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給付付き税額控除、年収いくらまでもらえるのか

「中低所得者に配る」と政府は言う。中低所得者とは誰か。年収でいくらまでか。

線はまだ引かれていない。8月5日の閣議決定は、給付の閾値となる所得水準を「恒久財源の確保と併せて検討する」としたまま止まっている。ただ、何を見て線を引くかは書いてある。


脚注の一行

7月30日の首相会見で配られた資料のスライド2に、制度の全体像が描かれている。横軸に所得、縦軸に給付額。勤労所得が一定水準に達するまで給付が増え、その後は定額、総所得が一定額を超えると減っていき、やがて消える。

その「消える」点の脇に、小さく注記がある。

給付が消失する水準は、諸外国では概ね平均年収の50%前後。

閣議決定の2.(6)も同じことを別の言い方で書いている。閾値は「純負担率や純負担額の国際比較や諸外国の類似制度における対象者の所得の範囲等を参照しながら」検討する。参照先は諸外国で、諸外国の相場は平均年収の半分。

二つの平均

平均年収はいくらか。同じ資料のスライド1に、二つ併記されている。

国税庁の民間給与実態統計調査(令和6年分)で、1年を通じて勤務した給与所得者の平均が478万円。OECDの統計で、フルタイム相当労働者の平均が540万円。政府は横軸にこの二つを並べて、どちらを使うか決めていない。

半分にする。239万円から270万円

これは給与収入で見た目安で、資料の逓減と消失は総所得に対して設計されている。閣議決定の2.(3)も、税務行政が管理しているのは収入ではなく所得の金額だと留意点を置いている。収入で読むと線は見かけ上高く見える、という程度に受け取っておく。

これが、政府が参照すると明記した目安をそのまま当てはめた場合の、給付が消える年収になる。日本の線がここに置かれると書いてあるわけではない。ただ、参照先はこれしか示されていない。

478万円を使うか540万円を使うかで、線は31万円動く。統計の選び方だけで、この後に見る女性の最多層の上半分が入るか外れるかが変わる。

分布の上に置く

民間給与実態統計調査で、1年を通じて勤務した給与所得者5,137万人の分布を見る。

男性で最も多いのは年収400万円超500万円以下の層で、493万人、16.9%。女性で最も多いのは200万円超300万円以下の層で、421万人、19.0%。女性の平均給与は333万円。

239万円から270万円という線を、この分布の上に置く。

女性の最多層は、線をまたぐ。200万円台前半なら給付の逓減域に入り、後半なら消える。平均的な女性給与所得者も、333万円だから線の外に出る。男性の最多層は、線の外だ。400万円台は、消失ラインの1.5倍から2倍の位置にある。

「中低所得者」という言葉から、年収400万円台の勤労者が外れる絵は、多くの人の感覚と合わないと思う。諸外国の相場をそのまま当てはめると、その絵になる。

入口の線

給付が始まる側の線も、中間とりまとめに候補が三つ書かれている。

有識者会議では、被用者保険の短時間労働者の適用ラインを超える給与収入約106万円超、あるいは給与所得0円超に当たる給与収入74万円超。実務者会議では、雇用保険の適用ラインを超える給与収入約53万円超。いずれも就労とみなす下限をどこに置くかの違いになる。

入口が53万円から106万円、出口が239万円から270万円。

この幅が、政府資料の中で示されている「中低所得の現役勤労者」の射程になる。パートと非正規が中心で、フルタイムの正社員は平均で478万円だから、大半が出口の外に立つ位置にいる。

三つの入口の候補は、中間とりまとめの注記によれば、令和7年度で全国最も低い地域別最低賃金の時給1,023円に週の労働時間を掛けて算出されている。最低賃金が上がれば入口も上がる。

五四〇万円の家

スライド1には、純負担率の国際比較を試算した前提の世帯が書かれている。夫婦共働き、35歳、子2人、世帯年収540万円。本人270万円、配偶者270万円で、1対1に割っている。

日本の中低所得の現役勤労者の純負担率が主要国より高いことを示すために、政府が選んだ世帯だ。制度の必要性は、この家を見て説明されている。

給付は個人単位で設計される。この家の夫と妻はそれぞれ270万円で、消失ラインの上限にちょうど乗る。参照先の目安をそのまま使えば、政府が制度の必要性を説明するために持ち出した世帯は、給付の消える境目に立つ。

子どもの加算は別に乗る。年収の壁への加算も時限で乗る。だから完全にゼロにはならないかもしれない。それでも、本体の給付が消える位置に、説明用の世帯が置かれている。

スライド1の横軸では、日本の純負担率がG3平均を上回る区間が、270万円から810万円のあたりに描かれている。グラフの読み取りなので断定は避けるが、制度が問題として示した区間の大半が、消失ラインより上にある。

留意する、という言葉

閣議決定の2.(6)は、諸外国を参照すると書いた直後に、「高齢化の状況や社会保障制度が各国ごとに異なること等に留意する」と続けている。日本の線を諸外国の相場より上に置く余地を残した一文と読める。

線を上げれば対象が増える。対象が増えれば単価が薄まるか、財源が膨らむ。財源は恒久で、特例公債に頼らないと閣議決定に書いてある。会見で首相は税外収入、外為特会、独法からの納付金、租税特別措置と補助金の見直しを挙げたが、恒久財源として確定した項目はまだ一つもない。線の高さだけが、確定していない財源に連動する。

線を下げれば単価は保てるが、年収400万円台の正社員が「中低所得者」から外れる。前々稿で書いたとおり、増税は全員に一斉に効く。緩衝が届く範囲が239万円から270万円で切れるなら、消費税の8%復帰を無防備に受ける勤労者の方が多数になる。

2.(9)は、閾値と給付額を「定期的に見直すことが可能な弾力的な仕組み」にすると書いている。最初に低く置いて、あとから上げる。あるいはその逆。どちらも可能な設計になっている。

9月には大綱が決まる予定だ。線がそこに書かれるかどうかで、「中低所得者」の意味が確定する。

首相会見資料のスライド2、給付が消失する点の注記には、諸外国では概ね平均年収の50%前後、とある。


資料 高市首相会見資料(令和8年7月30日) https://www.kantei.go.jp/contents/pdf/20260730shiryo.pdf 「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針(令和8年8月5日閣議決定) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokuminkaigi/contents/20260805/01_siryou1.pdf 民間給与実態統計調査(令和6年分、国税庁) https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan/gaiyou/2024.htm


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