しりとりで文章を書く快感
エッセイしりとりって企画、最初に見たときは正直「ふーん」くらいの温度だった。しりとり? エッセイで? どうせタイトルの頭文字と尻文字をつなげるだけの、ゆるいお遊びなんだろうと思ってた。それが読み進めていくうちに、気づいたら三十分くらい溶けていた。危険なやつだ、これは。
何が面白いって、テーマがてんでバラバラなことなんだよね。オクラ農家に憧れる人がいたかと思えば、子どもとの家事交渉を延々と綴っている人がいて、ライブハウスの図書館とか、夫婦でディベートしてる話とか、TSUTAYAの思い出とか、もう脈絡がない。脈絡がないのに、しりとりという一本の細い糸だけでつながっている。この「つながってるけど関係ない」って状態が、妙に心地いい。
ふつうのお題企画だと、みんな同じテーマで書くから、どうしても読み比べになる。あの人のほうが上手いとか、切り口が似てるとか、無意識に横並びで採点しちゃう。でもしりとりは、前の人の最後の一文字を受け取るだけで、あとは完全に自由。だから書き手それぞれの「素」が出る。オクラ農家に憧れる人の頭の中と、TSUTAYAに思い出を抱えてる人の頭の中は、まったく違う場所にある。それを次々に覗いていく感覚が、深夜のザッピングにちょっと似てる。
しりとりっていう縛りが、逆に自由を生んでるのも面白いところで。真っ白なノートに「何でもいいから書いて」と言われると、たいていの人は固まる。でも「『か』で始まる話を書いて」と言われると、なぜか手が動く。制約があるほうが人は書けるっていうのは、書いたことのある人ならわかると思う。この企画は、その心理を企画そのものに組み込んでるのが賢い。
あと、バトンが「読者から読者へ」渡っていくっていうのがいい。プロのライターが順番に回してるわけじゃなくて、たまたま読んでた人が「じゃあ次、私が」って手を挙げていく。だから文章の巧拙もまちまちだし、緊張して固い人もいれば、明らかに書き慣れてる人もいる。でもそのデコボコこそが、この企画の体温なんだと思う。整いすぎてないから、読んでてほっとする。
正直、自分もちょっと参加したくなってる。前の人の最後の一文字が回ってきて、それを見て「さて、何を書こうか」と考える時間、たぶんめちゃくちゃ楽しい。人生の転機みたいな大それた話じゃなくていい。今日食べた味噌汁の話でも、しりとりが通っていればちゃんとバトンになる。日常の何でもない一コマが、誰かの一文字を受け取った瞬間に、急に語る価値のある物語に変わる。あの魔法みたいな瞬間を、たぶんみんな味わいたくてこの輪に入っていくんだろう。
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