もし哺乳類として生まれ変わったら、僕はモグラにはなれない気がする
真夏の日、灼熱の太陽の下から鍾乳洞へ一歩踏み入れる。
その瞬間、体が理解する。
地上だけが世界ではないのだと。
外では太陽がすべてを照らし、熱を奪っていく。
でも地下には、別の時間が流れている。
モグラは、その世界を何万年も前から知っていた。
だけど、僕はモグラにはなれない気がする。
理由は簡単だ。
僕は暗闇の中で、自分だけの世界を信じ続けることができる自信がないからだ。
モグラの世界には、太陽の光がない。
遠くの景色を見ることもない。
空を飛ぶことも、海を渡ることもない。
人間の感覚からすれば、少し寂しい世界に見えるかもしれない。
でも、モグラにとって地下は、閉じ込められた場所ではない。
自分が選んだ世界なのだ。
モグラは、地上から逃げただけではない。
地下に適応した。
強い前足で土を掘り、自分だけの道を作る。
地上では小さな存在だったものが、地下では誰にも真似できない能力を手に入れた。
生き物は、自分に合った場所を見つけることで強くなるのかもしれない。
モグラは、見えない世界を選んだ。
人間は、見えるものを大切にする。
遠くまで見えること。
明るい場所にいること。
誰かに認められること。
それを幸せだと思う。
でも、モグラは違う。
目に映る景色ではなく、土の感触や小さな振動、匂いから世界を感じている。
私たちには何もないように見える場所にも、モグラにとっては豊かな世界が広がっている。
さらに地下には、地上とは違う時間が流れている。
夏の暑さも、冬の寒さも、地上ほど急激には変化しない。
もしかすると、モグラはずっと前から、人間が求めている「安定した暮らし」を知っていたのかもしれない。
でも、モグラは地上に憧れないだろう。
空を飛びたいとも思わない。
海へ行きたいとも思わない。
自分が生きる場所を、自分の世界にしたからだ。
人間は時々、自分に合わない場所で苦しむ。
明るい場所に出なければいけない。
みんなと同じように生きなければいけない。
そんなふうに考えてしまう。
でも、モグラは教えてくれる。
大切なのは、どこにいるかではなく、その場所でどう生きるか。
光の当たらない場所にも、世界はある。
誰にも見えない場所でも、命は輝いている。
もし生まれ変わったら、僕はモグラにはなれない気がする。
暗闇の中で、自分だけの世界を信じる強さが、まだ僕には足りないから。
だから人間として生きながら、少しだけモグラの生き方を覚えていたいと思う。
見えないものを信じること。
自分の場所を、自分の世界に変えること。
それができたなら、今いる場所も、少し違って見えるのかもしれない。
