なぜ企業に「セキュリティチェックシート」が求められるのか?予算ゼロからの対応と「経営の武器」への転換
「取引先からセキュリティチェックシートが送られてきたが、専門用語ばかりで意味がわからない」
「予算も人員も限られている中で、どう対応すればいいのか……」
現在、多くの中堅・中小企業の現場がこのような切実な悩みを抱えています。
このような課題を解決すべく、2026年3月24日、株式会社マーケメディア主催のセキュリティセミナーが開催されました。
本レポートは、同セミナーに登壇した弊社 マーケティング部 部長 坂田が、予算ゼロからのセキュリティチェックシート対応について解説した講演内容をもとに構成しています。
◆なぜ今、「セキュリティチェックシート」の依頼が止まらないのか?
大企業が自社のみならず、取引先のセキュリティ体制を重視するようになったのはなぜか。
坂田氏は、社会的な背景、巧妙化する攻撃の脅威の変化、そしてサプライチェーン全体でビジネスを守るという目的の3つの観点から、以下の要因を解説しました。
理由1:ITの普及により、企業間のシステムが「繋がりすぎた」から
現代のビジネスは、クラウドやシステム連携で他社と密接に繋がるのが当たり前。効率は上がりましたが、同時に「自社では見えない領域(取引先のネットワーク)」が拡大しました。
この「見えない繋がり」が、攻撃者にとって絶好の裏口になっています。
理由2:大企業ではなく「取引先」を狙う攻撃が急増しているから

セキュリティには「桶の理論」という考え方があります。どんなに高い板(強固な対策)を並べても、1枚でも短い板(脆弱な箇所)があれば、そこから水(情報)は漏れ出します。攻撃者は、 正門が固い大企業を避け、ガードの甘い関連会社や委託先から侵入します。
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、サプライチェーン攻撃は4年連続で2位にランクイン。もはや「狙われるのは大企業だけ」という常識は通用しません。
理由3:「監視」ではなく「健康診断」
大企業にとって、取引先の対策不足は自社の致命傷に直結します。そのため、相手の状況を確認せざるを得ません。しかし、チェックシートの目的は「粗探し」ではありません。ネットワークという一つの共同体を守るための「健康診断」です。
お互いの健康状態(セキュリティレベル)を可視化し、共にビジネスを継続するための不可欠な共同作業として、社会全体で定着しているのです。
◆チェックシートの今の課題と、2026年に向けた「国の動き」
1.現場の疲弊:企業ごとに質問や基準がバラバラで回答負担が大きい現状
坂田氏は、回答側の現場を悩ませている大きな原因として「国が定めた統一基準が存在していないこと」を挙げています。
基準がないため、取引先ごとに質問項目や評価の観点が異なっているのが実情です。「チェックシートの内容が作成者の力量に依存してしまうため、質問が150項目以上に及んだり、自社の実態に合わない質問が混ざったりするケースも発生している」と坂田氏は指摘しています。
その結果、異なる基準のシートごとに似たような内容を何度も作成する個別対応が必要となり、現場の人的負担やコストが膨大になっています。
2.2026年秋、ついに「共通の評価基盤」が始まる
こうした現場の疲弊を解消し、サプライチェーン全体の防御力を高めるため、現在、経済産業省を中心に新たな仕組みづくりが進められています。 それが、2026年秋から運用開始予定の「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」です。
この新制度について、坂田氏は「取引先に求める対策項目や基準が明確になることで、公平な評価の実現や回答企業の負担軽減といったメリットが生まれる」と、強い期待を寄せています。
◆取引先からの信頼を失わない「正しい回答のスタンス」

チェックシートが届くと、内容の難解さや対策不足から頭を抱えてしまう担当者は少なくありません。坂田氏は、取引先からの信頼を損なわず、むしろ自社の評価を高めるための「正しい回答のスタンス」として、以下の2つの重要なポイントを提示しました。
1.誠実な回答と改善計画の提示
絶対にやってはいけないのが、その場しのぎの「嘘の回答」です。
万が一、事故が起きた際に嘘が発覚すれば、法的な責任問題にまで発展します。
現時点で対策が不十分でも即座に失格となるわけではありません。大切なのは、「いつまでに、どのように対応する計画なのか」という今後の改善予定をしっかりと明示することです。このような誠実な対応と前向きな姿勢を示すことが、結果的に取引先への安心感と信頼に繋がります。
2.組織の信頼を決定づける「経営トップの意思表明」
完璧な回答を並べても、現場の担当者に「丸投げ」されている気配が伝わると、取引先は不安を感じます。
経営トップが「セキュリティは経営課題である」と認識し、自ら号令をかけているかどうかが重要です。
◆ゼロからでも大丈夫!すぐできる「はじめの一歩」
「セキュリティ対策と聞くと、高価なシステムの導入が必須だと考えがちですが、それは誤解です」と坂田氏は指摘しています。
予算や専門知識が限られている中小企業でも、取引先の信頼を勝ち取るために「今すぐ実践できる具体的なアクション」を解説しました。
1.「SECURITY ACTION」の★1・★2からスタート
社内に明確なセキュリティ基準がない企業に対し、坂田氏がまず推奨するのが、IPA(情報処理推進機構)が提供している国の無料制度「SECURITY ACTION」の活用です。
★1(一つ星):対外的な「意思表明」
「情報セキュリティ6か条」への取り組みを宣言するものです。2026年に従来の5か条へ「バックアップを取ろう!」が新たに追加され、現在の6か条となりました。これを行うことで、セキュリティ対策に真摯に取り組む姿勢を社外へ示すことができます。
★2(二つ星):本格的な対策への「準備運動」
「情報セキュリティ基本方針」の公開と、「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」の実施が必要です。自社の現状を客観的に把握し、具体的なルール作りを始めるための重要なステップとなります。
2.情報資産の洗い出しと現状把握
セキュリティチェックシートへの対応において、情報資産の洗い出しと現状把握は「回答の根拠となる最重要プロセス」です。
課題がわからないままツールを導入するのは、原因を特定せずに薬を飲むようなもの。根本的な解決にはならないと坂田氏は指摘しています。
●自社の「情報の地図」を作る
まずは現状を可視化し、「情報の地図」を作成することです。
最初は完璧を求めず、社内にあるPCの台数、Wi-Fiルーターの設置場所、契約中のクラウドサービス、そして重要情報の保管場所などをリストアップすることから始めます。
●「合鍵の管理」でリスクを最小限に抑える
「情報の地図」ができたら、次は「合鍵の管理(アクセス権の整理)」を行います。
例えば、退職者のIDがそのまま利用できる状態になっていないか、アルバイト従業員がすべての重要データを閲覧できる状態になっていないか、といった点を確認します。
こうした不要なアクセス権を削除するだけで、システムコストを一切かけずに、大きなセキュリティリスクを未然に取り除くことができます。
◆視点の転換:セキュリティ対策は「コスト」から「経営の武器」へ

2026年秋、経済産業省が主導する新制度が始まると、すべての企業が「同じ尺度」で評価されるようになります。もし、自社と競合の「サービス」や「価格」が同等だった場合、発注側はどこを決め手に取引先を選ぶでしょうか。
「経営層がしっかりとセキュリティ対策に取り組んでいる企業であれば、それが品質や価格以外の新たな差別化要因になり得る」と坂田氏は語ります。強固なセキュリティ体制の構築が、受注を勝ち取るための強力な武器になるというわけです。
さらに、セキュリティ対策の第一歩となる「SECURITY ACTION」の自己宣言は、国や自治体の各種補助金・助成金の申請や加点要件にも設定されています。
「無料でできる自己宣言を行うことで、さらなるIT投資やシステム強化の原資を獲得することにも繋がる。チェックシートへの対応を単なる負担と捉えず、取引先の信頼や支援資金を勝ち取る機会と捉え直すことが重要だ」と坂田氏は力説しました。
この視点の転換こそが、これからの時代に持続的な成長を遂げるための、非常に重要な経営戦略になるはずです。
◆チェックシート対応で迷った時の「伴走者」:EGセキュアソリューションズ
いざ自社で取り組もうとすると、「この回答で本当に大丈夫?」「そもそもルール作りを誰がやるの?」といった実務面での壁に直面するのは、ごく自然なことです。
本セミナーに登壇した坂田氏が所属するEGセキュアソリューションズ株式会社では、こうした中堅・中小企業の切実な悩みを解決するために、リスクアセスメント・セキュリティ対策の伴走支援・セキュリティ教育など、組織の実情に寄り添ったサポートを提供しています。
自社だけでの対応に不安を感じたときは、組織の健康を支えるパートナーとして、お気軽にご相談ください。

参考情報
IPA(情報処理推進機構)
「★★二つ星」:5分でできる!情報セキュリティ自社診断」と「情報セキュリティ基本方針
IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威2026」
2026年秋開始のSCS評価制度の構築方針
