平時のデザイナー、有事のデザイナー
「選ばせる」から「迷わせない」へ
平時には、人が考え、選び、参加できる余白が必要です。
しかし有事には、迷いを減らし、安全に動ける道筋が必要になります。
平時に正しいことが、有事にも正しいとは限りません。
この記事では、平時と有事で変わるデザイン、組織の動き方、リーダーの役割について考えます。
普段の会議では、できるだけ多くの人の意見を聞くことが大切です。
一人で決めてしまうより、さまざまな立場の人が話し合い、納得できる答えを探した方が、その後の協力も得やすくなります。
商品やサービスを考えるときも同じです。
一つの案に早く決めるのではなく、いくつかの可能性を並べ、試しながら、よりよい形を探していきます。
こうした丁寧な進め方は、平時にはとても大切です。
では、事故や災害、重大なトラブルが起きたときも、同じ方法でよいのでしょうか。
全員の意見がそろうまで待つ。
前例が見つかるまで判断を止める。
誰も不満を持たない方法を探し続ける。
平時には誠実に見える行動が、有事には判断の遅れになることがあります。
平時に正しいことが、有事にも正しいとは限りません。
危機のとき、デザインの役割は変わる。
私は、この違いを「平時と有事のデザイン」という視点から考えてみたいと思います。
ここでいう「有事」とは何か
有事という言葉を聞くと、戦争や大規模な災害を思い浮かべるかもしれません。
しかし、この記事で扱う有事は、それだけではありません。
例えば、店舗でお客様が倒れた。
地域の行事中に大雨警報が出た。
重要なシステムが停止した。
商品に安全上の問題が見つかった。
組織の信用を損なう重大な出来事が起きた。
このように、普段の会議や承認手順を続けていては対応が間に合わず、安全や信用、組織そのものを守るために、一時的に判断方法を変えなければならない状態も、有事と考えられます。
有事かどうかは、出来事の大きさだけでは決まりません。
小さな店舗にとっての重大事故と、大きな企業にとっての重大事故は、規模が違います。
しかし、どちらも「いつもの方法では間に合わない」という点では同じです。
ここでいう「デザイナー」とは誰か
この記事のタイトルには、「平時のデザイナー」「有事のデザイナー」という言葉を使っています。
ここでいうデザイナーは、広告やポスターをつくる職業だけを指しているわけではありません。
人と情報の関係を整える。
誰が何を判断するかを決める。
人が動きやすい順番をつくる。
迷いを減らし、目的へ進める状態をつくる。
こうした行為も、広い意味ではデザインです。
組織の責任者、現場のリーダー、相談支援に関わる人、町内会の役員、イベントの運営者も、状況によってはデザイナーの役割を担います。
目に見えるものをつくるだけではなく、人が判断し、行動できる状態をつくることも、デザインなのです。
平時のデザインは「選べる状態」をつくる
平時には、選択肢があることが豊かさにつながります。
店舗であれば、複数の商品を比べながら、自分に合うものを選べます。
行政や福祉の窓口であれば、相談者の事情を聞きながら、いくつかの支援方法を検討します。
組織の会議であれば、一つの意見だけで決めず、さまざまな立場から案を出し合います。
平時のデザインには、次のような役割があります。
選択肢を増やす
多様な意見を取り入れる
試行錯誤を認める
時間をかけて改善する
一人ひとりの判断を尊重する
平時には、多少遠回りをしても、関係する人が納得しながら進むことが大切です。
急いで答えを出すよりも、問いを深めることに価値があります。
そのため平時のデザイナーは、すぐに結論を出す人というより、考えるための材料や余白を用意する人だといえます。
有事のデザインは「迷わず動ける状態」をつくる
ところが、有事には状況が変わります。
火災が発生しているときに、
「右の出口から出てもよいです」
「左の出口も利用できます」
「状況を見て各自で判断してください」
という案内があれば、人はかえって迷います。
この場合に必要なのは、
「この出口から避難してください」
という、短く明確な指示です。
平時には、選択肢の多さが豊かさになります。
有事には、選択肢の多さが混乱を生むことがあります。
つまり、
平時のデザインは、人が選べる状態をつくる。
有事のデザインは、人が迷わず動ける状態をつくる。
という違いがあります。
もちろん、有事だからといって、何でも強く命令すればよいわけではありません。
大切なのは、守るべきものを明確にし、そのために必要な情報と行動を整理することです。
選択肢を奪うことが目的なのではなく、限られた時間の中で、人が安全に動ける道筋をつくることが目的です。
丁寧な合意形成が、判断の遅れになるとき
平時の組織では、次のような行動が評価されます。
全員の意見を聞く
関係者の納得を得る
十分な情報を集める
過去の事例を確認する
上司や本部の承認を得る
公平な方法を探す
どれも、通常であれば間違った行動ではありません。
むしろ、独断を防ぎ、組織を安定させるために必要な手順です。
しかし、事故や災害が起きているときまで、同じ手順を守ろうとするとどうなるでしょうか。
会議を開いている間に、被害が広がるかもしれません。
本部からの返事を待っている間に、現場の状況が変わるかもしれません。
全員が納得する案を探している間に、行動できる時間を失うかもしれません。
これは、平時の方法が悪いのではありません。
方法を使う場面が違っているのです。
雨の日に傘が役に立つからといって、室内でも傘を差し続ける必要はありません。
反対に、普段は必要がないからといって、大雨の日にも傘を使わなければ濡れてしまいます。
組織の運営方法も、これと似ています。
平時の丁寧さと、有事の迅速さは、どちらか一方だけが正しいのではありません。
大切なのは、状況に応じて切り替えられることです。
平時に優秀な人が、有事にも優秀とは限らない
平時には、多くの意見を聞き、関係者の調整を丁寧にできる人が高く評価されます。
一方、有事には、不完全な情報の中でも優先順位を決め、短い言葉で指示を出せる人が必要になります。
同じ人物が両方を得意としている場合もありますが、必ずしもそうとは限りません。
アメリカンフットボールでは、攻撃と守備で選手が大きく入れ替わります。
攻撃が得意な選手に、守備でも同じ役割を求めるわけではありません。
状況に応じて、必要な能力を持つ人が前へ出ます。
組織も同じように考えてよいのではないでしょうか。
平時のリーダーが、そのまま有事の指揮を執らなければならないとは限りません。
役職が上だから有事にも強いとは限りませんし、普段は目立たない人が、緊急時には落ち着いて全体を整理できることもあります。
大切なのは、誰が偉いかではなく、その場面で必要な役割を誰が果たせるかです。
組織は、二つの動き方を持っているだろうか
多くの組織には、平時の規則や手順があります。
会議の進め方、決裁の順番、報告経路、役職ごとの権限などが決められています。
しかし、有事になったとき、
誰が最終判断をするのか
何を最優先するのか
誰の指示に従うのか
どの手順を一時的に省略するのか
いつ通常運営へ戻すのか
まで決められている組織は、意外に少ないのではないでしょうか。
非常口は、火事になってから考えるものではありません。
避難経路も、災害が起きてから相談して決めるものではありません。
それと同じように、有事の判断方法も、問題が起きる前に考えておく必要があります。
平時と有事の二つの動き方を持つことは、組織を複雑にすることではありません。
むしろ、状況が変わったときに迷わないための準備です。
では、組織はどの時点で「平時の運営」を止め、「有事の運営」へ切り替えるべきなのでしょうか。
また、有事になったとき、具体的に何を変える必要があるのでしょうか。
ここから先では、
有事へ切り替える三つの判断条件
有事に切り替える四つの要素
具体的な場面での判断例
有事のリーダーに必要な能力
優しさと決断力の関係
有事に対応できる人材の育て方
デザインコンポジスタが担える役割
有事の権限を手放し、平時へ戻る基準
自分たちの組織を確認する七つの質問
を順番に整理します。
単に危機を乗り切る方法ではなく、平時と有事をどう切り替え、再び日常へ戻すのか。その判断の物差しとしてまとめました。
ここからは、考え方だけでなく、自分の組織や地域活動に置き換えて考えられる「判断の物差し」としてまとめていきます。
この記事は、単なる考察だけでなく、実際の組織や地域活動に置き換えて考えられるよう、判断条件や確認項目まで整理しました。
そのため、途中から有料としています。
現在、組織の運営や危機対応を考えている方にとって、話し合いや仕組みづくりの材料になればと思います。
ここから先は
¥ 500
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
