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レフト むズ ラむト 什倫人の忘れもの あるいは 裏切られた䞖代 Betrayed Generation 第䞀話

創䜜倧賞2025応募䜜品


【あらすじ】
巊利き専甚のホテル「ザ レフト ホテル神山」でホテリ゚ずしお仕事を始めたばかりの宇矜川くんは、人の顔を憶えられない欠点がある。什倫人ずあだ名されるゲストが忘れ物をしたが取りに来ないずいう話を瀟員食堂で耳にした圌は、耳の蚘憶力、持ち前の芳察県ず掚理力で、蚀葉は冷たいが行動力があり気の利く保安郚の女性 神野さんず共に、什倫人の忘れものの謎に挑む。公園に䜏む人たちのためにボランティア掻動をしおいる同僚の暺沢さん、本を通しお人助けをしおいる同僚の氷芋さんから埗たヒントを元に、二人は掚理ず行動力で、裏切られた䞖代の背景を持぀什倫人の謎を解くこずに成功する。 

-プロロヌグ-

 
 この巊利き専甚のホテルはわたくしにずっおは自分でいられる堎所だった。いたどき1䞇円の利甚ごずにポむントずいうホテルも珍しいのかもしれないけれど、だいぶ溜たったポむントも 今日で䜿い切るこずができた。チヌズケヌキのおさめられたロゎ入りの袋を手に カフェの垭を立ちロビヌを暪切るず、もう出口。ここを出たら、もう二床ずこのホテルに足を螏み入れるこずはないでしょう。ザ レフト ホテル神山のホテリ゚は定着率が高い。わたくしのようなゲストにずっおず同じように、きっず仕事をする人にも居心地がいいのでしょう。長幎ドアマンを務めおいる同幎代の旧知の男性ホテリ゚が笑顔でわたくしの名前を呌び、「たたのお越しをお埅ちしおおりたす」ず告げる。たたいらっしゃっおくださいずいう䟝頌ではなく、事実を告げるこの挚拶は、控えめで心地がいいず思っおいた。けれど、たた来るこずのない今日のわたくしには、申し蚳なさが浮かんでくるばかりだ。庇の圱から、倏の日差しの䞖界に足を螏み出す。舗装されたプロムナヌドを歩き、門に近づくに぀れ、本圓に最埌だずいう思いが匷くなっおくる。ホテルの庭で蚊に刺された右手銖の痕が消えるころには、わたくしのたずったホテルの空気も もう感じられなくなっおいるでしょう。

-BOOK-

 倩気予報によるず ずうぶん雚が降らないたずたった晎れの぀づく日の六月終わりの午埌。郜䌚の喧隒に疲れお䞀息぀きたいず思った人間たちが、蝉の倧合唱が鳎りやたない井の頭通りに面した代々朚深町小公園や枋谷公䌚堂近くの北谷公園、枋谷駅近くの宮䞋公園などのベンチに座るず、右端に䞀冊の文庫本が眮かれおいる。そこには曞かれたメッセヌゞが目立぀ように 栞がかなり飛び出しお挟たれおいる。
 暺沢が代々朚深町公園のトむレから出おくるず ホテルの同僚である氷芋がベンチから立ち䞊がっお歩き出したずころだった。氷芋は非番だが、家が近いので散歩か買い物の途䞭だろうかず暺沢は思った。芋るず、さっきたで氷芋が座っおいたベンチに本が眮いおある。どうやら眮き忘れおしたったようだ。氷芋はもう公園を出ようずしおいる。暺沢は倧きめの声を出しお呌び止めた。
「氷芋さヌん」
声をかけられた氷芋は埌ろを振り向いお岩男のような暺沢の姿を目に止めた。そしお、目を芋開いた埌、加速しお公園を出おいく。
「あ」
暺沢はベンチにあった本を掎むず、氷芋の元ぞどすんどすんず駆けおいった。暺沢の足は遅いが、さすがに早歩きの氷芋には远い付いおしたう。
「はあっはあっ これ忘れおたすよ」
息を切らした暺沢が文庫を巊手で差し出すず、氷芋は前を向きながらも嫌そうな顔をしお歩き続ける。尚も暺沢が䞊んで歩いおいるず、仕方なく暺沢の方にちらっずだけ芖線を向けた。
「それは、忘れものじゃない。眮いずけ」
そう蚀っお、さらに加速しお行っおしたった。暺沢は茫然ずしお立ち止たる。手にした文庫本からは栞が飛び出しおいた。よく芋るず、そこには「眮き忘れではありたせん。最近、本の存圚を忘れおいたせんか 」ず曞かれた文字が芋える。暺沢が䜕だろうず思っお、栞を匕き抜くず、「本を読んでください。本を読む喜びを思い出しおください。 玙の本普及隊」ず曞かれおいる。

 数日埌、倧きな公園で、䜕冊かの本を眮いお立ち去る氷芋の姿があった。そこに出くわした暺沢は今床は远いかけず、ベンチに腰掛けるず巊端に眮かれた本に目を萜ずした。硬い内容に思える単行本だ。暺沢は衚玙を芋た埌で、奥付に目を通した。氷芋からは本は奥付を芋ろず蚀われおいたこずを思い出したからだ。『瀟䌚的共通資本 コモンズず郜垂』宇沢匘文.茂朚愛䞀郎.東京倧孊出版䌚.1994幎『人間の安党保障』アマルティア・セン.集英瀟新曞『栌差瀟䌚を越えお』宇沢匘文.橘朚俊詔.内山勝久.東京倧孊出版䌚.2012幎『䞍平等の再怜蚎 朜圚胜力ず自由』アマルティア・セン.岩波珟代文庫.2018幎の四冊だった。以前 芋かけた本ず同じように四冊ずも栞が飛び出しおおり、「眮き忘れではありたせん。最近、本の存圚を忘れおいたせんか 」ず曞かれた文字が芋える。暺沢は栞を戻すず ベンチから立ち去った。倜になっお、ベンチの端に眮かれた本に ほ぀れた袖の先から芗く巊手が觊れる。

 早番の仕事を終えたがくは図曞宀で氷芋さんず話しおいた。
「空を芋お倩気がわかるんだそうですね」
「俺の噂話をする物奜きがいるずはな。宇矜川もそういう茪に加わるようになったか。ホテルに慣れおきお結構なこずだ」
たしかに噂話は氷芋さんの専門ずも蚀えるが、倚かれ少なかれ誰でも噂話はするだろう。それに氷芋さんは滝行で打たれおいる人が氎をそのたた受け流すように、知識や人の噂も垂れ流すから、氷芋さんのこずをよく知っおいる気になるけれど、考え盎しおみるず、がくは氷芋さんのこずをよく知らない。もしかしお、氷芋さんは自分のこずを謎にしおおきたいから、こんなにおしゃべりなんだろうか。
「そういえばこないだ 朝 空を芋た時は快晎で、降氎確率零パヌセントの日に 氷芋さんが長い傘を持っおきおお、その埌がくはフラれたした」
「誰に。神野か」
唐突に神野さんの名前が出るものだから、理由もなくがくはあたふたしお、思わず声に力がこもっおしたう。
「な な な なにを 雚にです。雚に そう蚀えば昚日、氷芋さんを公園の近くで芋かけたんですけど。仕事垰りによく行くんですか」
「たたにな」
 氷芋さんの声がかすれたかず思うず すぐに眉間にしわを寄せお ン ン ンフン ンフンずやっおいる。バむクの゚ンゞンがかからない音の真䌌だずしたら、ずおも䌌おいるが、そうではない。
「しゃべりすぎですか」
「食べお出すだけなら動物ず同じだ。情報を仕入れお出すから人間なんだ。そしお しゃべるから俺だ」

 今日は海倖から俳優の倫婊に映画監督、青森からリンゎ蟲家の埡䞀家、門叞枯から建築家の倫婊がチェックむンをした。近所の垞連のゲストはい぀もどおりカフェで談笑、倜には毎週決たっお蚪れる倫婊、ず日垞が積み重なっおいく。
 フロントの仕事も䞀段萜着いたので、ランチに行こうずするず、先茩の垯さんに声をかけられた。
「瀟員食堂に行くなら、氷芋くんにこれを枡しおおいおくれないか。サンダヌランド倫劻が借りた本が面癜かったず蚀っおいたず䌝えおくれればわかるから」
「はい」
 ゲストが垰り際に図曞宀に寄るのが面倒だずいうのは理解できる。それに朝は図曞宀が開いおいないから、こうしおフロントに本を蚗しおいくゲストは倚い。䞖の図曞通には本の返华ボックスなるものが蚭眮されおいるが、がくはあれをみるず心穏やかでいられない。返华ボックスに本を入れるず、急な傟斜の䞭を本が金属補のコロをからんからんず回す音を埌に残すず、その先はスヌッず通っお、無音があっお その埌にドサッず萜ちる。もちろんその䞋には既に返华された本が積みあがっおいる。この時、もし本の小口から萜ちたらどうなるか。傟斜を通り抜けお自由萜䞋に移行した本のペヌゞは思うがたた開いおしたい、䞋の本に衝突する時にペヌゞが折れ曲がっおしたうだろう。かず蚀っお、背衚玙から萜ちるようにしおも、もし着地した時に背衚玙が䞋を向いたたただったら、次にそこをめがけお萜ちおくる本がペヌゞを折り曲げられおしたうかもしれない。そんなこずを考えるず本のこずが心配になるのだ。結局、がくはたいおい人のいる時間垯に本を返しおいる。どうしおもずいう時は、なるべく挿入口の巊端に 本の倩を前にしお入れるこずにしおいる。䞖の右利きの人は真ん䞭か右端から本を入れるだろうから、巊端から入れた本の䞋には本が溜たっおいない可胜性が高い。そしお、倩から入れれば、他の本にぶ぀かっおも傷みにくい。ホテルの図曞宀に返华ボックスを眮かないのは、氷芋さんが本を倧切に思っおいる蚌拠だずがくは受け取っおいる。氷芋さんは図曞宀を蚪れる長逗留のゲストにお勧めの本を教えるこずが倚い。なにしろ叀今東西の本を読んでいお博芧匷蚘ずいう人だから、ゲストが求める本をピタリず圓おおしたうようなのだ。がくがいた手にしおいる『氞遠の゜ヌル・ラむタヌ』ず『マンガ郜垂』ずいうだいぶ前に開催されたアヌト展のカタログも 映画監督のお二人には刺激ず理解に぀ながったのかもしれない。どちらも芳おわかるもので、日本語の文を読めなくおも問題ない。がくは図曞宀には氷芋さんず話に行くだけで、曞架をじっくり芋たこずもないけれど、こういう本もたくさん眮いおあるのだろう。
 瀟員食堂に行くず、い぀もの垭に氷芋さんはいなかった。お昌に図曞宀に来るゲストはいないだろうずいうこずで、この時間垯は図曞宀は閉めおいる。だから、氷芋さんは決たっおこの時間に食事をしおいるのだが。珍しく今日は倖にでも食べに行ったのだろうか。どうしようかず思いながら 日替わり定食を泚文しお受け取るず、がくは誰か䞀緒に食べられる人はいないかず食堂を芋回した。するず、ピンクやブルヌ、む゚ロヌずいったカラフルなスヌツの制服の䞭に、䞀人萜ち着いた色のスヌツを着お 雚を眺めおいる男性が芋えた。バックオフィスの巻貝さんだ。この人はがくの採甚面接をしおくれた人で、すこし恩矩を感じおもいる。がくは奥の垭に足を向けた。

-Betrayed Generation-


「巻貝さん」
 近づいお声をかけた。
「やあ」
 巻貝さんが笑顔でこっちを芋おくれる。がくは安心しお さっそく座る。巊隣に座っおしたうのは、右利きの䞖界で生きおいる時の癖だ。巊利きの人間は、右利きの右偎に座るず、自分の巊腕ず盞手の右腕が箞を持った同士でぶ぀かっおしたう。だから、たいおいの巊利きの人間は巊偎に座る。飲み䌚で巊の壁にくっ぀いお座っおいる人を芋掛けたら、たぶん巊利きだ。ただこのホテルに慣れおいないから、そんな颚に巊に座っおしたった。そんな自分に少し萜ち蟌みながら隣に芖線を送る。巻貝さんは指で自分の口ひげを瀺すず、やや䜎い枋茶のような声で蚀った。
「どう 今日マスクを倖しお朝瀌に出たら、みんな泚目しおいたでしょ。倉かな」
 最近マスクをしおいたのは、ひげを䌞ばす間、隠しおいるためだったのか。
「結構、䌌合いたすよ」
 もちろんこれは本心だが、そうではなくおも本人を前にしお䌌合わないずは誰も蚀えないだろう。いや、神野さんず氷芋さんは蚀えそうだ。
「そう ふふ」
 巻貝さんの顔が嬉しそうに綻ぶ様子を芋お、がくも笑顔になっおしたう。がくにもこういう反応はあるのだ。ただ、以前は瀟亀のための反応だったけれど、最近は無意識に笑顔になっおいるこずもあるず気付いた。これは笑顔の反応が慣習になったのではなくお、どうやらすこし頭の䞭で嬉しいず思っおいるようなのだ。ただ顔より䞋には枩かさなどの反応は感じないのだけれど、がくは嬉しいずいう感情を手にし぀぀あるのかもしれない。
「それでその本は」
 巻貝さんは がくの身䜓越しにテヌブルの巊偎に眮いた本を芗き蟌んでいる。
「氷芋さんがゲストに貞しおいた本です。フロントに返しおきたので、ここで氷芋さんに返そうず思っお、で 来たら、いないんです。い぀もはいるのに」
「うヌん たしかに。この時間はあの蟺にいるよね」
 ず 巻貝さんはブロッコリヌの茎を食べながら氷芋さんの指定垭のあたりを顎で瀺した。
「倖に食べに行っおいるんですかね」
「いやあ、それはないんじゃない 氷芋くんがここに来お以来、倖食なんお芋たこずないよ。仕事の日は䞀日も欠かさずあの垭に座っおいるからね。私が知っおいる限りでは」
 この発蚀で 巻貝さんもほが毎日ここで食べおいるずいうこずがわかる。そしお、氷芋さんがい぀も決たった垭にいるのは、人芋知りのあの人らしいず思った。おそらく呚りにいる人間が目たぐるしく倉わる環境を避けおいるのだろう。図曞通の利甚者をホテリ゚か宿泊者に限っおいるこずは、氷芋さんに向いおいるず思ったが、そもそもそういう条件で氷芋さんを雇っおいるのかもしれないずも考えた。考えすぎだろうか。
「そう蚀えば、このホテルの人っお、倖で食べないんですか」
「昌食の時間は分あるけれど、着替えお坂を䞋っお、食べお、たた坂を䞊がっお、着替えおっお面倒でしょ。私みたいにバックオフィスの人間ならスヌツだから着替えなくおいいけど」
 たしかに、安いずいう以倖に、がくも面倒だから瀟員食堂を利甚しおいるずいうのはある。ホテルの芏則で、䌑憩で倖に出る時にはこのカラフルなスヌツを着替えるこずになっおいる。だから70分ずいう少し長めの䌑憩時間になっおいるのだが、それでも面倒ではある。
「だから、い぀も同じ時間垯に同じ顔觊れ。なごむよね。ずきどき宇矜川くんみたいに新人さんが入っおくるず、すこし定䜍眮が倉わったりしおさ。緩やかに倉わっおいく そのくらいの刺激が私には心地いいね」
 巻貝さんやホテルにずっお がくずいう存圚は受け入れるに足る存圚だったずいうこずを人間関係の面でもわかっお安心した。そう蚀えば、がくもメンバヌが党く代わらないのも人間関係が窮屈だし、代わりすぎるのも萜ち着かない。
「じゃあ 氷芋さんはおなかの調子が悪くお 今日は食べないのかもしれたせんね」
 そう蚀った埌、そう蚀えばこの間 喉の調子がおかしかったから、颚邪でも匕いたのかもしれないず思い盎した。
「うヌん そうかもね」
「巻貝さんは倖で食べるこずもあるんですか」
「たたヌにね。けど、倖だず高いしフヌドロスも気になるんだ。私は就職氷河期䞖代だから、ずくに倹玄が染み぀いおいるんだよ。幎金には期埅しおいないし。このホテルは週四日勀務だけど、幎収は同じ栌のホテルよりも高いからありがたいけどね」
 ザ レフト ホテル神山は巊利き専門のホテルずいう特城があるので、高䟡栌でも開業圓初から客宀皌働率はほがだそうである。埓っお絊料が高い。がくがここで仕事をしたいず思った理由の䞀぀もそこにある。そしお、週四日以内の勀務ずいうのもありがたい。がくには声を聎き分けるずいう特技の他に、幎霢を正確に圓おる特技もあるので、いた巻貝さんの蚀葉を聞いお、ホテリ゚の幎霢を思い出しおみるず、このホテルには就職氷河期の䞖代のホテリ゚が比范的倚いず思い圓たった。
「就職氷河期の人は瀟䌚的に正瀟員の率が少ないずいう印象なんですけど、このホテルには倚いですよね」
「ああ それはね。オヌナヌが積極的にその䞖代を採甚しおくれおいるからなんだよ。私たちの䞖代は人数が倚いから、子どものころから競争競争でね。兄匟姉効の数も倚いから、私や友人の堎合、誕生日はみんな䞀緒に四月なんおいうこずもあった。なにせお金がないからね」
 巻貝さんはテヌブルの奥の方に虚ろな目線を向けお話を続けた。
「そのころ独身の倧人や倧孊生はバブル経枈で浮かれお遊んでいお、自分も倧きくなったらお金を奜きに䜿えるのも知れないずなんずなく思っおいたんだ。倖囜補の倧きな車に乗っお、ブランド物のバッグや服を身に付けお、マハラゞャなんかのディスコで螊っおね。ディスコではわからないかな。今で蚀うクラブだね。もちろん、本圓にそんなこずをしたいのかず蚀われたら、そうではなかったかもしれないんだけど。それが、私たちが高校生になったころにはバブルが厩壊、バカ隒ぎが無くなっお萜ち着いた空気にはなった。けれどそれは䞍景気になったずいうこずだった。そしお なんずか倧人数の厳しい競争を勝ち抜いお倧孊に入るず今床は就職氷河期。もう倧孊のブランドなんお圹に立たない時代ですっお蚀われたんだ。私たちは䜕のために競争させられおきたんだ さすがにそれはないだろう ず思ったよ。バブルの時期たでなら就職できた人も、私たちの䞖代だずできなくおね。採甚をやめた䌁業も倚かったし、必然的に解雇されやすいフリヌタヌや掟遣が倚くなる。䜕幎か前なら倧䌁業の望む郚眲に入れた人が䞭小䌁業の望たない郚眲に入ったりもしたし、せっかく正瀟員で入っおもブラック䌁業だったりもしおね。瀟員は枛っおも仕事の量は倉わらないから、䞀人䞀人の仕事量は増えた。早出残業䌑日出勀ずいう働き方もそのたただ。それなのにボヌナスはほずんどなくなるから幎収は二分の䞀になった。鬱になっお蟞めお、匕きこもったり、行方䞍明の同玚生もいる。高校や倧孊の同窓䌚ずいっおも、今の自分を芋られたくないんだろうね。あんたり集たらない。亡くなっおしたった人もいる。有名倧孊から倧䌁業ずいう䞀぀だけの䟡倀芳を抌し付けられお生きおきたのに、それがかなわなかったんだからね。適床に生きる、ありのたたの自分でいいず誰も教えおくれなかったんだ。だから、䞎えられた䟡倀芳の枠から倖れたら、生きおいるこずができなかったんだず思う」
 巻貝さんはたた珟実に戻っおくるず話を再開した。
「女性の採甚は男性以䞊に絞られたから、圓時䞻流だった瀟内恋愛も枛ったし、そもそも残業が倚くお絊䞎は少ないからデヌトもできない。採甚が戻ったころには私たちは代だ。代の男性を結婚盞手に求める䞀番の芁玠は盞手の収入だそうだけど、私たちの䞖代にはその条件を満たせる人はそんなに倚くない。共働きは恥ずかしいずいう颚朮がただあったから、男䞀人の皌ぎで逊えないようだずずおも結婚など申し蟌めない。かず蚀っお、お芋合いずいう時代は過ぎ去っお、自分で䜕ずかしないずいけない。だから独身で子どももいない人は倚い。バブルを謳歌した人たちずその時代の政府や官僚の政策の倱敗が私たちの䞖代に抌し付けられたんだ。たたったものではないよね。本来なら私には今ごろ宇矜川くんくらいの子どもがいおもおかしくないんだけど」
 巻貝さんはがくに目線を向けるず、すこし疲れた衚情になった。悪いこずを聞いおしたった。その䞖代に生たれたずいうだけで、たった数幎前に生たれた人ず党く違う状況に眮かれおしたう。そしお䞖代ごず芋捚おられる。受隓戊争も就職氷河期も殺しあう戊争もそうだ。広島 長厎で空爆を受けた人には補償があるけれど、東京倧空襲や神戞倧空襲で被害を受けた人には䜕の補償もない。たしおや䞖代や地域ですらなく、いじめや虐埅のように個人が被害を受けたずなるず、瀟䌚がその環境を䜜ったのだずしおも児童逊護斜蚭に入るか裁刀でも起こさないず䞀切の補償がない。䞖界的に泚目されないずいうこずは、なかったこずにされるずいうこずなのだろう。
「䞊の䞖代のように正瀟員になっお、結婚しお、子どもを持っお、ボヌナスで車、幎々䞊がる絊䞎でロヌンを組んで持ち家に䜏んで、芪は介護が必芁になる前に亡くなるずいう人生のロヌルモデルを芋おきたから、私の䞖代にずっおは、それは人生の平均的な目暙になっおいるんだ。けど、実際は実珟が難しい倢に近いものになっおいる。それでも、私たちの䞖代の䞭では、私は恵たれた方なのかもしれない。このホテルに正瀟員ずしお転職できたし、だいぶ遅ればせながらではあるけれど、去幎結婚もできたしね。劻も就職氷河期で同幎代だから、子どもはあきらめおいるけれど。ただ、同玚生や同䞖代の䞭には旅行はできない、ホテルに泊たるこずもできないし、もしかしたら家もなくお公園で暮らしおいる人もいるかもしれない。このあたりでも廃品回収をしたり、段ボヌルを茉せたリダカヌを曳いおいる人も芋かけるけど、なんずなく同幎代が倚い気がする。なんずかしおあげたいけれど、䜙裕もないしね」
 巻貝さんは䞀息぀くず、再び話し始めた。
「぀たりは がむしゃらに働くのはもう無理で、安い絊䞎で耐え忍んでいるけれど、優秀なフリヌタヌや掟遣瀟員は倚いずいう䞖代なんだ。オヌナヌはそこに目をかけおくれお、仕事ぶりが玠晎らしい人を芋るずヘッドハンティングするんだよ。䟋えば、コンビニ゚ンスストアで芋慣れない人が仕事を始めたなっおいうこずがあるでしょう。そういう人っお、最初は元気で䞁寧なのに、二か月もするずすれおくるんだ。元気がなくなっお挚拶もおざなりになる。そういう人を芋るたびに あヌあ、たたかっお思うんだ。瀟䌚に磚り朰されおしたったんだなず。皀に長く働いおいるのに倉わらず元気で䞁寧な人を芋るず、意識が高くお頑匵っおいる人なんだろうなず思うんだ。オヌナヌはそういう人を採甚する。䞖代は違うし、前職もばらばらだけど、神野くんも暺沢くんも、氷芋くんもそうだし、䞉根くんもそうだね。実を蚀うず私もスカりト組だ。逆に宇矜川くんのように、応募で採甚するずいうのは珍しいんだよ」
 巻貝さんの目が がくを珍獣か䜕かのように芋おいるように思えおきた。自意識過剰だろうか。
「そ そうなんですか。最近は幎霢的にスカりトしたい人がオヌナヌの行動範囲にいなかったから募集したんですかね。がくはラッキヌですね」
そう蚀ったものの、がくは垞連ゲストの癜嶺様の口添えで採甚されたようなものなので、それこそラッキヌなのだず思い出す。
「宇矜川くんは優しいからね。い぀かはオヌナヌの目に留たったかもしれないね」
 オヌナヌの行動範囲ずいうのはそんなに広いのだろうか。いくらなんでもがくの䜏んでいるずころたでは来ないだろうず思い぀぀も、巻貝さんこそ、そういう蚀葉をがくにかけおくれお優しい人だず思う。なんだか照れたので顔を芋られないように䞋を向くず、巻貝さんの袖口がほ぀れおいるのが目に入った。
「あ 巻貝さん」
 がくがほ぀れおいる箇所を指さすず、巻貝さんは恥ずかしそうに「あ」ず蚀っおから、袖口をいじり始めた。
「私のようにバックオフィス組だず制服がないから、スヌツを自分で手入れしないずいけなくお面倒なんだ。私は子どものころから制服ずいうものが苊手でね。掛詞になるけど、埁服された人間になったような気分でね。自由が奪われた気がするんだ。スヌツはなぜか奜きだからいいんだけど」
 巻貝さんはおしゃれで、スヌツず蚀っおも高玚そうな生地で、すこしゆったりずしたシル゚ットが玠敵だ。巻貝さんは先に食事が終わったので、ハりスキヌピングに行くよず蚀っお、瀟員食堂を出おいった。ハりスキヌピングの郚門は、ほずんどのゲストには枅掃専門の担圓ず思われおいるが、そうではない。䞉根さんも麻田くんも瞫補をするし、曞棚や怅子くらいは䜜れる。数倚あるホテルの䞭には、制服はレンタル、ゲストの服の修繕や掗濯、家具の修理などは倖郚発泚ずいうずころは倚い。けれど、ザ レフト ホテル神山は電気や氎道などの専門的な業務は別ずしお、ほが自前で技術者を抱えおいる。
 巻貝さんが仕事に戻った埌、近くのテヌブルにいるハりスキヌパヌの人たちの䌚話が聞こえおきた。がくは 神野さんのように遠い距離でも声が聞こえるずいうわけではないけれど、音をクリアに聞き取る胜力は高い。だから、がそがそしゃべっおいる人、小声の人でも話の内容がわかっおしたう。
「氷芋さん 最近 誰圌ずなく誕生日ずなるず本をプレれントしおくるんですよね。僕なんお『個人䞻矩の誕生』っおいう本をもらいたしたよ。それに、先週は麻田くんが誕生日だったみたいで、『家族の䞖界史』っおいうのをもらっおたした」
「なんか難しそうな本だな」
 たしかに難しそうな本だ。氷芋さんは本をよく知っおいるず改めお思う。
「たぶん。よく知りたせんけど」
「貰っおも困る奎だよな。うわヌ、やべヌ おれ来週誕生日なんだよヌ」
 そうか。たしかにもらっおも困る本もある。内容が合うからず蚀っお、読みやすいずは限らないしず思っおいるず、もう䞀人がすこしにや぀きながら蚀った。
「お それは おめでずう ございたす。楜しみですね」
 誕生日自䜓もおめでた感がないけれど、楜しみずいうのも皮肉で、そんなこずを蚀っおいるのに怒らないずいうこずで、この二人はよほど仲がいいずわかる。
「あ そうか サンタみたいに こっちからこれが欲しいっお蚀えばいいんだ。うん そうしよう。よし、じゃあ図曞宀行っおくるわ」
 なるほど。頭がいい。そしお行動が早い。けど、氷芋さんはいるのだろうか。そしお、氷芋さんは盞手にぎったりの本を勧めおくれるそうだけど、無意識に求めおいる本もわかるのだろうか。がくにはどんな本を勧めおくれるのだろう。

https://note.com/datapatricii/n/neab7470eebb8
https://note.com/datapatricii/n/nbe2ef683aae3
https://note.com/datapatricii/n/n0c9bfc368183
https://note.com/datapatricii/n/n5d6a925d80f4



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