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強烈平手打ちをくらったこと

書店員になって、受けた洗礼

ある日、「孫にな、本買いたいねんけど、どれがええのん?」と、やや雑な物言いの、60代くらいの女性のお客様に話しかけられました。

見ると、つけまつげバチバチで、金髪、真っ赤なネイル、アニマル柄の服に、ぴたぴたスパッツにミュール、という、テレビで見る「派手な大阪のおばちゃん」を絵に描いたような風貌のお客様でした。

「絵本にされますか? それとも、読みものがよろしいですか?」

とおたずねすると、

「あんたな、うちの孫、小学校5年やで。絵本なんて、そんなん、幼稚園の子が読むやつやろ。 読み物。ほんで、女の子な。」

とのお答え。

…もちろん、小学生でも読み応えのある、いい絵本はたくさんあります。
でも、お客様が「読み物」を探しているとおっしゃっているので、児童文学や高学年向けの読みものの中から、おススメしようと思い…

「お孫さんはたとえばなにか好きな物とか、好きなこと、ハマっていることとかありますか? たとえば趣味とか習い事とか.…」

と聞くと、

「一緒に住んでるわけちゃうから、そんなん知らんわ。」
とのこと。

次に、「日頃、本を読むのはお好きなお子さんですかね?」と聞いてみました。

小学校5年生ともなると、読書経験の差がものすごくあって、ロングセラーの読み応えのある児童文学を楽しんで読む子もいれば、物語は嫌い、占いなどの実用書的な物しか読まない、という子もいれば、コミックの小説版のようにエンタメ性の強いものしか読まない子、知識が得られるもの、ファンタジー系や歴史から恋愛ものまで、ジャンルや文体の好みが全然違うのです。

ただ、当時の店の児童書売り場には、エンタメ性の強いもの(占いやUMAなどの科学的根拠の裏付けがないもの、キャラクターものなど)は置いておらず、どちらかというと、ロングセラーに重きを置いたラインナップになっていました。

そんなやや限られた選択肢の中から、その子に合う読書のタイプ、ジャンルを探ろうと、お聞きしたのです。

すると、突然、私のその質問に、ややかぶせ気味に…

「あんたな、さっきから、質問ばっかりしてきて、うっとおしいねん!!
そんなに質問攻めにされても、知らんやん!! 尋問受けてるみたいやわ!! 気分わるい!」

と強い口調で言われたのです。そして、

「もうな、なんでもええねん!!! 一番人気のあるやつ教えてくれたらそれでええねん!! …ほんっま、あんた、めんどくさいわ~!!!!」

と。


…初対面の赤の他人から、いや、家族からもそんな言葉を投げかけられたことがなかった私は、強烈な平手打ち(往復ビンタ)をくらわされたような、ものすごい衝撃を受けたのでした。

そして、同時に、相手の希望に沿おうと、よかれ、と思ってしたことも、ただの自己満足でしかないこともあるのだ、と、身をもって理解したのでした。

それでも、やっぱり、「人気がある」というのは、「長く愛されているロングセラー」なのか、それとも「新しく出た今流行のベストセラー」なのか、で全く違うのです。

その時は、せっかく、お孫さんのために、ゲームでもおもちゃでもなく、「本」を選ぼうとしていらっしゃる目の前のお客様と「本」とのつながりを断ちたくない!という一心でした。


…なぜなら、それは、お孫さんと「本」とのつながりが切れることへつながるからです。

子どもたちの手元に「本」が届くには、大人たちの「本を手渡そう」という思いがどうしても必要なのです。


ただ、お話を聴いていて、そのお客様が希望していたのは、「とにかく、今、売れている」読み物なんだな、と思ったので、

ひとつは、ロングセラーかつ、当時、すごく話題になっていた

吉野源三郎の『きみたちはどう生きるか』(たしか、漫画版だったと思います)

『漫画 君たちはどう生きるか』 吉野源三郎 原作 羽賀翔一 漫画

もうひとつは、エンタメ性の強い、でも、動物や生き物への興味や知識がひろがる、爆発的に売れていた『ざんねんないきもの事典』シリーズ


『ざんねんないきもの事典』 今泉忠明

をご案内しました。

「長く、この先、人生で何度も読み返せるのは『きみたちはどう生きるか』だと思います。でも、今すぐ、笑って、楽しめるのは『ざんねんないきもの事典』です。でも興味も広がると思います。子どもたちが好きなのは、『ざんねんないきもの事典』だと思います。でもどちらも、今、とても人気があってよく売れています。」

と、お伝えして、見本をお渡ししました。

すると、「ああ、そうなん。 わかった、ちょっと見てみるわ。」とそっけなく言って、二つの作品の見本を受け取られました。

私は、そばにいると、きっとまたうっとおしいと思われると思い、そそくさとその場を離れました。


しばらくして、レジカウンターに来られたそのお客様は、

「これもらうわ。 ラッピングして。」と


『きみたちはどう生きるか』 


を差し出されたのです。


この時、私は、「人を第一印象だけで判断してはいけない」

ということも、身をもって理解したのでした。
書店員になりたての私が受けた、強烈な洗礼でした。

「これ、ええわ。今は難しいかもしれへんけど、こんなん読んでほしいねん。」と言って、ラッピングした本を受け取られ、「きれいにリボンしてくれたんやな。ありがと。」と帰っていかれました。


お孫さんが、その後おばあちゃんからもらった『きみたちはどう生きるか』を読んだのかどうなのか、はわかりません。

それでも、もし、お客様がお孫さんにその本を手渡したとしたら、彼女の人生の中に一瞬でも「あなたはどう生きるか?」という問いが投げかけられた瞬間があり、その字面や本の表紙の絵を目にする瞬間があったわけです。

本を全部読まなくても、題名をなんとなく知っている。

「たしかおばあちゃんがこういう本くれたけど、結局、読まなかった。」でもいい、「読んでみたけど、わけがわからなかった。」でもいい。

読んでみて、楽しめたら、そして、もし、そこから、なにか考えることがあれば、万々歳!最高!

とにかく、おばあちゃんがその本を、その子に手渡した、そのこと自体が大切なのだと、思いました。


そして、往復ビンタの平手打ちをくらった後に、あきらめずに2つ、提案してよかった、と、しみじみ思いました。

…それにしても、私の心には、往復ビンタのもみじの手形がくっきりとついたまま、しばらくずっと消えなかったことは、言うまでもありません。

















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