§ショートショート§ 壊れたスマートフォン
携帯ショップに若い女性がやって来た。
女性はふくれっ面をして不機嫌さを隠そうともせず、使っていたスマホが壊れてしまったと言う。
「中のデータも全てパー。あーあ、ついてないわ」女性はため息をつき、「それは残念でしたね。お気持ちお察し致します」とショップ店員はしんみりと答えた。
「ねえ、ちょっと聞いてくれる」
急に女性は組んでいた足を解いて身を乗り出した。
「わたし、暴漢に襲われそうになったの」
「えっ?」
店員はびっくりして姿勢を正した。
「まあ、なんとかその場は切り抜けられたんだけど、代わりに大事なスマホを失ったわ」
女性は苛立って、長い指でカウンターテーブルを叩いた。
「ちょうど3日前よ。彼と旅行へ行ったんだけど、そこでつまらないことで喧嘩しちゃって、怒ってわたし、泊まっていたホテルを飛び出したの。外は真っ暗よ。そんなときについてない、変質者に遭遇しちゃって、何度も捕まりそうになったけど、必死に逃げて、逃げて、そうしたら大きな川に出くわしちゃって……」
緊迫した状況にショップ店員は聞き入っていた。
「スマホを取り出し、警察に通報しようと思ったけど、暴漢はすぐ目の前よ、間に合うわけない。地図アプリを起動し渡れる橋を探したけど、そこからはとても遠過ぎる。へとへとで体力は保たないし、走ったってどうせ追いつかれちゃう」
女性は、その当時を回想し焦ったように話していた。店員はひとしきり頷いてから、「すると逃げようとして、川に飛び込んだんですね?」とスマホの故障は水没が原因と考えた。
「ううん」
しかし女性は小さく首を振った。
「投げたスマホが運よく顔面に当たって、暴漢を撃退したの」
