映画史としてのリチャード・ギア Richard, traducteur de l’histoire du cinéma
Richard Gereは、映画史 historia de cinema
の翻訳者である。
まず
American Gigoloでは、身体を売る男になる。
80年代アメリカ資本主義の入口で、
既に身体そのものが商品になっている。
次に
An Officer and a Gentleman。
邦題は『愛と青春の旅だち』。
しかし本当は恋愛映画というより、
Louis Gossett Jr.との、ほぼ師弟映画なのではないか。
鬼教官に人格を一回破壊され、そこから再構築される映画である。
日本だけが、それを“青春恋愛映画”として翻訳した。
そして
Breathless。
À bout de souffleというヌーベルバーグの速度と切断を、ロサンゼルスへ移し替え、
「勝手にしやがれ!」をアメリカ西海岸仕様へ翻訳してしまう。
Jean-Luc Godardは、それを知った時、
U2のBonoが、Pet Shop Boysに曲をカバーされた時みたいな気持ちだ、と言っていた。(嘘)
90年代に入ると、
Pretty Womanで、
今度は娼婦を買う側の富豪になる。
10年前まで身体を売っていた男が、資本側へ回っている。
ハリウッドの階級上昇スピードが凄い。
さらに
The Jackalでは、
ヨーロッパ的テロリズムや冷戦後の不穏さを、ハリウッド製アクションサスペンスへ翻訳する。
しかし、アイリッシュ訛りだけはかなり無理があった。
「このIRA、ダブリン空港で1回乗り換えしただけでは?」という感じである。
それでも力技で成立させていた(と思う)。
その2年後、
Runaway Brideでは、また花嫁に逃げられる。
身体を売り、
軍隊で鍛えられ、
ヌーベルバーグになり、
金持ちになり、
IRAになり、
最後は花嫁に逃げられる。
キャリアが、ほぼアメリカ映画史の高速ダイジェストである。
そして晩年、
Hachi: A Dog’s Tale。
ついに秋田犬に毎日待たれる側になる。
ヌーベルバーグ、軍隊、資本主義、IRA、ラブコメ。
20世紀映画のジャンルを全部通過した男の最終地点が、
「駅で犬が待っている」である。
壮大なのか、ただ犬に好かれていただけなのか、よく分からない。
だが、その全部を成立させてしまうのが、Richard Gereという翻訳装置なのかもしれない。
注釈
American Gigolo
1980年/監督:Paul Schrader
An Officer and a Gentleman
1982年/監督:Taylor Hackford
邦題:『愛と青春の旅だち』
Breathless
1983年/監督:Jim McBride
原作的位置づけ:À bout de souffle(監督:Jean-Luc Godard)
Pretty Woman
1990年/監督:Garry Marshall
The Jackal
1997年/監督:Michael Caton-Jones
Runaway Bride
1999年/監督:Garry Marshall
Hachi: A Dog’s Tale
2009年/監督:Lasse Hallström
原作:Hachikō Monogatari(監督:Seijirō Kōyama)

