日本の海が金脈になるなら、どの企業に座を取らせるべきか
前回の記事では、日本の洋上風力が生み出す電気が「貯められない」という弱点を持ち、その解決策として水素やアンモニアといった次世代燃料への変換が注目されていることを紹介した。
風から電気、電気から水素、水素からアンモニアや合成燃料へ。
この一連のチェーンには、すでに複数の日本企業が具体的な座を取りに動いている。
今回は、投資家目線でこのチェーンを整理してみたい。
前回の記事はこちら↓
洋上風力というと、多くの人は風車を思い浮かべる
しかし、本当に大きな市場になる可能性があるのは周辺産業だ。
もし日本が本格的にエネルギー転換へ向かうなら、恩恵を受けるのは風車メーカーだけではない。むしろ発電した電気を「価値ある燃料」に変える企業、そしてその燃料を貯蔵・輸送・利用する企業こそが、大きな利益を得る可能性がある。
実際、すでに複数の企業がこの領域で具体的な動きを見せている。
入口を握る:戸田建設
戸田建設は、長崎県五島市沖の「五島洋上ウィンドファーム」で浮体式洋上風力の設計・施工を一貫して手がけ、2026年1月に国内初の商用規模運転を開始した。
浮体構造「ハイブリッドスパー型」は同社が世界で初めて実用化した技術であり、洋上風力という「発電」の入口を握るプレーヤーだ。
この五島のプロジェクトには戸田建設のほか、ENEOSリニューアブル・エナジー、大阪ガス、INPEX、関西電力、中部電力も参画しており、発電から先の事業展開を見据えた座組みになっている。
燃料に変える技術を握る:三菱重工、ENEOS
三菱重工は、水素・アンモニアを燃やすガスタービンの開発を進め、兵庫県高砂市の「高砂水素パーク」で水素製造から発電までを一貫して検証している。さらに2025年12月には、アンモニアを分解して純度99%の水素を取り出す技術をパイロットプラントで確立したと発表した。これは水素を「アンモニアの形で運び、必要な場所で水素に戻す」というサプライチェーンの要となる技術であり、北海道電力などとも連携して社会実装を加速させている。
ENEOSは、製油所という既存資産を生かして水素サプライチェーンの構築を進めている。水素の運び方として、トルエンと結合させる「MCH」方式やアンモニア方式などを比較検討しており、石油元売りとしての強みを次世代燃料事業に転用する動きが目立つ。グループ会社のENEOSリニューアブル・エナジーは秋田県沖での洋上風力事業にも参画しており、発電から燃料化までを自社グループ内でつなげようとしている。
燃料を作り、運ぶ基盤を握る:INPEX、大阪ガス
INPEXは2025年11月、新潟県柏崎市に「柏崎水素パーク」を開所し、CO2を分離・回収しながら水素とアンモニアを製造する日本初の実証設備を稼働させた。石油・天然ガス開発で培った技術を、ブルー水素・ブルーアンモニアの製造に転用する動きであり、将来的にはグリーン水素事業への布石にもなり得る。
大阪ガスは、都市ガス会社としての強みを生かし、e-メタンや水素・アンモニア燃焼技術の開発を進めている。既存のガス供給網をそのまま使える「e-メタン」は、水素やアンモニアと比べてインフラ転用のコストが低いという特徴があり、再エネ電源の開発にも取り組んでいる。
燃料を使い、電気に戻す出口を握る:関西電力、中部電力
関西電力・中部電力は、火力発電所での水素・アンモニア混焼技術の開発を進める電力会社の代表格だ。中部電力は2030年に向けて水素・アンモニアのサプライチェーン構築に向けた技術開発を本格化させており、関西電力も含め、既存の火力発電インフラを脱炭素化しながら維持する「トランジション」の主役になろうとしている。
チェーン全体で見えてくる分業構造
こうして並べてみると、見えてくる構図がある。
戸田建設が「風を電気に変える」入口を
三菱重工・ENEOSが「電気を運べる燃料に変える」技術を
INPEX・大阪ガスが「燃料を作り、運ぶ」基盤を
関西電力・中部電力が「燃料を使い、電気に戻す」出口を
それぞれ担う、という分業だ。
投資家にとって重要なのは、風車という「入口」だけでなく、このチェーン全体のどこに自分が関心を持つ企業が位置しているかを把握することだろう。
ただし、こうした分野は政策支援や技術進展のスピードに左右されやすく、不確実性も大きい。コスト競争力がいつ確保されるか、規制や補助制度がどう変化するかによって、各社の事業の採算性は大きく変わり得る。本記事は特定の企業や投資判断を推奨するものではなく、今後の構造変化を理解するための一つの視点として読んでいただきたい。
勝者を決めるのはチェーンのどこを取るかだ
かつて中東は石油によって発展した。
ノルウェーは北海油田によって豊かになった。
では日本はどうだろう。
石油は少ない。天然ガスも限られる。
しかし、日本には広大なEEZがあり、そこに吹く風を電気に変える技術はすでに動き出している。本当の勝負は、その電気を「誰が、どうやって価値ある燃料に変えるか」にある。
風車を作る企業、電気を水素やアンモニアに変える企業、それを運ぶ企業、最後に燃料として使う企業——このチェーンのどこに座を取るかによって、これから10年、20年の競争力が決まっていくのかもしれない。
日本がエネルギー輸入国から脱却できるかどうかは、まだ誰にも分からない。だが、その挑戦の舞台が、すでに国内のあちこちで動き始めていることは確かだ。

