瀟の線集郚所属。

 私の曞いた原皿を印刷所に補本を䟝頌したり、圢になる際に宣䌝甚のコピヌ、売る為の戊略、果おはストヌリヌの考察たで幅広くサポヌトしおくれる。

「  䜕故君がここに」

「ここは䞀䜓、䜕凊なんですか」

 圌女が蟺りを芋回す。

 信じられないずいった様子だ。

「私は君より先にここに着いたが、私もここが䜕凊かは分からない」

 私はこれから話す事を躊躇ためらい、思わずため息が出る。実にくだらないが、そのくだらなさが珟実であるからだ。

「足元を芋お」

 䞋を向き、巊に銖を捻り、次に右に、圌女はたるで自分の尻尟を远い回す犬かのように、埌ろを回るようにしお足元を芋た。

 私の方に螵きびすを返し、銖を傟げる。

「足元、ですか   䜕も無いようですけど」

「そうだ、圱が無いんだ」

 ああヌず声をあげお再床足元を芋お、やはり銖を傟げた。毎床の事ながら圌女の動きは䜕ず蚀うか萜ち着きが無い。アクションがオヌバヌだ。そんな圌女を芋おこれは珟実であり、ここは実圚するんだなず考えさせられた。

「考えるのも銬鹿らしいが」

 たじたじず足元を確認する圌女に、私はさらに続けた。

「ここに着く盎前でさえ急で、実家に向かっおいたら䜕の脈絡も無くここで暪になっおいたし」

 圌女が怪蚝けげんな衚情を浮かべた。ように感じた。構わず続けた。

「車に乗っおいるはずの私が、ぱっず画面が切り替わる様に  」

 私はそこで、蚝いぶかしげな圌女に違和感を芚えお口を噀぀ぐみ、

「  君は違うのか」

 ず続けた。

「  私は、私は家の物党郚が口の䞭に吞い蟌たれおいっお、この郚屋に倉わりたしたよ」

「  」

「芋おるものが党郚ぐるぐる回っおどんどん吞い蟌たれたんですよ。私の口の䞭に。掃陀機で吞ったみたいな感じで回りが消えおいっお、埐々にこの郚屋が芋えたんですよね」

 䜕ずいう事だ、銬鹿銬鹿しい。

「  ずおも信じ難いが、吞い蟌たれたずいう事は自分の意思では無いんだな」

 間の抜けた質問、蚀った盎埌に右手で思わず口を芆っおしたう。

「違いたすよ、そんな事できる蚳無いじゃないですか」

 圓たり前だ。

 圌女の蚀う通り、私はどうかしおいる。

 ここが珟実䞖界であれば口の䞭に吞い蟌たれたなんお話、間違い無く信じない。信じないが、この状況で嘘を蚀っおいるずは思えず、圌女もこんなくだらない事を蚀うタむプでも無いし、私の間の抜けた質問にもしっかりず答えおいる。

 それを、さも圓然ずいう蚀い回しでも無く、有り埗ない事だずいう口ぶりで説明しおいる。

「その話が本圓だずしおも、いや、もう珟実かも分からないが  」

 互いに少しの沈黙、考えがたずたらない。

 ただ、乱雑された思考を攟棄しお、突っ立っおいる自身を客芳芖する冷静さはあった。䜕ずなく右䞊に持っおいった芖点、デゞタル時蚈が目に入った。珟時刻は倉わらずを衚瀺しおいた。

「柊さん、䞀぀お聞きしたい事があるんですけど  」

 口火を切ったのは圌女だった。

「䜕だ」

「その  」

 突然蟺りの気配が倉わる。空気が倉わったずいうか、劙な圧迫感を芚える。

 圌女もそれを察したらしく、芖線が私の埌方ぞ向いた。

 私もそれに合わせお銖、そしお胎䜓ず順に巊に回し背埌を確認する。

「  」

 息がかかる皋の距離に耇数の人の姿があった。

 思わずたじろみ、足が瞺も぀れ、埌ろぞ぀んのめる。躓぀たづく事は無かったが、䜓勢を敎えるのに時間がかかった。

「䜕や、ここは」

 県鏡をかけた癖毛の青幎が、誰に蚀うでも無く呟いた。

 他は皆、驚きの衚情でその堎に立っおいる。

 目の焊点を合わせる為だろうか、圌の癖だろうか、関西匁の男は自身がかけおいる䞞県鏡のレンズ回りのフレヌムを巊手で掎み、クむッずミリ皋床、䞊に䞊げる。そこから県鏡の䞭倮にあるブリッゞを䞭指で抌し䞊げた。

 猫背が嫌に目立぀男だ。

 肌も異様に癜く、普段から日を济びおいない事が想像できた。

 しかし、薄茶色のトレンチコヌト、䞭のトップスは薄い青のニット、黒目のスキニヌゞヌンズを着甚し、靎は淡いアむボリヌ色のスニヌカヌを履いおいる。

 ただ生たれ持っお肌が癜いのか定かでは無いが、この出で立ちからするに、ここに珟れるたでは倖で過ごしおいたず考えさせられた。垞に郚屋に篭こもっおいる蚳でも無いのかもしれない。

 さらに巊右に二人の男女。

 私から芋お巊に居る男は、男性ずいうより男の子だった。

 ただ未成幎だろうか、cm皋ある私から芋おも盞圓に身長に差を感じる。肩よりも䞋であたりに䜎身長である。幎の頃は十歳にも満たないかもしれない。玫のキャスケットを被っおおり、身長差ず深めに被る垜子ず盞たっお、錻先より䞊が芖認できない。

 顔を確認しようず、目線を萜ずしお巊に右に顔を振っお、たじたじず垜子の少幎を芋おいるず、

「  䜕芋おんの、うっずおしいんだけど」

 ず、少幎。

 私は思わず笑っおしたった。

「あ、いや、ごめんな」

 私の笑いに、たすたす䞍機嫌になるのが芋えた。

 しかし、これだけ深く垜子を被っおいるのに、この子からは私の芖線は感じ取れるようだ。

 そこで右の女が口を開いた。

「ここは䜕凊」

 この第䞀声、皆が思う事だろう。

「わからない」

 私は答え、さらに続けた。

「わからないが、私達二人はあなた達より先にここに来た」

 女は少し苛立った様子で、右足で小さく䞊䞋にリズムを取る。螵かかずが地面に付くのか、時折カッず、宀内に響く。甲は芆われおいお、぀た先の郚分だけが開いた黒いブヌティ。足の爪はマニキュアで赀く塗られおいる。

「あら、そう」

 ず、女。

 ほうれい線のシワが目立぀、黒のロングヘアヌ。芋た所代埌半。

 手には小ぶりな茶色のショルダヌバッグが握られおいる。癜の匷いアむボリヌ気味のロングカヌディガン、䞭は恐らく黒のキャミ゜ヌルか。淡い青のゞヌンズ生地のむヌゞヌパンツはハむり゚ストで履かれおいお、巊偎面にラベルの付いたリブ線みされた鈍い青のニット垜は、䞊郚が突出しおいる。

 前觊れ無く女は、手に持぀鞄からスマヌトフォンを取り出した。

「電話は繋がるみたいね」

 そう蚀っお、こちらにはたったく興味が無いずいった様子で䜕凊かにかけ始めた。我関せず堂々ずしおいお冷静、それがこの女の印象。

 䜕床か女がかけ盎しおいお、皆は終始無蚀で女を芋おいる。

「駄目だわ、譊察にかけおみたけど繋がった途端切れるわね」

 この短い時間、この状況䞋でたったく慌おる様子も無く敎然ず番する女。

 冷静を通り越えお奇劙。敵に回すず厄介だなず想像しおしたう。珟時点でこの䞭のリヌダヌはこの女になっおいるずいっおもいい。そんな気配ず空気、人を掌握する䜕かを持っおいる。異様だ。

「  ネットは繋がるんか」

 そう蚀っお男は巊䞭指で自身の県鏡のブリッゞに觊れる。

「無理ね、メヌルすら確認できないわ」

 むンタヌネットであったり、電話をかけるずいった共通の蚀語、蚀葉が通甚する。それは圌ら、圌女らが同じ䞖界にいる事を蚌明しおいる。囜は少なくずも日本。

「君らは䜕凊から来たんだ」

 私の䞀番の疑問を投げかけた、唐突に。

 䌊東の事はわかるが、圌らは誰なのか急に怖くなる。䞍気味になったのだ、今のやり取りで。

 冷静な女。突劂珟れた䞉人。䌊東を含めお怖い。

 薄ら怖い。

「䜕凊蚀われおもなぁ」

 少し間を空けおから、躊躇ためらいがちに、

「別に信じんでもええけど」

 ず、語り始めた。

「映画芋おたんや、䞀人で。最近公開しおるや぀で、その日は誰誘っおも来えぞんかったから」

 映画。

 やはり、異次元から来た䜕かでは無いらしい。共通蚀語が党お合う。

「その映画は䜕おタむトルだ」

 少し間が空いお、

「そんなん聞いおどうすんねん。たあええわ、これや」

 男が䞀枚の玙をコヌトの右ポケットから取り出し、目の前で広げ、芪指ず人差し指の二本で䞊郚䞭倮を挟み、垂らす様にしお私に芋せた。

「あっ  」

 思わず声が出た。タむトルに芋芚えがあったからだ。

「䜕驚いおんねんお前」

「あ、いや、その映画知っおるなぁ、っおね」

 適圓に返答した私に「ひょっずしおやばい人」ず聞かれたが、それには答えなかった。

 しかし、これで私ず同じ時間軞から来おいる事が想定できる。

 時間、それは垞に流れ、ここに蟿り着くたでにも流れおいる。圌ず私ずのここぞ飛ばされた時間差は䜕を意味するのか、䞀぀確認したい事がある。それを圌にぶ぀けおみた。

「映画を芋おいたら気付けばここに居たずか、そんな事、蚀うんじゃないだろうな」

「そうや、その通り、お前も䌌た感じで歀凊ここに来たか」

 どう答えたら良いかず、その質問に察しお劙な䞍安を感じる。蚘憶が曖昧になっおいるような気がした。

「ずにかくただ、映画芋おただけやね」

 返答に困っおいるず、圌はそう続けた。

 芖界に入ったデゞタル時蚈は倉わらず。䜓感ではもう数十分は経過しおいるはずだが、ただ故障しおいるのか、ここでは時間の抂念が無いのか、そもそもあれは時蚈では無いのか。

 だずすれば䞀䜓あれは䜕を瀺しおいるのだろうか。

「柊さん」

 背埌から唯可の私を呌ぶ声が聞こえた。

次回▷ 「第二話」


▜第䞀章 「実圚人間、架空人間」


▜第二章 「fictitious線」


▜第䞉章 「完結線」


▜党章


いいなず思ったら応揎しよう