非政府有志によるエネルギー基本計画(第7版)が公開されました
日本のエネルギー供給基盤は、静かに、しかし加速度的に毀損されつつある
2026年5月、筆者が共著者として参加している「非政府有志によるエネルギー基本計画」第7版が公開されました。杉山大志・野村浩二の両編著者をはじめとする20名の有志による、特定の組織や資金に依存しない独立の政策提言書です。
筆者自身は本計画において、I.4.4. 世界は脱炭素から現実路線へとシフト、I.4.5. 米国の火力発電復活、I.4.6. 転換点となった2025年、II.3.5. 第7次エネ基とOCCTO需給シナリオ、II.3.6. 石炭火力サプライチェーン崩壊の危機、II.3.7. 固定費回収問題と市場活用の限界、の計6節を執筆しました。
変わったのは、提言ではなく世界のほうだ
本計画の政策提言の骨格は、第1版以来、大きく変わっていません。
電気料金を東日本大震災前の水準へ近づけること。原子力を最大限活用すること。化石燃料の安定利用をCO2規制で阻害しないこと。太陽光発電の大量導入を停止すること。EV偏重によって自動車産業を損なわないこと。過剰な省エネ規制を廃止すること。電気事業制度を垂直統合型に戻すこと。エネルギー備蓄とインフラ防衛を強化すること。
一見すると、かなり強い提言に見えるかもしれません。しかし、この数年で明らかになったのは、提言が過激だったのではなく、現実のほうがそれを追い越し始めたという事実です。
欧州では、高すぎるエネルギー価格が産業競争力を削り、ドイツを中心にエネルギー多消費産業の空洞化が進みました。英国やドイツでは、ネットゼロ政策への政治的反発も強まっています。米国では、エネルギードミナンスを掲げ、化石燃料、原子力、電力供給力を国家競争力の中核に据える方向へと政策が転換しました。
AI時代に、電力は国家の制約条件になる
第7版で特に強調したかったのは、AI時代における電力供給力の意味です。
データセンター、半導体、AI基盤、製造業、金融、軍事システム。これらはすべて、安定した電力供給を前提に成り立っています。電力は、もはや環境政策の一部ではありません。国家の産業競争力と安全保障を左右する、物理的な基盤そのものです。
ところが日本では、第7次エネルギー基本計画においても、2040年、2050年に必要となる供給力をどの電源で、どの設備で、どの投資主体が確保するのかという点が十分に具体化されていません。OCCTOの需給シナリオを見ても、火力発電のリプレースを怠れば、将来の供給力不足は避けられません。
火力発電は「自然に残る」わけではない
火力発電は、燃料があれば動くという単純なものではありません。
石炭、LNG、石油を調達するための長期契約、輸送船、港湾、貯蔵設備、発電所、保守人材、運転ノウハウ、金融、電力市場制度。これらが一体として維持されて初めて、火力発電は供給力として機能します。
しかし現在の日本では、CO2制約によって火力発電の将来像が曖昧にされる一方、容量市場や長期脱炭素電源オークションなどの官製市場が、固定費回収を十分に支える仕組みになっていません。結果として、発電事業者にとっては投資回収の予見性が低く、設備更新の判断が難しくなっています。
「必要なときには火力が支えてくれる」という前提は、制度的にも産業的にも、すでに危うくなっています。
必要なのはスローガンではなく、供給力の設計図である
日本は資源に乏しい国です。だからこそ、原子力、化石燃料、送配電網、火力発電、備蓄、港湾、シーレーン、データセンター、産業立地を一体として考えなければなりません。
エネルギーを制する国が、産業を制し、AI基盤を制し、国民生活を守る。逆に、エネルギー供給を他国や不安定な制度に握られた国は、自国の産業と安全保障の決定権を徐々に失っていきます。
本計画が掲げる「エネルギードミナンス」とは、豊富で、安定し、安価なエネルギーを確保することによって、国家の安全保障と経済成長を支えるという考え方です。
第7版は、現在のエネルギー政策に対するカウンター提案であると同時に、日本が再び強く豊かになるための現実的な設計図です。
ぜひ全文をご覧ください。
第6版は国会図書館にも収蔵されています
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