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【Spotifyの横道から 第7回】Button Masher『星のカービィ』に聴こえるのに全然知らない曲だった

Spotifyのおすすめで、Button MasherとDj Cutmanというアーティストの「Super Tek It」という曲が流れてきました。

音色やアレンジが、完全に『星のカービィ』です。
ですが、聴いたことのない曲でした。
知っているゲーム音楽に似ているのに、実際には知らない曲。
この感触が面白くて調べてみました。

元の曲はCafunéの「Tek It」だそうです。
それをカービィ風にアレンジしたのが「Super Tek It」でした。

Button Masherの曲から先に入って、あとから原曲を聴く。
そういう聴き方があることに、今回気づかされました。

今回は、Button Masherの曲と、その元になった曲の両方を紹介したいと思います。

Button Masherについて

Button Masher(ボタン マッシャー)は、ジャズやフュージョンといった音楽ジャンルとチップチューンを組み合わせたスタイルを用いるアメリカの編曲家、電子音楽家です。

https://buttonmashermusic.com/about

2022年、Charlie Rosenとの共同編曲による「Meta Knight's Revenge」(『星のカービィ スーパーデラックス』のBGM「メタナイトの逆襲」をビッグバンド・ジャズにアレンジした楽曲。演奏はThe 8-Bit Big Band)が、第64回グラミー賞の最優秀インストゥルメンタル/アカペラ・アレンジメント賞を受賞しました。

そのButton Masherが2023年に発表したのが、アルバム『Super Standards』です。

12曲のジャズ・スタンダードをスーパーファミコンのゲーム音楽のスタイルで演奏し直したアルバムで、実際のSNES用ハードウェアとSuper MIDI Pakを使い、『スーパーマリオワールド』『スーパードンキーコング』『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』『星のカービィ スーパーデラックス』『クロノ・トリガー』などの音楽として解釈したと公式ページに記されています。
今回はこのアルバムを中心に、Button Masherの作品を紹介していきます。


How to Chiptune (Theme Song)

この曲は『Super Standards』の収録曲ではないのですが、テーマソングと付けている通り、彼の楽曲のスタイルが良く分かる曲だと思います。「Super Tek It」では『星のカービィ』を連想させられましたが、この曲では『スーパーマリオ』が浮かんできます。

Infant Eyes

Wayne Shorterの原曲「Infant Eyes」は、1966年発表のアルバム『Speak No Evil』に収録されています。
Button Masher版は『クロノ・トリガー』風のスタイルで演奏されていますね。

My One And Only Love

この曲は、Guy B. WoodとRobert Mellinによるスタンダードです。
フランク・シナトラが最初にとりあげたことで有名になったそうです。
Button Masher版では、『ゼルダの伝説 』を思わせるスタイルで演奏されています。


ゲーム音楽のアレンジと権利について

ここで少し寄り道をさせてください。

『Super Standards』に収録されている曲は、もともとジャズ・スタンダードです。
「Infant Eyes」の権利はWayne Shorter側に、「My One And Only Love」の権利はGuy B. WoodとRobert Mellin側にあり、任天堂やHAL研究所はそもそもこれらの曲の権利者ではありません。

Button Masherがやっているのは、こうした曲を『星のカービィ』や『クロノ・トリガー』らしい音色・編成で演奏し直すことです。
著作権法が保護するのは具体的な楽曲の「表現」であって、ジャンルや作風そのものは保護の対象になりません。
つまり、任天堂側の許諾が必要になる場面が、そもそも存在しないということです。

一方で、これとは別に、任天堂・HAL研究所が実際に権利を持つ楽曲をアレンジしたケースもあります。
先ほど触れた「Meta Knight's Revenge」は、『星のカービィ スーパーデラックス』のBGM「メタナイトの逆襲」(作曲:石川淳)そのもののカバーです。
こちらは、任天堂側の著作物を編曲している例といえます。

このケースがなぜ成立するのか。
ここで関係してくるのが、アメリカの著作権法にある「メカニカル・ライセンス(強制許諾)」の仕組みです。
アメリカでは、一度商業的にリリースされた楽曲であれば、定められた使用料を支払うことで、作曲者側の個別の許諾がなくてもカバー音源を制作・配信できる制度が、1909年の著作権法以来存在しています。

かつては曲ごとに個別の申請が必要でしたが、2018年10月11日に成立した音楽近代化法(Music Modernization Act)によってこの仕組みが整理され、Mechanical Licensing Collective(MLC)が発行する包括的な「ブランケット・ライセンス」を通じて許諾を得られるようになりました(米国著作権局)。

つまり、任天堂の楽曲であっても、定められた使用料さえ支払えば、事前に任天堂の許可を取らなくてもカバー音源をリリースできる仕組みが、アメリカにはすでに存在しているということです。
この点については、ゲーム音楽ライターの糸田屯氏がIGN Japanに寄稿した記事に詳しく書かれています(IGN Japan「ファンによる『星のカービィ』のアレンジ楽曲がグラミー賞を受賞した史上初の快挙、その背景とは」、関連記事:IGN Japan「なぜ公式音源ではなく『カービィ』のアレンジ楽曲がグラミー賞を受賞したのか?」)。

ちなみに、グラミー賞の授賞式でButton MasherとCharlie Rosenは任天堂と作曲者の石川淳氏へ感謝の言葉を述べています。
これは法的な許諾の話とは別ですが、任天堂側への敬意として印象的です。


原曲とゲーム音楽の間

Button Masherを聴いていて気づいたのは、最初に浮かぶのが曲名でもアーティスト名でもなく、ゲームのタイトルだということでした。
「Super Tek It」を聴けば『星のカービィ』が、「How to Chiptune」を聴けば『スーパーマリオ』が、「Infant Eyes」を聴けば『クロノ・トリガー』が、「My One And Only Love」を聴けば『ゼルダの伝説』が、それぞれ頭に浮かんできます。

この4曲を聴いて面白いと思ったのは、知らない曲を聴いているはずなのに、知っているゲーム音楽の記憶が勝手に立ち上がってくることでした。
8bitの音色そのものというより、その音色が呼び起こす記憶のほうを聴いていたのかもしれません。

原曲を先に知ってからButton Masher版を聴く、という順番ももちろんありえます。
ただ僕の場合は逆で、『星のカービィ』を思わせる「Super Tek It」を先に知り、そこからCafunéの原曲へとたどり着きました。
『クロノ・トリガー』を思わせる「Infant Eyes」についても同様で、Wayne Shorterの原曲を聴いたのはそのあとでした。

ゲーム音楽を聴いているつもりが、気づけば別の曲にたどり着いている。
この逆再生のような聴き方こそ、Button Masherを聴く楽しさだと思います。

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