サナエトークン騒動の全貌〜技術と政治のあいだで何が起きたか〜
現職の首相の名前がついた仮想通貨が発行され、30倍に急騰し、1週間で崩壊した。
金融庁が動き、国会で追及される可能性もある。2026年3月、いま起きていることを整理しておく。
何が起きたか
2026年2月25日。Solanaブロックチェーン上に「SANAE TOKEN(SANAET)」が発行された。
発行したのは、格闘技イベント「BreakingDown」COOで連続起業家の溝口勇児氏が率いる「NoBorder DAO」。京都大学大学院の藤井聡教授が設計に関わった「Japan is Back」プロジェクトの一環だという。名前の由来は高市早苗首相。公式サイトには首相を模したイラストも載っていた。
同日、堀江貴文氏らが出演するYouTube番組「REAL VALUE」で溝口氏がトークンの発行を発表。「高市さんサイドとは結構コミュニケーションを取らせていただいている」と語った。堀江氏は「社会実装に向かう動きは意義がある」とコメントし、三崎優太氏も同調した。
同日、高市首相の公認後援会アカウント「【公認】チームサナエが日本を変える」が、NoBorderの投稿を引用。「チームサナエはこの取り組みに共感し、我々のVeanas号での活動と連携をして、共に日本の明るい未来を紡いでいきたい」と投稿した。
トークンはRaydium(Solana上の分散型取引所)で取引が始まり、初値から約30倍に急騰。時価総額は一時約2,770万ドル(約40億円)に達した。
2月28日、SNS上で違法性や内部利確の疑惑が広がる。NoBorder公式は「法的整理はしている」「売却した事実はない」と釈明。チームサナエとの協業についても「公認のものであるというのは紛れもない事実」と強調した。
3月2日夜、事態が動く。高市早苗首相がXに声明を出した。
「私は全く存じ上げませんし、私の事務所側も、当該トークンがどのようなものなのかについて知らされておりません。本件について我々が何らかの承認を与えさせて頂いたこともございません」
トークン価格は2時間で56%暴落。約0.9円まで落ちた。CoinDeskの報道によれば、時価総額はピーク時の2,770万ドルから約600万ドルへ急落。75%が消えた。
翌3日、溝口氏はXで「ちょっと待ってて。関係者と話してるから。おれはどうすればいいか、詳しい人たち参考までに教えて」と投稿。「高市さんサイドと〜」の発言は動画から削除された。
同日、「株式会社neu」代表の松井健氏を名乗るアカウントが突然現れ、全責任を引き受ける声明を出した。アカウントは当日作成。「トカゲの尻尾切りだ」と批判された。
藤井聡教授は「ボランティアで無償協力した」「発行・供給・販売には関与していない」と釈明。番組内では自らプロジェクトを語っていた映像が残っている。
金融庁が関連業者への調査を検討していることも報じられた。暗号資産交換業者としての登録が確認できない、というのが理由だ。
買った人はどうなったか
時価総額2,770万ドルから600万ドルへの落差。数字で書くと抽象的だが、この間に実際の人間が実際のお金を入れている。
30倍に騰がる過程で買った人たちがいる。「高市さんサイドとコミュニケーションを取っている」という発言を信じた人、公認後援会アカウントの「連携」投稿を見た人、堀江氏や三崎氏が番組で持ち上げるのを見て安心した人。そういう人たちが買った。
首相の否定声明が出た後、価格は2時間で半分以下になった。3月3日時点で約1.1円前後。初値から30倍のピークで掴んだ人は、資産の大部分を失った計算になる。SNS上には損失報告が散見される。
65%がロックなしで運営の手元にあるトークンだ。運営がいつでも売れる構造のなかで、価格が30倍に膨らんで、そこに一般の購入者が入ってきた。構造上、後から買った人ほど損をする設計になっている。
公設第一秘書の影
高市首相の「全否定」を額面通り受け取れるかどうか。いくつかの事実がある。
「【公認】チームサナエが日本を変える」のアカウントは、高市首相自身がリポストした実績がある。運営母体の「Veanas合同会社」の登記住所は、高市首相の政党支部(自民党奈良県第二選挙区支部)の事務所住所と同じだ。
高市早苗連合後援会の会計責任者は、公設第一秘書の木下剛志氏。自民党奈良県第二選挙区支部の会計責任者も兼務している。いわば金庫番にあたる人物だ。その後援会組織と一体のアカウントが、トークンとの「連携」を公に表明していた。
週刊現代の取材に、チームサナエのアカウント責任者(奈良県第二選挙区支部青年局長A氏)が応じている。NoBorderからダイレクトメッセージが来て、「国民の声を集めるデジタルの仕組みでコラボしないか」という話があった。「いいよね」と賛意を示した。「ポイント制みたいなものをしようかなと思ってます」という話も軽く聞いていた。ただ蓋を開けたら「ポイントと違うがな」と。仮想通貨だとは思っていなかったという。
記者が「ポイント制の話までは、高市事務所にも根回しはしていた?」と聞くと、A氏は「その話は、声かけはしていましたので」と答えた。
「何らかの承認を与えたこともございません」という首相の声明と、「声かけはしていた」という現場の証言。この温度差をどう読むか。
本当に知らなかったのなら、首相の名前で国民が金銭的損害を被りかねない情報が、事務所と同じ住所の組織から発信されていたのに把握できていなかったことになる。知っていたのなら、Xの声明が虚偽になる。
トランプコインとの決定的な違い
溝口氏は番組内でトランプコインを引き合いに出していた。堀江氏が「トランプコインみたいじゃん」と突っ込み、三崎氏も「トランプ大統領が選挙で快勝したことで、トランプコインが出て、すごい価値がつきましたよね」と盛り上がった。
比較すること自体が間違っている。
トランプコイン($TRUMP)は2025年1月、トランプ大統領本人が自身の公式アカウントで発行を発表した。本人が公認し、本人の陣営が発行した。好き嫌いは別として、誰が出したのかは明確だった。
サナエトークンは違う。首相本人は「全く存じ上げません」と言っている。公式サイトには「高市氏の承認を意味するものではない」と注意書きがあった。つまり運営側も、非公認であることを認識していた。
もうひとつ。トランプコインは運営保有分にベスティング(段階的ロック解除)のスケジュールが組まれている。サナエトークンは65%がロックなし。運営がいつでも全量を市場に出せる。
本人が公認し、ロックアップもあるトランプコインと、本人が否定し、65%がロックなしのサナエトークン。溝口氏はこれを並べて語っていた。
技術的に何なのか
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