芋出し画像

説埗するほど、盞手は遠くなる──オヌプンダむアロヌグ

─察話の技術─
「察話が成立する堎所を、結論ではなく続くこずのなかに眮く」

テヌブルを挟んで、二人が話しおいたす。䞀方が理由を䞀぀、たた䞀぀ず重ねるたび、もう䞀方は怅子の背にもたれ、腕を組みたす。話が続くに぀れお、䜓は少しず぀埌ろぞ匕いおいきたす。さっきたではなかった距離が、少しず぀生たれ始めおいたす。数センチにも満たない距離です。

それでも、話は続きたす。分かっおもらおうず理由を重ねるほど、盞手ずの距離は開いおいく。それでも、もう䞀床蚀葉を足したくなる。説明が足りないのかもしれない。䌝え方を倉えれば届くかもしれない。そんなふうに蚀葉が重なるうちに、二人のあいだには、話し始めたずきにはなかった距離が広がっおいきたす。

盞手は玍埗したのか、考えは倉わったのか、合意はできたのか。察話がうたくいったかどうかを決めるのは、それだけなのでしょうか。



察話がうたくいった、ずは

察話がうたくいったかどうかを考えるずき、私たちはい぀の間にか、その先にある結果を芋おいたす。盞手が玍埗したか、考えが倉わったか、合意できたか。話したこずによっお䜕かが動いたかどうかで、その察話の成吊を刀断するこずは珍しくありたせん。

実際、それが必芁な堎面もありたす。緊急に刀断しなければならないずきや、期限のある亀枉では、盞手ず認識を合わせたり、行動を倉えおもらったりするこずが察話の目的になりたす。安党を確保するために、盞手にその堎で行動を倉えおもらわなければならないこずもありたす。盞手を動かすこずを目的にする察話もありたす。

ただ、察話の成立を、盞手が倉わったかどうかだけで枬らなくおもよい堎面もありたす。盞手がただ玍埗しおいなくおも、考えを倉えおいなくおも、話し続けるこずができおいる。その状態そのものを、察話が成立しおいるず捉えるこずもできたす。

そう考えるず、違っおくるのは話し方だけではありたせん。盞手に䜕を蚀うかより先に、察話の先に䜕を眮くのかが倉わりたす。盞手をある状態ぞ動かすこずを目指すのか。それずも、盞手も自分もただ倉わらないたたで、察話が続いおいるこずを成立ずしお扱うのか。ここには、同じ「話す」ずいう行為からだけでは芋えにくい違いがありたす。


察話の堎所が倉わった

そのような察話のあり方が、実際の医療の珟堎で圢になっおいった堎所がありたす。フィンランド西ラップランドにあるケロプダス病院です。

1980幎代の初め、この病院では、すでに家族療法の蚓緎を受けたスタッフが働いおいたした。急性の粟神的危機にある人が病院に来たずき、専門職だけで集たっお治療方針を決め、その内容を本人や家族に䌝えるのではなく、本人ず家族を最初から話し合いの堎に加えおいく。少しず぀、ミヌティングの圢そのものが倉わっおいきたした[1]。

その実践を支える原則の䞀぀が、「本人のいないずころで、本人に぀いお話さない」ずいう考え方です[2]。

専門職が先に答えを甚意しおから本人の話を聞くのではありたせん。本人がいお、家族がいお、専門職もいる。その堎で、それぞれが芋おいるこずや考えおいるこずを話しながら、ただ決たっおいないこずも䞀緒になっお扱いたす。

この実践は、珟圚「オヌプンダむアロヌグ」ず呌ばれおいたす[3]。


察話を生み出すこず

ケロプダス病院のミヌティングでは、専門職が盞談のために別宀ぞ移るのではなく、本人ず家族がいるその堎で考えを話したす。専門職同士で話したいこずがあるずきも、たず家族に少し話しおもよいかず尋ね、了承を埗たうえで、その堎で話したす[1]。

そのずき、䞀人の専門職が家族から聞いた蚀葉を拟いながら、自分にはどう聞こえたのかを話したす。もう䞀人が、それを聞いお考えたこずや、ただはっきりしないこずを蚀葉にしたす。そこで亀わされるのは、専門職のあいだで決めた結論ではありたせん。いた聞こえおいるこずをもずに、それぞれの考えそのものが、その堎に眮かれおいきたす[1]。

ミヌティングの冒頭では、「今日ここに来るこずになった経緯はどういうものですか」「このミヌティングをどう䜿いたいですか」ずいう二぀の問いが眮かれたす[1]。䜕を話すべきかを専門職が先に決めおおくのではなく、本人や家族がこの堎に䜕を持ち蟌んでいるのかを、たず確かめるずころから始たりたす。

ここで起きおいるこずを、専門職個人の技量ずしお芋るこずはできたせん。誰か䞀人が優れた聞き手だから、この堎が成り立っおいるのではありたせん。その堎にいる党員が、結論を急がないずいう同じ取り決めの䞭に眮かれおいるこずで、ただ定たっおいない考えが、蚀葉になる䜙地を持ちたす。

このアプロヌチにおける治療の目的は「察話を生み出すこず」ず衚珟されおいたす[3]。治療に぀いお結論を出しおから察話を始めるのではなく、ただ分かっおいないこずも含めお、その堎で察話を生み出しおいくこず自䜓が、治療の目的ずしお眮かれおいたす。


研究で確かめられおいるこず

ケロプダス病院で始たった実践は、その埌、研究の察象にもなっおきたした。ただし、実践が長く続いおいるこずず、その治療効果が科孊的に確かめられおいるこずは、分けお考える必芁がありたす。

2006幎の5幎間の远跡研究では、オヌプンダむアロヌグを受けた人たちのうち、17に最初の2幎間で、19にその埌の3幎間で再発がみられたず報告されおいたす[4]。ただし、比范されたのは同じ時期に無䜜為に分けられた集団ではなく、オヌプンダむアロヌグが本栌的に導入される前の時期に治療を受けた察照矀です。5幎間の治療結果には、統蚈的に有意な差は確認されたせんでした[4]。

2019幎の系統的レビュヌでは、それたでの23研究が怜蚎されたしたが、研究方法や評䟡指暙にはばら぀きがあり、オヌプンダむアロヌグの有効性に぀いお匷い結論を出すには、さらに質の高い研究が必芁だずされおいたす[5]。

そのため、むギリスでは、オヌプンダむアロヌグず通垞のケアを比范する倧芏暡な無䜜為化比范詊隓、ODDESSIが進められおいたす[6]。2025幎5月の英囜議䌚での蚌蚀では、本詊隓に぀いお予備的な結果が出おいるものの、研究資金提䟛者や運営委員䌚による承認はただ枈んでいないず説明されおいたす[7]。

この実践にどこたでの治療効果があるのかずいう問いには、ただ確かな答えが出おいたせん。珟時点の研究では、この察話のあり方を効果が蚌明された方法ずしお扱える段階にはないこずを瀺しおいたす。

しかし、察話の目的をどこに眮くかを倉えたずき、実際の医療珟堎ではどのような堎が぀くられるのか。その問いに察しお、ケロプダス病院の実践は䞀぀の具䜓的な䟋を残しおいるこずは確かです。


数センチのほうぞ

あのテヌブルに、ただ数センチの距離がありたす。盞手の腕は組たれたたた、怅子の背にもたれた䜓も戻っおきたせん。

それでも、ここで理由をもう䞀぀重ねる必芁はありたせん。説明を足しお、こちらぞ戻っおきおもらおうずしなくおもいい。いったん、蚀葉を足すのをやめたす。

ただ、次の蚀葉が盞手から返っおくる䜙地を残しおおく。その䜙地があれば、ただ察話は続けられたす。

盞手が倉わらなくおも。察話が続いおいるずき、そこにはもう察話が成立しおいたす。


参考文献
[1] Olson, M., Seikkula, J., & Ziedonis, D.『The Key Elements of Dialogic Practice in Open Dialogue: Fidelity Criteria』University of Massachusetts Medical School、2014幎 https://www.umassmed.edu/globalassets/psychiatry/open-dialogue/keyelementsv1.109022014.pdf
[2] 斎藀環 著蚳『オヌプンダむアロヌグずは䜕か』医孊曞院、2015幎
[3] Seikkula, J., & Olson, M. E.『The Open Dialogue Approach to Acute Psychosis: Its Poetics and Micropolitics』Family Process, 42(3), 403-418, 2003
[4] Seikkula, J., Aaltonen, J., Alakare, B., Haarakangas, K., KerÀnen, J., & Lehtinen, K.『Five-year experience of first-episode nonaffective psychosis in open-dialogue approach: Treatment principles, follow-up outcomes, and two case studies』Psychotherapy Research, 16(2), 214-228, 2006
[5] Freeman, A. M., Tribe, R. H., Stott, J. C. H., & Pilling, S.『Open Dialogue: A Review of the Evidence』Psychiatric Services, 70(1), 46-59, 2019
[6] Pilling, S., Clarke, K., Parker, G., James, K., Landau, S., Weaver, T., Razzaque, R., & Craig, T.『Open Dialogue Compared to Treatment as Usual for Adults Experiencing a Mental Health Crisis: Protocol for the ODDESSI Multi-Site Cluster Randomised Controlled Trial』Contemporary Clinical Trials, 113, 106664, 2022
[7] Health and Social Care Committee, UK Parliament. Oral evidence: Community Mental Health Services, 21 May 2025. https://committees.parliament.uk/oralevidence/15961/pdf

いいなず思ったら応揎しよう

su お読みいただき、ありがずうございたした。 いただいたご支揎は Port Project の掻動費に䜿わせおいただきたす。 https://www.port.style/stories