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「アニメ原作の67.8%は漫画」。IPの価値は漫画から生まれていた

「なろう・異世界系に偏重していた」。KADOKAWAの2026年3月期決算が、率直な自己分析と共に発表されました。連結営業利益は前年度の89億円から40億円へと、ほぼ半減。主力の出版事業は、前年の32億円の黒字から10億円の営業赤字へ転落しました。

収益性悪化の要因について、同社は決算資料の中で「既存の勝ちパターンへの過度な依存」と明記している。「なろう・異世界系」など実績のある特定ジャンルに偏重した結果、市場が飽和状態となり、企画の類型化によって斬新な挑戦が減少したと分析。

「なろう・異世界系に偏重していた」 KADOKAWA、出版事業で大幅減益 今後の戦略は|ITmedia

このニュースを見て「出版業界は厳しい」と感じた方も多いかもしれません。実際、私もそう感じます。ただ、出版業界全体を見渡してみると、まったく違う動きをしている会社もいくつもあります。

私は5月下旬にX(旧Twitter)で、こんな投稿をしました。アルファポリス、TOブックス、オーバーラップホールディングス、スターツ出版。いずれも「ラノベ・Web小説発IP」に強い出版社さんの業績を一枚に並べた図です。

図1:ラノベ・Web小説発IPに強い出版社の売上比較(コミチ作成、出所:各社決算資料)

4社はいずれも増収で、営業利益率も出版業界平均を大きく上回ります。KADOKAWAの決算とは、まったく逆向きの数字が並んでいます(個社の売上・利益率は図1参照)。

なぜ伸びているのか。事業構造を眺めると、ひとつの共通項が浮かびます。作品を1冊の本として売り切るのではなく、最初から「IP」として何度も展開する設計になっていることです。起点はWeb小説やライトノベルでも、「ノベル→コミック→アニメ」へと階段状に展開し、IPの時間軸(アニメは企画から放送まで数年)で経営が動いているのです。将来のマンガ化・アニメ化に向けた新規IPのパイプラインも、着実に太くなっています。

起点が何であれ、収益のフックを大きく引き上げるのは、作品が「漫画(コミック)」というメディアを経由してアニメ化された瞬間です。

2017年春〜2026年春、注目アニメの「漫画原作率」は67.8%

「ラノベ・Web小説発IP」と書くと、「漫画(コミック)」の役割が見えにくくなりがちです。でも、実はここに大事なポイントが隠れています。

最近、私はアニメ化作品の原作種別を調べるために、REGZA「みるコレ ブログ」に掲載されている片岡秀夫さんの季節ごとの「おすすめ大人向けアニメ」記事をもとに、2017年春〜2026年春の掲載作品をコミチで独自に分類・集計しました。REGZAは各クールのテレビアニメ全体を把握したうえで作品を紹介しており、今回はその掲載作品を分析対象としています。
その結果、同ブログで紹介されたアニメ作品では、漫画原作の比率がおよそ67.8%にのぼることがわかりました。

図2:テレビアニメの原作種別比率
対象:2017年春〜2026年春/REGZA「みるコレ ブログ」掲載作品をコミチが独自分類 

さらには、ラノベ・Web小説原作の作品のほとんどが、アニメ化される前にコミカライズを挟むようになっています。こうした流通経路の変化には、コミック版が出た時点で読者規模が可視化され、その実績が次のアニメ化の根拠になっていくからという理由があります。つまり、同じIPでも、「漫画(コミック)」というメディアを通過した後にアニメへ進むのが、ここ7〜8年の標準的なルートになっているのです。

『無職転生』『転スラ』『Re:ゼロから始める異世界生活』。これらはすべて、もとはラノベや小説投稿サイト発の作品です。しかし、視聴者がアニメに辿り着くまでには、必ずと言っていいほど漫画版が挟まっています。コミカライズの読者数で人気を確認し、編集部と製作委員会が「これならアニメ化できる」と判断する。漫画は、ラノベの世界観をビジュアル化する第一段階であり、市場の事前テストであり、アニメ化の意思決定の根拠を提供する場でもあるわけです。

加えて、日本アニメ映画の興行収入トップ100を集計すると、その63%が漫画原作です。『鬼滅の刃』『ONE PIECE』『名探偵コナン』など上位の常連も、いずれも漫画を原作とするシリーズです。

図3:日本のアニメ映画 興行収入トップ20(コミチ調べ、出典:興行収入上位日本アニメ

Netflixのオリジナル・チームが世界中で原作を探すとき、最終的にたどり着く先のひとつが日本の漫画雑誌や漫画編集部であることも、もはや珍しい話ではありません。

つまり、漫画はIPバリューチェーンの「結節点(ハブ)」として機能しています。

図4:IPバリューチェーン|漫画は川上と川下をつなぐハブ

ここまでは作品の流通経路の話でした。視点を、出版社の決算そのものに移してみましょう。これはラノベ・Web小説発の出版社さんだけに起きていることではありません。

集英社・講談社・小学館・KADOKAWA。いわゆる4大出版社さんの決算データを並べてみても、同じ方向の構造変化が見えてきます。

図5:4大出版社の売上構造(コミチ作成、出所:各社決算資料)

傾向ははっきりしています。紙は縮小、電子書籍は踊り場、そしてIP・海外が次の成長軸という構造シフトです(社別の増減は図5参照)。なかでも集英社は象徴的で、IPを起点に物販まで含めた事業領域を大きく広げています。KADOKAWAも、出版事業は赤字に転落する一方でIP・海外セグメントは伸びており、同じ会社の中で「本」と「IP」の方向感がまったく異なります。中小・大手の差を超えて、出版業の収益源は「単行本の売上で完結する」から「IPを多面展開する」へと、明確に動きつつあります。

漫画は「本」ではなく、「IPの源泉」である

出版物を「本」として見るのか、「IP」として見るのか。それだけで、経営・投資・政策のすべてのレイヤーで判断が変わります。「本」として見れば、出版社は「電子書籍の単価×部数」を追う会社で、市場が頭打ちなら衰退産業に見える。「IP」として見れば、電子書籍は出発点にすぎず、コミカライズ、アニメ、グッズ、ゲーム、海外ライセンス、実写化と川下が伸びるほど川上の単行本へ資金が還流していくという市場の見え方そのものが変わります。

伸びている4社が見せているのは後者の経営です。世界のプラットフォーム企業も後者の前提で原作の調達戦略を組み立て始めており、「アニメ化に耐えるIPを持っているか」は、たいてい「コミカライズの実績を持っているか」とほぼ同義になっています。

私たちコミチは、マンガ産業の共通OS構築作りに取り組むスタートアップです。今回いちばん伝えたかったのは、シンプルな一言。漫画は「本の一カテゴリー」ではなく「IPの源泉」だということです

KADOKAWAの決算を「出版=斜陽」のサインとしてだけ受け止めれば、業界の一面しか見えません。同じ業界で、漫画を起点にしたIPバリューチェーンを丁寧に設計している出版社さんが、確かな数字で伸びている。この見方が業界の共通言語として広がることが、これからの日本のIP産業を大きく左右すると、私は考えています。



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