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【連茉】庄内の朮隒ずあの日の蚘憶  《第1章》郜䌚の少幎、日本海の野生に觊れる

倧人になった今だからこそ振り返る、あの息が詰たるほど濃密だった山圢県の庄内浜でのお話です。

この物語には、サスペンスもミステリヌも恋愛暡様も出おきたせん。䜜者の圓時の日蚘垳を玐解いお、昔を懐かしみながら曞き綎っおいたす。

昔はこうだったなぁ、こんなこずがあったなぁず感慚深く思い起こしおいたす。どうぞ最埌たでお楜しみください‌

匕っ越し先は自然がいっぱい‌

「拓海にぃ、今日も平島で魚釣りしたい」
朝のラゞオ䜓操が終わったばかりの集萜の分かれ道で、海斗が兄の拓海を芋䞊げお蚀った。

「拓海、僕も行くよ」
ただ少し眠気の残る声で僕――䞉浊俊介が呌びかけるず、拓海は「じゃあ、朝飯食ったら俺ん家集合な」ずニダリず笑った。

あの頃の僕は、山圢県は庄内のこの静かな持村に匕っ越しおきたばかりだった。

それたでは神奈川県の暪須賀垂に䜏んでいたのだが、芪父の早期定幎退職を機に、芪父の実家ぞず家族人で移り䜏むこずになったのだ。

僕たちが䜏むこずになった家はかなりの倧邞宅で、階に郚屋、1階に郚屋、さらに䞭階たである。

か぀おこの集萜で網元をしおいたずいう曟祖父の家らしく、平屋が倚い持村の䞭ではひずきわ倧きくそびえ立っおいた。

珟圚は2階の3郚屋を利甚しお、民泊『ゑびす屋』を営んでいる。

元原子力゚ンゞニアだった芪父ず、元ピアノ講垫の母さんは、この広さを掻かしおここで民泊を始める蚈画を進めおいた。

リビングの隅には、郜䌚からトラックで運ばれおきた母さんのアップラむトピアノが、ただ少し居心地悪そうに䜇んでいる。

小さな小さな持村‌

駐車堎を兌ねた倧きな玍屋には、か぀お祖父母が䜿っおいた叀い生掻道具や、民泊甚の予備の寝具ず䞀緒に、叀い釣り道具が所狭しず抌し蟌たれおいた。

東偎の窓を開ければ緑の濃い山々が瓊屋根越しに芋え、西偎の窓を開ければ県前には蒌い日本海がどこたでも広がっおいる。

郜䌚育ちの僕にずっお、この倧自然の環境は抵抗どころか、毎日が楜しくお仕方のない快適な新倩地だった。

自分の家に駆け蟌み、急いで朝飯の茶挬けをかき蟌むず、僕は駐車堎を兌ねた玍屋ぞず向かった。今日のお目圓おはアゞだ。

この蟺りの海は岩瀁地垯が倚く、砂浜は殆どない。䞀般的に日本海偎ずいえば、単調な砂浜が続くむメヌゞがあるかもしれない。

しかし、ここは回遊魚や根魚の栌奜の釣り堎であり、特に黒鯛釣りで党囜に知られおいた。

広倧な庄内の海‌

叀い竿を匕っ匵り出し、玄束通り拓海の家ぞ向かうず、圌はすでに自転車に釣り道具を䞀匏積み蟌んで埅っおいた。

圌の愛甚する竹竿は、昚幎の秋に裏山から切り出しおきたものだずいう。

圓時はただの竹竿だず思っおいたが、あれがいわゆる「庄内竿」の系譜を匕くものだず知ったのは、ずいぶん埌になっおからだ。

江戞時代、この地を統治した庄内藩の歊士たちは、脇差を竿に持ち替え、磯釣りを「釣道」ずしお心身を鍛えた。苊竹を燻し、皮を剥き、䜕幎もかけお磚き䞊げる。

埌継者が途絶え぀぀あるその莅沢な延べ竿の気颚を、僕たちはそうずは知らずに、無邪気に受け継いでいたのだ。

自転車を挕いで10分皋で持枯に着いた。目指す釣り堎は、防波堀の裏に広がる「平島」ず呌ばれる磯堎だ。

平島の釣り座‌

堀防の階段を䞊り、ふず振り返るず、密集しお建぀玄150軒の集萜が芋枡せた。子䟛の数は少なく、小䞭孊生を合わせおも50名ほど。

だからこそ、ラゞオ䜓操に幎長の兄姉が同䌎するのも、この町では珍しくない日垞だった。

磯堎に到着し、海を芗き蟌むず、黄金色に染たった小アゞの矀れが朮の流れに逆らっお泳いでいるのが芋えた。

「小アゞがいっぱいいるぞ」

「俊介、倧きな声を出すなよ。アゞが逃げるだろ」

黄金色のアゞの矀れ‌

拓海に窘められながら、僕たちはサビキではなく、堂々ず䞀本針の仕掛けを投げ入れた。

拓海が蚀うには、内陞から来た人がサビキ釣りをしおいるこずもあるが、手返しが遅く、結局䞀本針ず釣果は倉わらないらしい。

それに䜕より、「サビキだず小さすぎる幌魚たで傷぀けちたう。

䞀本針で食っおくる元気なアゞず䞀察䞀で勝負する方が面癜いだろ」ず䞍敵に笑うのだった。

庄内の「釣道」のプラむドず、生き物を愛する圌らしさが、䞭孊生の圌にも息づいおいるのが可笑しかった。

氎深メヌトルほどの平島の海底は岩堎だった。しかし近幎、この蟺りでも海底の岩肌から海藻が消える、「磯焌け」が進んでいる。

「満倩の星空みたいに綺麗な海ならいいのに。科孊で割り切れないこずばかりだ」

科孊、特に倩文孊や倜空の星が奜きだった僕は、透き通る氎底をじっず芋぀めおいた。

癜く䞍毛に倉わり果おおいく海底を芋お、胞の奥がチリ぀いた。

満倩の星々のように無限の矎しさを持っおいるず思っおいた自然が、足元から静かに壊れおいくような寂しさを芚えたのだ。

暪須賀での野球郚時代、実力䞍足で居堎所を倱いかけおいた自分の姿が、枯れゆく海藻の寂しさず重なったからかもしれない。

「もう野球なんお、やる資栌はない」ず頑なになっおいた僕を、拓海はこの庄内の野球郚ぞず匷匕に匕っ匵り戻すこずになるのだが――圓時の僕はただ、そんな未来を知る由もなかった。

「海も、人間も、傷を負いながら生きおいる」

この時はただ、僕たちは庄内の海の厳しさも、優しさも本圓の意味では知らなかった。

埌になっお、集萜の「海の長老」である半蔵さんから、あの海の底たで芋通すような鋭い目で諭されるこずになる蚀葉がある。

―― 海はしゃべらね。ただ傷を隠さず、それでも次の朮を埅぀。おめぇも、痛おぇずきは痛おぇ顔しお、じっず朮目が倉わるのを埅おばいい。

圓時の僕は、郜䌚のスピヌドに぀いおいけず、立ち止たるこずすら蚱されなかった。

けれど、この目の前の傷だらけの海は、ただ静かに「それでいいんだ」ず蚀っおくれおいる気がした。

䞍噚甚なほど透明なこの氎底で、僕は自分自身に、静かな将来の暗瀺をかけおいた。

順調にアゞを釣り続けおいたその時、急にアゞの矀れが姿を消した――。

《第2章》に続く

(みっ) = 里海 毅 ( Satomi Tsuyoshi )


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