短編小説『風のない惑星』

風のない惑星
新天地〈リュシス〉。
資源調査隊として俺たちはこの惑星に降り立った。
酸素濃度も重力も理想的。第二の地球になり得る──はずだった。
だが、最初に感じたのは沈黙だった。
空気は確かにある。呼吸もできる。だが草は揺れず、雲は流れず、砂粒ひとつ舞わない。風が、ない。
「気流が存在しない星? 理論的にあり得ない!」
科学主任が苛立ちを隠さずモニターを叩く。
隣で別の隊員が小さく呟いた。
「風は神の吐息だ。……ここには神はいないのか」
その言葉が胸に引っかかった。
音のない空気。静まり返った雲。どこかで、自分が監視されているような息苦しさ。
ある夜、眠りから覚めると、周囲の空気がわずかに震えていた。
いや、震えているのではない。声だ。
「――やっと気づいたのか」
耳で聞いたのではない。肺の奥から響いてくる。
息を吸えば言葉が流れ込み、吐けば返答が返る。呼吸そのものが対話だった。
「なぜ、風がない?」
問いかけると、空気は静かに告げた。
「風は“分かつ”声。私は裂けぬままにある」
理解した。
この惑星を包む大気そのものが、一個の巨大な知性体なのだ。
俺たちは肺を通して、その“体”の一部を吸い込み、生きている。
背筋に冷たい汗が伝う。
呼吸するたび、彼らは俺の思考を覗き込み、学習している。
風のない沈黙は、静かな観察の証。
「なら、俺たちの存在は許されるのか?」
答えはなかった。
ただ吐き出した息が、音もなく溶けていった。
そのとき、肺の奥で微かな囁きがした。
――次は、おまえの声で話そう。
風は吹かない。だが、確かに息づいていた。
惑星そのものが、呼吸していたのだ。
あとがき
風まかせ文芸部のお題「違和感」に参加させていただきました。
本来お題は“違和感”であって、“風”を扱う必要はないんですが、せっかく部の名前が風まかせなので、作品にも風の要素を入れるように心がけています。
今回はあえて“風がない”という形で違和感を描いてみました。
これでいいのか?とちょっと不安ですが、逆に風まかせっぽさは出たかなと思います。
ここまで読んでくださった方、ぜひスキ・フォロー・コメントで感想を残していただけると、作者の呼吸(モチベーション)が続きます。
また、連載中の『配達員ろること2号』では、今回の惑星リュシスのように“沈黙の違和感”ではなく、“タワマンのエレベーターが来ない違和感”や、“クジラ案件(高額配達)の謎”が待っています。もし興味があればぜひ覗いてみてください。
Xでも、フードデリバリーの日常ネタや、小説・AIイラストなどを気ままに発信しています。宇宙的な静寂から配達の喧騒まで、幅広く発信してますので、こちらも気軽にフォローしていただけると嬉しいです。
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。
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