一年だけ、願いが叶うなら
七夕の夜は、織姫と彦星が一年に一度だけ会うことができる。
もし、神様が一年だけ願いを叶えてくれるなら。
私は、もう一度、父や家族とみんなで暮らしたい。
春には、桜が咲くのを眺めながら、
田んぼの田植えをしたい。
ふきのとうの天ぷらや、
たけのこご飯をお母さんと作りながら、
田んぼに行って、
お父さんと、ゆで卵を食べたい。
小さな花を見て笑い、
虫たちが土から出てくるのを眺めながら、
カエルの卵を気持ち悪いって、
もう一度言ってみたい。
夏にはセミの声を聞きながら、
お父さんとラジオ体操に行きたい。
帰ってきたら、
お母さんの卵焼きを食べ、暑い暑いって言いながら、みんなで扇風機にあたりたい。
夜になったら、懐中電灯を持って、
お父さんと子供達を連れて、
蛍を見に行きたい。
夜空に上がる花火を見ながら、蚊取り線香をたいて、お父さんとスイカの種を飛ばしてみたい。
私の誕生日は、プレゼントは何もいらないから、
お母さんの唐揚げで、
おめでとうって言うみんなの笑顔を見ていたい。
秋には、田んぼの稲刈りをしながら、
お母さんといなごの親子を見つけてみたい。
美味しい新米を食べながら、
お父さんが納豆ご飯をおかわりするのを見て、「またついてるよ」って言ってみたい。
葉っぱの色が変わるのを眺めながら、
庭になっている柿をたくさん取って、
ばあちゃんと一緒に干し柿を作ってみたい。
コオロギの声を聞きながら、
じいちゃんと蒸かした焼き芋を半分こして、
「こんなに食べきれない」って言いながら、笑っていたい。
冬には、家族みんなでこたつに集まって、
足を蹴飛ばしながら、みかんを食べたい。
ひぃばあちゃんには、はんてんを着せて、
風邪をひかないように、
あたたかいけんちん汁を
食べさせてあげたい。
大晦日には、夜遅くまで、
みんなでテレビを見ながら、
じいちゃんが打った短いおそばを食べていたい。
お正月になったら、子供達にお年玉をあげて、
みんなでおせちを食べながら、
お父さんと、数の子の取り合いをしてみたい。
そして、
みんなで集まって、お父さんの誕生日を
大好きなお刺身と、あたたかい牛乳でお祝いしてあげたい。
あの日、あの時、
泣いた日も、怒った日も、笑った日も。
確かに家族は生きていた。
もう戻らないけれど、
あの家族が生活していたその事実を、
少しだけここで思い出してもいいですか。
私は今を精一杯生きています。
もしも、願いが叶うなら。
私は一年間を、家族と精一杯生きたい。
あの日。
病室のベッドで父は、静かに呼吸をしていた。
病院の外では、冷たい風が吹いていた。
父の誕生日が近い日だった。
病室で母は、椅子に座り、父の顔を優しく見つめていた。
「お父さん」
そう呼ぶと父は、大きく息を吸い込み、
目を開けようとしてくれていた。
かすかに呼吸をする父に、
「ありがとう。」
最後の言葉を伝えた。
