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「慣れない副業をする人が心配」高市構文が炸裂!なぜ、そこまで「労働時間の規制緩和」に熱心なのか?

2025年11月5日、高市早苗首相は国会で「残業代が減ることで、慣れない副業をして健康を損ねる人が出るのが心配」と述べ、労働時間規制の緩和に前向きな姿勢を示しました。しかし、副業を推進してきたのは他ならぬ政府自身であり、論理はちぐはぐです。なぜ今、残業規制の緩和なのか。背景にある経済・政局の要因を多角的に検証し、「働き方の質」をどう守るかの論点を整理します。


「慣れない副業が心配」高市構文は何を隠すのか

2025年11月5日の高市早苗首相の国会答弁は、一見すると労働者の健康を気遣う調子です。しかし答弁を分解すると、次の連鎖になります。

A:残業規制を強める(または維持する)→ 残業代が減る
B:収入減を補うため労働者は副業へ流れる
C:慣れない副業は健康リスクを高める
結論:よって残業規制を緩めるべきだ

ところが、このロジックには三つの飛躍があります。

第一に、Aの「残業規制が収入減の主因」という前提です。実際の賃金水準を左右するのは基本給・職務給・手当設計であり、規制は長時間労働の歯止めです。規制の有無を賃金代替に使うのは本末転倒です。
第二に、Bは政策誘導の問題です。副業に流れるのが望ましくないなら、最低賃金・ベースアップ・税制で当該層の可処分所得を補強するのが筋です。
第三に、Cの健康リスクは、残業と同様に「総労働時間」と「回復時間不足」が原因です。副業の良否ではなく、拘束と休息の総量管理の問題です。結局、論理は「長い労働をどこで稼ぐか」を置き換えているに過ぎません。

「政府は副業・兼業を推進」“マッチポンプ”の矛盾

政府はこれまで「柔軟な働き方の環境整備」を掲げ、副業・兼業をイノベーションやキャリア形成の手段として推進してきました。就業規則モデルやガイドライン整備、兼業解禁の後押し、職業選択の自由の明確化など、制度側の整備は一貫しています。

ここで突然「慣れない副業の健康リスク」を理由に残業規制を緩めるのは、政策メッセージとして整合がとれていません。副業が健康を害し得るという懸念は確かにありますが、対処法は「副業のガバナンス(届出・時間把握・休息確保)を強化する」ことであり、「本業の長時間容認」に転化させることではありません。

副業も残業も、鍵は総合的な労働時間の一元管理です。企業間での時間通算、深夜・連続勤務の制限、回復時間(インターバル)義務化、医療・教育・運輸など高負荷領域での上限厳格化こそが、実害に即した解です。

「財源・物価・人手不足」緩和論を後押しする圧力

規制緩和論の背後には三つの圧力があります。

一つ目は賃上げの遅れ。名目賃金の伸びが物価高に追いつかず、可処分所得が目減りする層が増えました。本来、補うべきは賃上げ・税負担軽減・社会保険料の弾力運用等であり、労働時間に置き換えるのは対症療法です。
二つ目は人手不足。供給制約の下で、使用者側は「需要に応じて時間を延ばせる弁」を求めます。しかし、上限緩和は生産性向上のインセンティブを弱め、離職率上昇・安全事故・教育投資の先送りという負の外部性を招きがちです。
三つ目は財政と防衛費。防衛費の前倒し増額や少子化対策、エネルギー移行費など歳出圧力が強い中、政府は「成長の名のもとに可処分労働時間を拡張」したくなります。だが、持続成長の源泉は時間ではなく付加価値であり、長時間化は生産性の敵です。

データが教える「健康」と「働き方」

過労死ライン(月80時間超の時間外)のリスクは、残業か副業かではなく総時間に比例します。産業保健の知見では、①週当たりの労働時間、②連続勤務日数、③勤務間インターバル、④夜勤・交代制の頻度、⑤裁量・回復感(心理的要因)が健康アウトカムを規定します。
ゆえに有効なのは、下記です。

・総労働時間の一元管理(マルチジョブを含む通算)
・勤務間インターバルの法定化と実効確保
・深夜・交代制の追加上限
・医療・教育・運輸・ITなど高負荷領域の特別規制
・ストレスチェックの質向上と産業医機能の強化

規制の「緩和」ではなく、「見える化と実効性」の強化が先決です。

企業側の論理と合意形成「時間ではなく付加価値」

需要を取り逃したくない企業にとって、時間弁は魅力的です。しかし、中長期の収益性は時間×労働者数より、資本装備・デジタル化・プロセス革新・価格転嫁に依存します。合意形成の現実解としては、

①繁忙期特例:事前協定・上限の厳格数値・代償休暇の自動付与を条件に限定運用。
②価格転嫁・賃上げ連動:上流に価格転嫁できた場合の賃上げ義務・下請け保護の同時実施。
③省人化投資の税制優遇:長時間縮減をKPIにした投資減税。
④労働移動円滑化:職業訓練バウチャー、失業給付の学び直し対応、地域間移動支援。

これらを束ねることで、「時間で合わせる」誘惑を下げられます。

政策代替案“緩和”に頼らず家計と企業を支える

家計には、①低中所得向け給付付税額控除の拡充、②社会保険料の逓減的軽減、③児童手当・住居手当のターゲティング強化、④最低賃金の地域・産業別ボトム引き上げ。
企業には、①価格転嫁ガイドラインの実効監視、②時間削減を条件とした生産性補助、③副業の健康配慮義務(届出制・時間通算・休息確保)を明確化。
労働市場には、①ホワイトカラー・エグゼンプションの厳格要件(年収基準の実額点検・監督強化)、②勤務間インターバル11時間の段階導入、③マルチワークの公的台帳化(プライバシー配慮のうえ個人同意で通算)。

これらを組み合わせれば、残業規制を緩めずとも、家計の不安と企業の供給制約を同時に和らげられます。

「高市構文」からの脱却は、問いを入れ替える

問いは「残業規制を緩めるか否か」ではありません。どうすれば“時間に頼らずに”成長し、同時に健康を守れるかです。政府が副業を推進してきた以上、総時間を一元管理し、休息を保障する制度設計が不可欠です。

「慣れない副業が心配」という情緒的訴えは、賃金・物価・税・社会保険・価格転嫁・人材投資の本丸から視線をそらします。政治の役割は、長時間を再び“成長装置”に仕立て直すことではなく、賃金と生産性のエンジンを回すことです。

高市首相の答弁は、労働者の健康を口実に長時間労働の弁を広げる危うさを孕みます。必要なのは、①総労働時間の通算と休息保障、②賃上げと可処分所得の底上げ、③生産性投資と労働移動の加速、④副業ガバナンスの強化、の四点です。

「残業か、副業か」という二者択一を超え、時間ではなく付加価値、根性ではなく仕組みで競う経済へ。これが、働く人の健康と日本経済の持続性を同時に守る現実的な道筋です。

文=夏樹真生(経済ジャーナリスト)

※本稿は筆者個人の見解に基づくものであり、特定の投資、取引、政策選択を推奨するものではありません。掲載されている内容は、シンクタンクや調査機関の分析に基づく情報も含まれますが、将来の経済動向や市場の動きを保証するものではありません。投資や経済的判断は、あくまでご自身の責任において行ってください。

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