結界の向こうとこちら
落語家は高座で座布団に座るとまず扇子を前に置く。
落語家と客との間に扇子で結界を作るのだ。
同じ寄席の中にいても演じる側と見る側は立場が違う。
落語家は弟子入すると客席から高座を見ることは許されない。
結界の向こうとこちらに分かれるのだから。
どうしても見たい高座があれば「勉強させてください」と楽屋入りして、袖から覗き見するだけである。
とある落語家の急逝が公表された後。
ツイッター(X)に同期の某落語家からこんな呼びかけがあった。
「2人で撮った末広亭の写真誰かくださーい」
即座に末広亭で二人がトークをした撮影タイムの写真が返信された。
他の人からも続々と同じ日の写真が届いた。
何しろ結界の向こう側である。
本来ならば撮影タイムに客席から撮った写真を落語家本人が見ることは叶わないのだ。
特別な企画でカメラマンでも入っていない限り。
客はそれを知っていて黙って写真を送信したのだ。
こういうやりとりに私はひそかに感動するのだ。
そしてこんな場で公開してしまう。
私のような人間を野暮天と言う。
どっとはらい。
