最後のスリスリ
「学ランのまさみち、現行犯逮捕。」
そのニュースは、警視庁だけでなく警察庁、検察庁、全国の県警にまたたく間に広がり、スポーツ新聞の夕刊にも載った。
「何をそんなに大騒ぎしとるんですか?」
署内で唯一となった紙タバコを吸える喫煙所で、紅莉栖(クリス)は上長の植木に尋ねた。
まさみち逮捕の報が届くやいなや、年配の刑事たちのみならず、今は内勤となった者までがぞろぞろと集まってきていた。立ちのぼる煙で、部屋全体が白くかすんでいる。
「紅莉栖、今日、一つの犯罪が完全に消滅したんだ。そりゃ、感慨深いだろ。」
「そんな事あるんですか?学ランのまさみちってそもそも何者なんですか?通り名まであるって事は有名なテロリストか何かでしょ?」
「スリ師だよ。本邦最後のな。」
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二日前、押上駅。
駅横のテラスの手摺りにもたれ、東京スカイツリーを見上げて佇む、やけに老けた顔の学ラン姿の学生がいた。
トレンチコートに角刈りの男が、くわえたばこでその学ラン男に話しかける。
「まさみち、今日はずいぶん遠くまで出張して来たんだな」
「……、モミさんかい。俺ぁ今日は純粋に観光しに来たんだよ。変なこと言わねぇでくれよ」
「そうかい。まあ、まさみちよ、生活保護受けるんだったらうちの所員がついて行ってやるっていってんだからよ。いい加減、変なプライド捨てろよ」
「生活保護って月いくらもらえんの?」
「130,000くらいだったかな…。」
「十三万かー………。」
「十分生きて行けるだろ?あと、お前、親戚とかいないのかよ。そういうとこに身を寄せるとかな」
まさみちは、親戚の家に居候してる人なんて昭和のドラマでしか見たことが無い。絶滅したのではないだろうか。
「モミさん、スリってね、面白いんですよ。こう、生きてる実感があるっていうか…」
「迷惑なんだよ。生きがいは他で見つけてくれ。ずっとムショ入ってたいならそれでも構わねーけど、それならちゃんと俺の目の前で分かるようにやってくれよな。」
「モミさん、これが最後なんだよ。俺もうツーアウトだからさ。最後くらい楽しませてくれよ。」
地方の老人団体客のバスが到着した。ぞろぞろと降り立ってくる老人たちは、今では若者は誰も知らないような、ヨーロッパの時計を当たり前のようにつけて、お揃いのように、何かしらのロゴのついた高価なポロシャツを着ていた。
外国人の多さに怪訝な顔をした彼らを、まさみちは穏やかな目で見つめている。
「同窓会だな」
モミさんの言葉に、まさみちがニヤリと笑った気配がしたのだが、そこにはもう誰もいなかった。
【続く?】
