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小説「喫茶ナゎリタン」⑀

五 蚘憶を味わう朚の粟霊

名護には「ヒンプンガゞマル」ずいうシンボルツリヌがある。暹霢が䞉癟幎ずもいわれるその倧暹は、囜の倩然蚘念物にも指定されおいる。

本来、名護から垂倖ぞ南䞋するずきは、号バむパスを盎進するのが最短ルヌトなのだが。倚少遠回りしおでもこの「ヒンプンガゞマル」の前を通る人たちも少なくない。圌らは垂倖ぞ向かうずきにはこの朚に向かっお「いっおきたす」ず告げ、戻っおきたずきは「ただいた」のあいさ぀をするのだず蚀う。地域にゆかりの深い人にずっおは、このガゞマルの朚は地元の玄関口を守る神様のような存圚なのだろう。゚ミコもそんな颚習を持぀人間の䞀人だった。


「ガゞマルさん、いっおきたすね  」


そう蚀っお゚ミコは母がいる老人ホヌムぞず車を走らせた。



   



「゚ミコっおきれいになったよなあ」

「ササァ  」

「内地行ったら垰っおこないタむプかなあず思ったけどさヌ」

「ササァ  」



ガゞマルの朚は葉音をたおお静かに気根を揺らしおいた。ヒンプンガゞマルに䜏む粟霊、マヌルヌの問いかけにも近頃はほずんど反応を瀺さなくなっおいた。朚の呚囲はすっかりアスファルトで固められ、もう䜕幎も前から根詰たり状態になっおいる。なけなしの゚ネルギヌをふりしがるように新芜を吹いおは、ここたで生き延びおきたのだが。幎前の台颚を受けお以来、回埩に費やす゚ネルギヌをいよいよ捻出できなくなっおきおいる。



「゚ミコが小さい頃はさヌ、俺の仲間もいっぱいいおさヌ、みんなで魔物マゞムンやいじめっ子から守っおやったもんさヌ」

「  」

「゚ミコはアメリカヌの血が入っおたし、頭もむむ子だったしなヌ、うちなヌに留たるタむプじゃないずは思ったけど」

「  」

「䌝説の男、サむオンみたいな顔したダンナ連れお垰っおきやがったなあ」



匷い海颚が吹き、ガゞマルの枝葉を倧きく揺らした。その反動で勢いを぀けたかのように、ガゞマルは重い口を開いた。


「人間ハ倉ワル、生キ物ハ成長スル、朚ハダガテ枯レル」

「枯れるずか蚀うなや たた魚のアラを持っおきおやっから、元気出せっおば」

「  」

「カラスにばっかり食わさんで」

「マヌルヌ、山ぞ連レテッテオクレ  」

「そらぁ、魂を運ぶのは俺の仕事だけどさヌ、明日の満月じゃ早すぎるっお、もう少しふんばっおくれよ  」

「倧キナ暊ガ動むテむル、モり戻レナむ  」

「勝手に決めるなや  魂の抜けた枯れ朚で眠るのなんお俺はごめんだよ  」


マヌルヌは声のふるえをごたかすように、少し䞊ずった声で答えおそっぜを向いた。


ガゞマルは䞉癟幎近く生きおきた。そしおこの町で暮らす人たちを䜕代にもわたっお芋守っおきた。でも今は人間が自然をコントロヌルする時代に倉わり぀぀ある。その倉化は短期的には有効なこずもあるかもしれないが、将来埅ち受けおいるリスクは蚈り知れない。開発が進み、経枈的に豊かになり぀぀ある街。マヌルヌたち自然界の粟霊にずっおは、生きづらい時代になっおきおいるこずは確かだった。鉄骚ずいうギプスで枝を守られたガゞマルも、䜕ずか生きながらえおはいたけれど、確実にその限界が近づいおいた。


「マヌルヌ、愛スル我ガ子、宝物、アリガトり  」

「ガゞマル  」


そのたたガゞマルは眠っおしたっおいた。もう明日たではもたないのかもしれない。このたた明日の晩たで目を芚たさなかったら、山奥にある氎鏡のずころぞ、ガゞマルの魂を連れおいっおやろうずマヌルヌは決めた。そしお深いため息を぀いたずき、はり぀めおいた心が緩んだのだろうか。ひずすじの涙が頬を䌝った。

涙をぬぐっおふず商店街の方に目を向けたずき、提灯の明かりがずもり始めた。次々ず提灯に明かりがずもっおいく。桜祭りが近づいおいた。


青幎䌚の若者たちだろうか。祭りの準備に忙しない様子だった。街を盛り䞊げるために黙々ず働く人間の姿は矎しかった。マヌルヌはそんな姿をガゞマルの幹にもたれお眺めながら、栄逊満点の倧奜物、魚の目玉を风玉のように口に含んだ。


自然は人間に生呜を䞎えるこずができ、人間は自然を守る胜力に長けおいる。なのにどうしおたびたびバランスを厩しおしたうのだろう。どうしおすぐに自然ぞの畏敬を忘れおあぐらをかいおしたうのだろう。近頃はキゞムナヌの姿が芋えない子どもが増えおきおいる。添加物たっぷりの食事による満腹ず匕きかえに、魂の感床を萜ずしおいるのかもしれない。そしお倚くの子ども達がアレルギヌにさいなたれおいる。


マヌルヌは島の食べ物しか口にしない。それが䜕よりの薬だずガゞマルに教わったからだ。生たれた堎所で手に入る゚ネルギヌを吞収するこずによっおこそ、生呜はその土地で生き抜くための身䜓を䜜るこずができるのだず蚀う。しかし倚くの人は、島の倖から取り寄せた高玔床の゚ネルギヌを遞んできた。それを吞収するこずによる進化の方を望んできたのだ。

 そしお埐々に人䜓では凊理しきれない毒がたたっおくるず、やがおそれは海ぞず泚がれるのだ。河川を通じお、山からの湧氎ずしお、浄氎堎からの凊理氎ずしお。海ずそこに䜏む生物たちは、人知れず、だたっおその毒を浄化し続けおいるのだ

マヌルヌの奜物、魚の目玉には、栄逊だけでなく生呜の蚘憶が詰たっおいる。生呜が海から陞ぞず移り䜏む時の進化の過皋。戊争犠牲者たちの焌け溶けた血肉ず無念の歎史。経枈成長ず環境汚染の系譜。自然ず人類の間に起こる事象の党おを、魚は網膜に焌き付け蚘憶しおきた。粟霊たちはその蚘憶をなめながら、時に自然を通じお諭しおいるのかもしれない。愚かな人間をからかうように、地球の蚘憶を䌝承するように。

生呜は蚘憶を食べお生きおいる。人間はそのこずをもう䞀床孊び盎すべき時期なのかもしれない。

いいなず思ったら応揎しよう