必ず当たる抽選券
商店街の福引だった。
買い物をした人に配られる、よくある抽選会。
ティッシュ。
洗剤。
商品券。
特賞は温泉旅行。
休日の午後。
私は特に期待もせず列に並んだ。
ガラガラを回す。
白い玉が出る。
参加賞だった。
やっぱりな。
そう思って立ち去ろうとした時だった。
受付の老人が声をかけてきた。
「これを持っていきなさい」
差し出されたのは一枚の抽選券だった。
見たことのない券だった。
番号もない。
店名もない。
ただ一言だけ書かれていた。
必ず当たります
私は思わず笑った。
「何ですか、これ」
老人も笑った。
「当たる券だよ」
冗談だと思った。
財布に入れたまま忘れていた。
数日後。
駅前のキャンペーン抽選会で使ってみた。
一等だった。
最新型の掃除機をもらった。
運が良かった。
そう思った。
翌週。
ショッピングモールの抽選会。
旅行券が当たった。
翌月。
懸賞サイト。
高級家電が届いた。
さらに宝くじ。
小額ながら当選。
クレジットカードのキャンペーン。
ギフト券当選。
応募したものが次々と当たる。
外れる方が珍しくなった。
私は喜んだ。
もちろん嬉しかった。
誰だってそうだろう。
最初のうちは。
友人たちも羨ましがった。
「運が良すぎるだろ」
「今年の運全部使ってるんじゃないか?」
私も笑っていた。
だが、しばらくすると妙なことに気づいた。
周囲の運が悪くなっている。
会社の後輩は旅行券を逃した。
友人は昇進試験に落ちた。
妹は抽選販売に外れ続けた。
偶然だ。
そう思った。
だが偶然にしては重なりすぎていた。
ある日。
同僚が落ち込んでいた。
息子が楽しみにしていたテーマパークの招待券が外れたらしい。
倍率は高くない。
例年なら当たるはずだった。
その話を聞きながら、私はスマートフォンを見ていた。
ちょうど同じテーマパークから通知が届いていた。
招待券当選のお知らせだった。
私は何も言えなかった。
その夜。
久しぶりにあの抽選券を取り出した。
紙は少し黄ばんでいた。
裏返してみる。
初めて気づいた。
裏面に小さな文字が書かれている。
あまりにも小さくて見落としていた。
私はスマートフォンのライトを当てた。
そして読み始める。
当選した景品は、
他の誰かが失った当選権より補填されます。
意味が分からなかった。
いや。
分かりたくなかった。
ページの続きを読む。
当選者の利益は、
非当選者の機会損失により維持されます。
私は椅子から立ち上がった。
頭の中で様々な出来事がつながる。
同僚。
友人。
妹。
周囲の不運。
私の幸運。
まさか。
そんなことはない。
そう思いたかった。
だが、それからも当たり続けた。
旅行。
商品券。
現金。
昇進。
欲しかった物。
欲しかった機会。
全て手に入る。
そのたびに誰かが落ち込む。
誰かが外れる。
誰かが諦める。
私は抽選券を捨てようとした。
だが捨てられなかった。
怖かったのだ。
失うことが。
当たることに慣れてしまっていた。
翌朝。
ポストを開ける。
一通の封筒が入っていた。
差出人は書かれていない。
中には見覚えのある紙が入っていた。
新しい抽選券だった。
真っ白な紙。
そして中央に同じ文字。
必ず当たります
私はしばらくそれを見つめていた。
遠くで誰かが歓声を上げる。
また誰かが落胆しているのかもしれない。
今日も抽選券が届く。
ろうそくが一本、静かに消えた。
🕯️
残り九十本。
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