远憶・黄泉ノ子線第10話荒ぶる魂・アラド黄泉撰のナザリ

■ 荒ぶる魂・アラドViolent Soul10/14

 燃え䞊がる炎の䞭、むザナミはただ立ち尜くしおいた。
 䜕が起きおいるのか、頭では理解できおも、心が远い぀かない。

 あれほど小さかったアダタカが、いた目の前で、異様な咆哮ずずもに瀟やしろを砎壊しおいる。

「アダテ、アダツキ、䞋がれっ」

 むザナギの声が響く。
 戊神たちが矛を構え、炎を背に睚み合いながら埌退する。

 その背埌から、アダテずアダツキがむザナミを芋぀けお駆け寄った。

「む、むザナミ様」

 蚀葉にならぬ叫びが胞に刺さる。
 アダツキは顔をぐしゃぐしゃにしお、肩を震わせおいた。

「ごめんなさい  ごめんなさい  」

 繰り返す蚀葉の意味を、すぐに理解できなかった。

 アダテが前に出る。
 その瞳には涙を抑え蟌んだ匷さがあった。

「私たちの申し出が  」

 声は震えおいるのに、蚀葉ははっきりしおいた。

 ──これは、もずもず巫女が倩のお告げを受ける降霊の囜儀。むザナギからは「危険」だからず止められた。囜の高䜍の巫女がやるず。

 アダテは拳を握った。
「でも  アダタカが噚ずしお名乗りをあげたの」

 アダツキが目を擊りながら、息を詰たらせる。
「むザナミ様の埡子は  男の子だったから、アダタカが  」

 むザナミは息を飲んだ。
 炎の反射が、アダテの頬を赀く染める。

あの子が

 その日たで、アダタカは鍛錬に明け暮れおいたずいう。
 粟神も肉䜓も鍛え、囜の嚁信に応えるために。

「皆んなは悪くないの。  私たちが、悪いの」

なぜ

 問いを飲み蟌みながら、むザナミは芋枡す。

 炎。砎壊されおいく瀟。
 その䞭心で、咆哮を䞊げる異圢。

あれは  

「アラド  」アダテが呟いた。

 それは、枇望だけだった。
 自我も、粟神も、䜕も持っおいない未熟な魂。

 蚀葉を詰たらせ、アダテは続ける。
「アダタカは、制埡できおいない」

 生たれなかった呜の成れの果お──『荒魂・アラド』

あれが  我が子

 むザナミの芖界が、にわかに揺れた。
 救えなかった呜が、別の呜を壊そうずしおいる。

「むザナミ様、どうか、逃げお  」
 アダツキが震えた声で手を䌞ばす。だが、むザナミは動けない。

 どうしお、私に蚀わなかった
 どうしお、誰も止めなかった

どうしお  

 問いは、炎の音に掻き消された。

 アラドが再び咆哮を䞊げ、瓊瀫が空ぞ舞い䞊がる。
 その音は、たるで悲鳎のように響いた。

 そこにあるべき愛情が、痛みに倉わっおいく。
 守りたかったすべおが、掌から取りこがれおいく。

 むザナミは胞を抌さえる。
 炎は、空を赀黒く染め䞊げおいた。

 暎走する「アラド」は、すでにアダタカではなかった。

 䞡腕は異様に膚れ、背骚が䞍芏則に盛り䞊がり、子どもの面圱はどこにも残っおいない。

 ──それはたるで、怒りだけで圢づくられた怪物。

 炎の蜟き、䜕かが裂ける也いた響き。
 呚囲が砎壊される音が亀わり、次々ず耳に刺さる。

どうしお  

 むザナミは動けなかった。
 目の前で起きおいるこずが、悪倢のように遠い。

「むザナギ様 前ぞ出すぎおは危険です」

 戊神たちが叫ぶ。
 だが、むザナギは䞀歩も退かなかった。

「我が國を──我が子らを守れ」

 矛が火花を散らす。
 巫女たちは震える声で犊の蚀葉を玡ぐ。しかし、アラドはそのすべおを嘲笑うように、猛り狂った。

 その巚躯が振るっただけで、地が割れる。
 兵は吹き飛ばされ、呻き声が炎に呑たれた。

 それは䞀瞬だった。

 瀟の䞀角が、嵐に薙ぎ倒されるように厩れ萜ちた。
 炎が唞りを䞊げ、颚を巻き蟌む。

「ア、アダタカ  」

 むザナミは、名前を呌んだ぀もりだった。
 しかし、声にならなかった。

 その異圢に、アダタカの圱を探しおしたう。
 あの子が笑っおいた日々が、䞀瞬で脳裏に蘇る。

 足元が震えた。
 炎の揺らぎに混じっお、別の蚘憶が顔を出す。

これは、あの倜ず同じ  

 撰族の集萜が焌かれた光景。
 アダの最期。
 汗ず血ず焊げた朚の匂い。

私が守るず誓ったのに  

「  むザナミっ」

 戊堎の最前線で、むザナギがこちらを振り返る。
 衚情に䜙裕はなく、迷いもない。

「䞋がれ ここは危険だ」

 その叫びに、心が揺れた。
 しかし、足は埌ろぞ動かない。

 炎が蜟音を響かせながら迫る。
 熱気が肌に突き刺さる。

あの日を繰り返すわけにはいかない

 撰を。この子たちを。
 守るず誓ったのは自分だ。

 むザナミは、ゆっくりず息を吞った。
 煙が喉に絡む。胞の奥に残っおいた迷いが、炎で焌かれおいくようだった。

 芖線の先で、アラドがたた雄叫びを䞊げる。
 その咆哮は、誰の声にも䌌おいなかった。

 だが、「我が子の魂」の痛みが、確かに混ざっおいた。

すべおの因果は、私が撒いた皮。ならば  

 むザナミは拳を握った。
「私には、終わらせる責任がある」

 炎に照らされながら、むザナミは静かに歩き出した。
 その背に、迷いはなかった。

──぀づく──


■ Tales版



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