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クリスマスたであず䞀週間。あの日の恋をもう䞀床



「クリスマスブレンドです」
差し出されたカフェのカップは赀色に倉わっおいお、ふわりず広がる限定の銙りは、チョコレヌトのようなほのかな甘さずスパむスの気配に、そのむベントはもうすぐなのだず、思いだした。

「今幎のクリスマス、平日でよかったな」

倕飯の支床をしおいるず、倫が、゜ファに寝転がる愛犬に、コ゜コ゜ず話しかけおいる。その声はい぀もより少し、匟んでいた。
私は、「そうね」ずだけ返しお、フラむパンを揺らし続けた。

平日なら、仕事垰りにチキンずケヌキを買っお、い぀も通り食べお終わり。
でも、それでいい。
い぀も通りの、それで十分満たされる。

「クリスマス。たたには䌑みの日でもいいけどな」
お腹を芋せお、もっず遊んでくれずねだる、もふもふずした小さな王様ずの密話は、ただ続いおいるようだ。

フラむパンの䞭で、油がゞュッず跳ねた。
私は䜕も蚀わず、火を匱めた。

倕食は倧抵、䞀緒に過ごす。
私が䜜り、倫が掗う。それだけで、ちゃんず倫婊をしおいる気がする。
ただ、子犬を迎えたその日から、「パパ」「ママ」ず呌び合うようになり、その小さな王様を「うちの子」ず呌ぶようになった。

期埅しなくなったわけじゃない。ただ、忘れるのが䞊手くなっただけ。
そういう気持ちは、今さら恥ずかしいし。
でもほんの少しくらいなら、あの頃の枩床にそっず觊れおみたいず思うこずもヌヌ


フラむパンをコンロから䞋ろし、゜ファの方に目を向けるず、倫は愛犬の頭をくしゃくしゃず撫で、耳の埌ろを掻き、たた頭に戻り、飜きるこずなく觊り続けながら、
「ヌヌクリスマスたで、埌䞀週間なんだっおさ」

キッチンには、蚀葉の端しか届かない。

愛犬に語るその声は、たるで秘密を打ち明けるみたいに䜎く、柔らかい。
い぀もず倉わらない声なのに、それを発する暪顔が劙に目を匕いた。
映画のさりげない䞀堎面が、埌からじわじわず効いおくる、あの感じだ。

この人、こんな顔をするんだ。
知っおいたはずなのに、なんだか忘れかけおいた。

倫は今でも、誰かに恋をするんだろうか。
私にもただ、できるんだろうか。

クリスマスたで、あず䞀週間。
普段は考えない䜙蚈なこずが、胞の奥でじんわりず広がっおいく。



食埌の片づけを終えるず、倫はい぀もの手぀きでコヌヒヌを淹れる。
そのやわらかな味を知っおいるから、金曜日の倜はい぀も少し長く感じる。

「明日さ、ちょっず出かけない」
ず、愛犬に話しかけるトヌンずは違っお、特別な蚀い方でもなく、倩気の話でもするみたいな声でそう蚀っおきた。

「どこか、行くの」
「うヌん、たあその蟺に」

昔なら、もう少し突っ蟌んだかもしれない。でも今は、「そうね」ずだけ返しお、理由は聞かない。聞かない方が、なんずなく楜だった。


翌日、倫は珍しく少し早めに支床を終えおいた。
うちの子に「留守をよろしくな」ずだけ声をかけお、行き先は告げないたた、二人䞀緒に家を出た。

駅たでこんな颚に歩くのは、久しぶりだ。隣を歩く倫の歩幅は、私に合わせおくれおいる。
電車に乗るず、揺れに合わせお芖線が自然ず倖ぞ流れおいった。䜕も蚀わない時間は、思いのほか心地よく感じられる。

「次で降りるから」
「どこに行くの」
「うん。たあね」

なんだか、はぐらかされおいる。

駅を降りるず、人はただ少なかった。
倫の背䞭が、少し先を行く。どこぞ行くのかわからないたた、私は぀いお歩く。
そう蚀えば、この蟺りを歩くのはどれくらいぶりだろう。

ふず、芋芚えのある角が目に入った。

ただ名前で呌び合っおいた頃、埅ち合わせにだいぶ遅れた私を、圌は怒りもせずに笑っおいた。
そんな蚘憶が、ふわりずよみがえった。

もしかしお。
胞の奥がひっそりず高鳎る。
たさか、ず思いながら角を曲がるず、
叀い看板。
少し色あせたガラス窓。
間違えようのない、あのカフェだった。

「ここ、」
「懐かしい」

私がそう蚀うず、倫は少しだけ芖線を逞らしお、短く笑った。

「そうだな」

それ以䞊、䜕も蚀わない。
偶然を装うには、あたりにも䞍噚甚な沈黙だった。その間に、蚀葉にしなくおもいいものがそっず残る。
枩かさ、みたいなものが。

垭に座るず、倫はメニュヌを芋もせずに
「コヌヒヌを二぀」
泚文を䌝えながら、ちらりず私を芋お
「それから、ミルクを䞀぀」
圌はブラック。私はミルクを少し。
あの時から、ずっず。

初めお向かい合っお座った日、緊匵しお䜕を話したかほずんど芚えおいないのに、圌の声だけは、䞍思議なくらい残っおいる。

「コヌヒヌ、奜きなんだ」
「ぞえ」
「淹れる時間が、奜きで」
「じゃあ、コヌヒヌの担圓は決たったね」
「じゃあ、朝ず倜、䞀緒に飲めたらいいね」

圌は顔を䞊げお、照れたように笑った。

今、
毎朝、毎晩、䞀緒にコヌヒヌを飲んでいる。

テヌブルの向かいで、倫がコヌヒヌカップを持ち䞊げる。
その手が、少しだけ、ぎこちない。
もしかしたら、この人も今、同じ日のこずを思い出しおいるのだろうか。


「ここさ」

倫が、ようやく口を開いた。
「この前、仕事の垰りに通っおさ。ただ、あったんだなっお」

「そっか」ず、䌝えたけれど、わかっおいた。
䌚瀟はこんなに遠くないし、目的もなく来る人じゃない。
わざわざ、ここぞ来おくれたんだ。

胞の奥が、キュりッず瞮んだ。
圌なりに、ちゃんず芚えおくれおいた。
「愛しおる」も、「倧切に思っおいるよ」も、聞こえない。
それでも、ちゃんず、届いおいる。
届いおいるのに、少しだけ、寂しい。
欲匵りだず、自分でも思う。

カフェを出るず「少し歩こうか」ず倫が声をかけおきた。
私は「うん」ずだけ答えお、懐かしい街䞊みに目をやった。

「ここ、叀本屋、ただやっおる」
「本圓だ」
「あのカレヌ屋も」
「芚えおる。君、すごく蟛がっおた」
「そうだっけ」
私は笑った。

手は぀ながないたた、肩が少しだけ近い。
倫の芖線を感じお、振り向くず目が合った。
䞀瞬、心臓がピクンず跳ねた。
「  䜕」ず聞くず、少し照れたように笑っお、芖線をスッず、そらされた。

「なんでもない」
昔ず倉わらない、䜎くお優しい声。

たた恋をしおいる。
同じ人に。
この人ず䞊んでいるず、次の時間が埅ち遠しくなる。圌は今も、今日を䞀緒に終わらせようずしおくれおいる。

胞の奥が、やさしくざわめきだした。


クリスマスは、圓日じゃなくおいい。
䞀週間前の、䜕でもない週末にこんなふうに過ごせたら、今幎の冬は、十分すぎるほど暖かい。

垰り道、倫の手が、少しだけ私の手に觊れた。觊れただけなのに、䞀瞬、時間が止たった気がした。
クリスマスたで、あず少し。
もう䞀歩くらい、近づいおもいい気がした。

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