蕎麦屋日記(2026.4.10)
二十年ほど前この街に越して来た時から、蕎麦屋があることは知っていた。
古く薄汚れた蕎麦屋だった。
店頭のショーケースの食品サンプルは色褪せて埃がついていた。
「ここ営業してるの?」
と思いながら素通りすること二十余年。
ツイッター(X)に女性客がこの店、日乃出庵を投稿していた。
ふつうに女性客が入れる店らしい。
というわけで昨日の昼時、勇気をふるって初入店した。
意外なほど客が多かった(いやランチタイムだってば)。
店員さんも快く迎えてくれる。
とはいえやはり……古い。
かな~り古い!!
(二十年前から古かったし)
言ってしまえばトイレは和式便器に洋式便器のカバーを被せた形式である。
けれど薄汚れてはいない。
むしろ清潔極まりない!!
ランチタイムで満席だが、どのお客さんも静かに食べている。
〝節度〟という言葉が思い浮かぶ。
店員さんもお客さんも節度があるのだ。

ランチメニューの方が安いのに、つい五目そばを注文してしまう。
高額商品1,080円である!
麺は細麺。
江戸前の茶色くしょっぱいおつゆ。
とろろも海苔も青菜も蒲鉾も入っている。
天ぷらは胡麻油を少し使ってるのかな?
茶色く揚がった海老天は最後までアツアツだった。
落ち着いた町蕎麦屋。
地元の人が普段使いにしている店らしい。
いや私ももう地元BBAなのだけど。
「お父さんの具合は?」
とお客さんが娘さんらしき女店員に訊いている。
厨房にいるのはお母さんらしい。
何かイレギュラーな事情でお父さんは店に出ていないのか?
このとても良い雰囲気は覚えがある。
いつかどこかで感じたことがある。
ああ、そうだ!
先月行った五十沢温泉旅の途中で寄った浦佐駅前のお店。
温かい雰囲気はあそこによく似ているのだった。


上越と関東、とても離れているけれど地方にはこんな温かい店が普通に残っているのだなあ。
そういえば、こういう雰囲気は地方温泉の共同湯にも似ている。
わずかな硬貨を料金箱に投入して戸を開ければ、いきなり湯殿になっているシンプルな外湯。
またはきちんと番台があって係員に料金を支払う銭湯形式の外湯。
地元の方々が管理して、朝に夕にと風呂桶を持って浸かりに来る。
そしてたまさかやって来る旅行者も温かく迎えてくれる。
そんな外湯は町中華、町蕎麦屋に並ぶ町温泉と呼んでも差し支えないかも知れない。

こちらは番台がある


シンプルな小屋に脱衣棚と浴槽があるだけ
いや、何だか話が広がり過ぎたな。
すまなんだ。
日乃出庵の話である。
このようなお店は私が越してきた頃はもっとたくさんあったに違いない。
けれど私にはどうにも入りづらかったのだ。
人見知りで引きこもりがちだから仕方がないけど。
まして若い女性の身であれば。
いっそ全国チェーンの店の方が勝手がわかっていて入りやすい。
そうこうしているうちに二十年……消えた店もあるだろうな。
(地元情報筋によればこの蕎麦屋は先代までは理髪店だったという。当代が大転換したらしい!)
しかし私はもう若い女性ではない。
はっきり言ってBBAである。
こういった地元の趣のある小さな店にも自信満々で入れる白髪頭なのだ。
そうして気がついてみれば、それは寄席や落語会も同じである。
「こんな若い娘が落語を聞きに!?」などと奇異な目で見られることもない(昔の話です。今の寄席は若い娘も多い)。
思わず「ああ!」と膝を打つ。
この蕎麦屋客の年齢層は完全に寄席と被っている。
そうかそうかそうだったのか。


ジモティー蕎麦屋は温泉外湯であると同時に寄席でもあったのだ!
なるほど、そういうことだったのか。
いや、どうにも話が広がってばかりだが。
というか普通に暮らして町を歩いている人々には当り前のことなのかな?
若い頃は引きこもってばかりだったBBAには全てが珍しいのだよ。
すまなんだ。
それに昨日は地元スペシャリテコーヒーの文句ばかりだったから、今日はちょっといい話をしてみたかったわけ。
心和む地元蕎麦屋の話でした。
どっとはらい。
