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【青ブラ文学部】傷口と痛み【SF】

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ようこそ、皆さま

いつもは火曜に流れ着くメッセージボトルなのですが、今日は潮の流れが変わったみたいで浜辺に流れ着いたみたいですね。

どうやらこのボトル「何かの報告書」らしいのですが、何やら怪しいですね。

それに、僕の左ヒレが痛くなってきたような……。

まあ、気のせいでしょう。

それでは、一緒にこのボトルを見ていきましょう!


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​【実験報告書:第1報】


日付: 202*年4月12日
記録者: 主任研究員 C
所属: ■■■■応用認知科学研究所 / 第3研究部門
実験件名: VRにおけるノーシーボ効果と間主観性の相関に関する予備観察

​1. 実験目的


仮想現実(VR)を介した視覚的錯覚が、認知上の痛み(ノーシーボ効果)を緩和あるいは増幅させるプロセスを解析する。
特に「他者の視線が存在すること」が被験者の生体反応に与える影響(間主観的相互作用)の測定を主たる目的とする。

​2. 実験手順および経過


高精度VRゴーグルを装着した被験者Aに対し、腕を刃物で切られる映像を提示。
同時に、現実の被験者Aの腕には「常温の水滴」を一滴落下させた。

​3. 観察結果


​◯被験者A: 映像に対する軽度の身震いと、一時的な血圧の低下(軽微なショック反応)を検出。
しかし、触覚刺激が水滴であると理解するにつれ、生体数値は速やかに平常値へと復帰した。
解剖学的・物理的損傷は一切存在しない。

​◯総括: 予測通りの極めて正常なデータ。
VRによる認知の歪みは、他者からの干渉がない閉鎖環境においては最小限に留まることが実証された。
次週より観察対象のパラメータを拡張して継続する。

​【実験報告書:第2報】

​日付: 202*年4月19日
記録者: 主任研究員 C
実験件名: 実験進行中の異常事態に関する即時発生記録

​1. 経過観察


前回の実験データを踏まえ、モニター越しに実験状況をリアルタイム監視する「観察員B」を配置して同様のテストを実施。
被験者Aの生体反応は第1報と同様、物理的無害性を認識した時点で沈静化した。

​2. 異常事態の発生


実験終了直後、被験者Aではなく、副室でモニターを注視していた観察員Bが「左腕に猛烈な熱感と激痛」を訴え崩落。驚くべきことに、観察員Bの左腕前腕部に、まるで刃物で直に割かれたかのような明確な一本の赤い線(線状痕)が発現。
数分後、同部位からの微量な皮下出血を確認した。

​※補足(映像記録): 監視カメラのログを再検証した。
Bの周囲に物理的な刃物や不審者の侵入はなく、皮膚の表面が何もない空間で自発的に裂け開く様が記録されていた。

​3. 仮説と考察


被験者Aの皮膚には一切の傷がない。
物理的刺激を受けたのはAであり、Bはガラス越しに映像と生体データを見ていただけである。
なぜBの肉体に創傷が生じたのか?
Bは高い共感性を持つ人物である。
被験者Aの「斬られたという一瞬の錯覚」が、Bの強烈な認知(観測)を経由したことで増幅され、間主観的ネットワークを通じて「痛みと傷」の事象がBの肉体へ転写されたと推測される。

​追記: 観察員Bの腕の線状痕は徐々に深くなっている。
Bの悲鳴が止まらない。
本実験は極めて危険と判断し、即座に中断処理を行った。

​【最終報告書:査察と結論】

​日付: 202*年4月25日
記録者: 統括監察官 X
件名: 実験の中止、および事案発生後の汚染拡大に関する最終検分記録
​本報告書は、主任研究員Cから提出された第1報および第2報、ならびに保管されていた実験室の監視映像データを徹底的に検分した結果である。

​1. 事実関係の整理


第2報提出の翌日、主任研究員Cは自室にて意識不明の状態で発見された。
Cの左腕には、観察員Bのものと完全に一致する深く鋭利な斬創が刻まれていた。
Bの状態も悪化の一途を辿っている。

​2. 破綻した前提と真の構造


当プロジェクトの真の恐ろしさは、Cの考察すらも甘かった点にある。
この実験における真の被験者は、VRを被った被験者Aでも、それを監視していた観察員Bでもなかった。

​「他者の痛みを、映像や文章という記録を通じて認知した者すべて」

​それが、この実験の本当の対象(被験者)だったのだ。
Aの錯覚はBへ伝播し、Bの悲劇を記録したCへと伝播した。
そしてCが残した詳細なテキストと画像を精査した私(監察官X)の脳内にも、いまや「鋭利な刃物が皮膚を割く、冷たく熱い感触」が鮮明なイメージとして生々しく結像している。

​3. ■■への警告


いま、わたしの左腕の皮膚が内側から裂け、あかい筋が浮き上がり始めている……。
文字を打つ指が痛みに震えて、うまくキーが叩けない。

​もう、すべて遅い。
この現象は研究室の壁など容易く通り抜け、文書という媒体に乗ってその世界へと拡がり続けている。

​……いま、この報告書を読み、あたまの中で「刃物」と「腕の傷」のイメージを浮かべてしまった、あなたへ。


​あなたの腕は、まだ痛んでいないだろうか?




(了)


※この物語はフィクションです。

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今回初めて【山根あきら】さんの企画に参加させていただきました。
思考をフル回転させて書いたので、ショート寸前です💦
それでも、書いてよかったと思います。
とても楽しかった~♪

また機会があれば書かせていただこうと思います!


毎週火曜日に自分の作品を投稿、企画に参加させていただく時は不確定的に投稿します!

気に入った方は是非スキやフォロー、シェアしてもらえると嬉しいです。

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