第5回【保育士 × 社会福祉士が伝える】発達の「グレーゾーン」って何?診断がなくてもできること、してはいけないこと
はじめに
「うちの子、診断はまだついていないんですけど……」
保育現場で、私はこの言葉を何度も聞いてきました。「まだ」という言葉の裏には、「診断がついたら、もう終わりなのかな」という不安と、「でも、なんだか育てにくい」という毎日の正直な感覚が同居しています。
今回のテーマは、そんな「グレーゾーン」の子どもたちと、その保護者の方のお話です。名前がつかないからこそ困っている親子に、現場と制度の両面からお伝えします。
現場で見る「名前がつかない子」のリアル
ある年長の男の子の話です。彼はとても優しく、記憶力も抜群でした。でも、集団活動になると急に不安になり、気持ちを言葉にできず、手が出てしまうことがありました。
担任が保護者の方と面談をすると、こう言われました。
「周りに相談しても『まだ診断もないし、様子見でしょ』と言われる。私の育て方が悪いのかなって、毎日思ってます」
この言葉に、私は胸が締め付けられました。診断がないと、周囲の理解が得られない。でも、親子の困り感は本物なのです。
「グレーゾーン」とは何か
まず、正確に知っておいてほしいことがあります。
「グレーゾーン」は、正式な医学用語でも診断名でもありません。
一般的には、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)、学習障害などの特性が見られるものの、診断基準を満たすまでには至らない状態を指す通称です LITALICOライフ「発達障害グレーゾーンの子どもとは」。
つまり、病院で「グレーゾーンです」と診断されることはありません。あくまで、医療や支援の現場で交わされる言葉(通称)です さくら発達サポート「診断がつかない『発達障害グレーゾーン』」。
ここで誤解してほしくないのは、「診断名がない=支援の対象ではない」わけではない、ということ。大切なのは名前の有無ではなく、その子が今、どんなことに困っているのかです。
なぜ、グレーゾーンの子は「こぼれ落ちる」のか
グレーゾーンの難しいところは、困りごとが周囲から見えにくいことです。
- 「まだ発達がゆっくりなだけ」「気のせい」と流されてしまう
- 「わがまま」「親のしつけの問題」と誤解される
- 学校や園では「目立つ困り」がないから、支援にまで話が進まない
- 一方で本人と保護者は、毎日小さな失敗と戦い続けている
特性を本人の努力や環境でカバーできているうちは、周囲には「ふつう」に見えます。でも、環境が変われば(進学・クラス替え・反抗期など)バランスは一瞬で崩れます。「今は大丈夫そう」と見えるほど、実は本人は頑張り続けているのです 武田薬品工業「発達障害のグレーゾーンとは」。
気づきのきっかけ:乳幼児健診を知っておこう
「どこで気づけばいいの?」という疑問に、まず答えられるのが乳幼児健診です。
実は、1歳6か月児と3歳児の健診は、母子保健法で市町村に実施が義務付けられています こども家庭庁「乳幼児健診に関する取組み」。それぞれの特徴を整理すると、こんなイメージです。
| 健診 | 時期 | 主な見どころ | ポイント |
|------|------|------------|---------|
| 1歳半健診 | 1歳6か月ごろ | 言葉・指差し・積み木などの発達、体の健康 | 言葉の相談がいちばん多い時期でもあります |
| 3歳児健診 | 3歳ごろ | 運動・認知・言葉、心理面の相談 | 心理相談につながることが増えてきます |
| 5歳児健診 | 就学前 | 言語理解・社会性など | 現状では実施は自治体まかせ。広がりつつあります |
1歳半健診は、言葉の発達を中心に「体と心の健康、発達の確認」と「保護者へのサポート」を目的にしています h-navi「1歳半健診とは?」。また、3歳児健診になると、心理相談が増えるという報告もあります 江崎グリコ「乳幼児健診における『育てにくさ』への対応」。
さらに、5歳児健診は自治体によって導入が進んでいる動きです。4〜5歳はASDやADHDなどが顕在化しやすい時期で、就学時より早期に発見して支援につなげようという狙いがありますが、2022年度時点では実施している自治体はまだ多くありません 日本小児科医会「第16回乳幼児学校保健研修会」 読売新聞「『5歳児健診』広がる」。
ここで伝えたいのは、「健診はチェックされる場ではなく、サポートの入り口」ということ。引っかかった=悪いことではなく、「ここから一緒に考えましょう」という合図です。
診断がなくても、できることがある
「診断がないと、何もできないんでしょ?」——いいえ、そんなことはありません。
まず相談できる3つの窓口
1. 園の先生:毎日の姿をいちばん見ている存在。気になる様子を共有し、一緒に整理してもらえます
2. 保健センター・保健師さん:健診後のフォローや相談に乗ってくれます。母子健康手帳の記録もここで活きます
3. 児童発達支援センター・事業所:まずは見学や相談から。診断がなくても利用できる場合があります
制度の土台はある
そして、見落とされがちなのが法律の存在です。発達障害者支援法(2004年公布・2005年施行)は、発達障害を定義し、「症状の発現後できるだけ早期に発達支援を行う」「切れ目なく支援する」ことを国の方針として掲げています e-Gov「発達障害者支援法」 LITALICOジュニア「発達障害者支援法とは」。
つまり、「診断がついた人だけが支援を受けられる」のではなく、困っている人に支援を届けるための枠組みが、法律として整えられているのです。診断の有無にかかわらず、まずは一度相談してみる。それが正当な第一歩です。
保護者と園が「一緒に考える」ために
最後に、現場の保育士として、保護者の方に安心してほしいことを。
- 「育て方が悪い」わけではありません。特性は育て方で「つくられる」ものではないからです
- 「早く気づけなかった」と責めないでください。気づいた今が、一番早いタイミングです
- 園に頼むときは、「〇〇ができません」という報告ではなく、「家ではこんな様子です。園ではどうですか?」という情報交換の形で伝えると、スムーズです
園と家庭は、対立する関係ではありません。同じ子を、別の場所から見ているパートナーです。
おわりに
診断がつく子も、つかない子も、グレーゾーンの子も——困りごとには、必ず手が届きます。
名前がないからといって、その子の「育てにくさ」や「生きづらさ」が軽くなるわけではありません。だからこそ、私はこの連載で、現場の視点と制度の知識を交えて、少しずつ情報を届け続けたいと思っています。
「うちの子、もしかして?」と感じているあなたへ。その感覚は、きっと間違っていません。まずは、誰かに話してみてください。園の先生でも、保健センターでも、この記事のコメントでも。
あなたとあなたの子どもを支える人たちは、ちゃんとここにいます。
次回は「【保育士が教える】グレーゾーンの子に、家庭でできる『声かけ』と関わり方」を予定しています。お楽しみに!
保育士×社会福祉士|発達が気になる子の保護者と先生をつなぐ情報を発信
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