韓国コスメはなぜ米国を抜いて世界2位になれたのか?―「化粧品版TSMC」に日本のものづくりが学ぶべきこと
韓国コスメが日本のドラッグストアの棚を侵食している、という話は今さら驚くようなニュースではありません。ただ、2025年の数字を並べてみると、それが一過性の流行の域を超えて、業界の力関係そのものを決める話になっていることが分かります。
私は業界の勢力図が入れ替わる瞬間には、たいてい同じパターンの分業の組み替えがあると見ています。今回はそれを化粧品というやや特殊な業界の数字から確認してみます。
2025年、韓国は米国を抜いて世界2位になりました
韓国食品医薬品安全処(MFDS)が発表した「2025年化粧品生産・輸出・輸入統計」によると、韓国の化粧品輸出額は前年比11.8%増の114億ドル(約1兆6,600億円)に達しました。
世界順位は1位フランス(243億ドル)、2位韓国(114億ドル)、3位米国(108億ドル)という並びで、韓国は前年の3位から米国を抜いて2位に浮上しています。
貿易黒字も過去最高を更新し、前年比13.5%増の101億ドルで、初めて100億ドルの大台に乗りました。この黒字額は、韓国全体の貿易黒字780億ドルのうち12.9%を占めます。
品目別では基礎スキンケア製品が85億3,000万ドル(全体の74.7%)、メイクアップ製品が15億1,000万ドル(13.2%)で、この2区分だけで輸出額の87.9%を構成しています。
輸出先も広がりました。輸出対象国は前年から30カ国増えて202カ国。国別では米国が22億ドルで初めて最大の輸出先となり、中国が20億ドル(前年比19%減)、日本が11億ドル(同4.9%増)と続きます。
中国はかつて韓国コスメ最大の市場でしたが、国策による現地ブランドの台頭を受けて縮小が続いており、代わってアラブ首長国連邦(前年比70.6%増)やポーランド(同115%増)といった新興市場が伸びを牽引しました。
米国の輸入統計を見ても同じ傾向が確認できます。米国国際貿易委員会のデータでは、2025年の米国の化粧品・スキンケア製品輸入において、韓国は17億ドル(前年比54.2%増)でフランス(13億ドル)を上回り、史上初めて首位に立ちました。
韓国側の統計とは集計方法が異なるため数字そのものは一致しませんが、韓国が米国市場で存在感を強めているという方向性は両方の統計から読み取れます。

何がこの躍進を支えているのか?「化粧品版TSMC」ともいえそうな座組を分解します
この成長の中身を見ていくと、SNSマーケティングの巧さだけでは説明がつきません。本質は、化粧品産業の座組そのものを、資生堂やロレアルのような大手が研究から製造、販売まで一気通貫で担う垂直統合型から、企画と製造を切り離す水平分業型へ組み替えた点にあります。
半導体産業で言うファブレス(設計特化企業)とファウンドリ(受託製造専業企業)の関係を、化粧品分野に持ち込んだ座組です。
インディーズブランドやD2C事業者は自前で工場を持たず、SNSでの市場インサイトの抽出やブランドづくり、デジタルマーケティングに経営資源を集中させます。
一方、処方研究、原料調達、品質保証、各国の薬事規制対応、量産は、コスマックスや韓国コルマーといったメガODM企業が一括して引き受けます。
この分業により、工場を持たない新興ブランドでも参入初期から世界水準の製剤技術と量産能力を利用できるようになりました。
開発期間はなぜ3カ月まで縮んだのか
水平分業体制の強みは、商品の企画から市場投入までの期間を、従来の12〜24カ月から最短3カ月(状況により1〜6カ月)へ圧縮した点です。
メガODM側が膨大な検証済み処方ライブラリを持っているため、新興ブランドはゼロから安全性試験や安定性評価をやり直す必要がありません。市場の反応を見ながら小ロットで素早く投入し、当たった商品だけを増産する。アパレル業界のファストファッションに近い動きが、化粧品でも起きています。
美容医療機器とスキンケアを手がける新興企業APRは、大規模な自社工場を持たずにメガODMのインフラを使い、生産額を1,026億ウォンから2,850億ウォンへ伸ばし、韓国内の生産実績ランキングで2024年の21位から2025年に4位へ急浮上しました。
コスマックスと韓国コルマーはプラットフォームへと姿を変えています
韓国の受託製造企業は、単なる下請け工場にとどまらず、業界全体の頭脳とインフラを担う存在に育っています。
コスマックスの2025年韓国内生産額は1兆6,104億円相当(1兆6,104億ウォン)でODM業界1位、韓国コルマーが1兆3,012億ウォンで2位、コスメカコリアが3,531億ウォンで3位と続きます。コスマックスの2025年連結売上高は2兆3,988億ウォン(前年比10.7%増)、営業利益は1,958億ウォン(同11.6%増)でした。
生産拠点も広がっています。コスマックスは韓国、中国、米国、インドネシア、タイに工場を持ち、2026年にはイタリアのODM企業ケミノバ(Keminova)の株式51%を取得し、2月の株式売買契約締結を経て4月に取得を完了、欧州初の生産拠点を確保しました。
韓国コルマーも規模を伸ばしています。同社は2026年4月、韓国公正取引委員会から資産総額5兆ウォンを超える企業に指定される「公示対象企業集団」、いわゆる大企業集団に新規指定されました。化粧品ODM専業の企業がこの区分に入るのは初めてで、創業36年での到達です。
分業の裏側にはコモディティ化と多産多死のリスクが潜んでいます
この座組は産業全体の成長を生んだ一方で、弱点も抱えています。
共通のODMプラットフォームを使えば誰でも高品質な製品を作れる環境は、中身での差別化を難しくします。差別化の重心がパッケージデザインやインフルエンサーマーケティングに偏り、参入障壁の低下と相まって類似商品が乱立し、過当競争が生じやすくなります。
多くのインディーズブランドは自社に処方の蓄積を持たないため、ヒット商品が出ても寿命が短く、後発の類似品にすぐ追い越されるリスクを抱えています。
ブランド側が激しい新陳代謝にさらされる一方で、事業データと利益はプラットフォームであるメガODM側に一元的に蓄積される。この非対称な取り分の仕組みは、コンテンツ業界にいる私たちにも馴染みのある話です。

以前このnoteでも、苦労して原作を生み出した出版社が、アニメ化・映像化された後の経済価値のどこまでを実際に取れているのかという問題を書きました。誰が価値を生み、誰がその価値を取るのかがずれてしまう構図は、業種を超えて繰り返し起きています。
関税という別の脅威にどう備えたか
保護主義的な通商政策や関税障壁に対して、韓国のメガODMは生産拠点の現地化で対応しています。
韓国コルマーは2025年7月、米国ペンシルベニア州の第2工場を稼働させ、既存の第1工場と合わせて米国内で年間約3億個、カナダの拠点を含めた北米全体では年間約4億7,000万個の生産体制を整えました。これは北米のODM企業の中で最大規模です。
関税リスクを商品価格に転嫁するのではなく、生産の場所そのものを移すことで解消する。この判断の速さも、水平分業のもとで意思決定が軽くなっていることの表れです。
日本の化粧品産業はなぜ苦戦しているのか
半導体産業において、日本企業が自社で企画から製造までを一貫して手がける垂直統合モデルにこだわり、世界的なファブレス・ファウンドリの潮流に乗り遅れてシェアを失った経緯は、いまの化粧品産業が置かれた状況と重なります。
日本の化粧品輸出額は2021年の約7,972億円をピークに減少し、2024年には約5,264億円まで落ち込みました。直近の速報値では2025年に約5,797億円へ回復の兆しも見えていますが、ピーク比ではまだ7割強の水準にとどまります。
このところ、経営判断の失敗続きだった資生堂は構造改革を進めており、2026年上期(1〜6月)の連結業績はコア営業利益444億3,200万円(前年同期比90.1%増、前年差プラス211億円)と大きく伸ばしました。
ただし、これは主に既存の基幹ブランドへの投資集中とコストマネジメントの成果で、日本の受託製造企業(TOAや日本色材工業研究所など)が韓国のメガODMのように処方ライブラリを武器に新興ブランドを育て、世界へ送り出すプラットフォームとして機能しているかというと、そこはまだ発展途上です。
経済産業省は2025年12月に「化粧品産業競争力強化検討会」を立ち上げ、2033年までに輸出額と日本ブランドの現地製造額を合わせた海外展開額を、現状の6,700億円から2兆円まで引き上げる目標を掲げました。
ただし、この目標には現地生産分も合算されるため、国内拠点から純粋に海外へ売る越境輸出そのものの実態は見えにくくなるという副作用も抱えています。
目標の立て方一つで、国内サプライチェーンにどれだけ仕事が残るかが変わってくるという話です。
異業種の人間として、この分業転換から何を読み取るか
私自身はコンテンツ・エンタメ業界に近いところで仕事をしてきましたが、この韓国コスメの話を、遠い業界だけの出来事として読むわけにはいきません。
企画とアセット制作を切り離し、専門化した制作拠点に量産部分を任せることで開発サイクルを速めるというのは、コンテンツビジネスでも繰り返し議論されてきたテーマです。
以前には、半導体のAI関連投資が製造の在り方を変えていく話も、以前このnoteで取り上げました。
どの業界でも、企画側とインフラ側のどちらが最終的に利益と交渉力を握るのか?となるせめぎ合いの構図は、驚くほど同じです。業界の座組が変わる局面では、儲かるポイントが思わぬ方向へ移動しがちですので、自分の会社がどこに立っているのかを、今一度、棚卸ししておく価値はありそうです。
それではまた、こちら「はっちょんブログ」でお会いしましょう!
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