AIは、人の1日から何時間を奪うのか?リートンのユニコーン評価を考察
韓国のAI企業に、初めて1兆ウォンの値札がついた
韓国のリートンテクノロジーズが2026年8月26日、1,000億ウォン(約115億円)を調達したと発表しました。これで企業価値は1兆ウォン(約1,150億円)を超えました。韓国のAIサービス企業としては初のユニコーンです。ユニコーンとは、上場していないのに企業価値が1兆ウォン(韓国基準)を超えた会社のことを指します。
創業は2021年なので、5年での到達になります。累計の調達額は約2,300億ウォン(約265億円)です。なお本稿の円換算は1ウォン0.115円で計算しています。
誰が出資したのかを見ると、この会社の行き先が分かる
新しく入った投資家は、コアラインベンチャーズとユジン資産運用の2社です。前者は米国のベンチャーキャピタルで、シリコンバレーのメンローパークと東京に拠点を置いています。これまでの投資先にはカカオや、「あんさんぶるスターズ!」を運営するHappy Elementsが含まれます。
AI技術の会社としてではなく、キャラクターを扱うエンタメ企業として値段がついたわけです。
売上は15倍に伸びたが、赤字も過去最大になった
2025年の売上高は471億ウォン(約54億円)でした。前年は30億ウォンだったので、15倍近い伸びです。ただし同じ年の営業費用は1,060億ウォン(約122億円)に膨らみ、営業損失は588億ウォン(約68億円)になりました。売上の倍以上を使って売上を作っている状態です。
この数字は創業5年目で初めて公示された外部監査済みの財務諸表によるもので、推計値ではありません。
今年の売上目標が、4か月で倍に書き換わった
2026年4月の決算発表では「今年1,000億ウォンを突破する」と説明していました。それが8月26日の発表では「2,000億ウォン超(約230億円)の見込み」に変わっています。同じ年度の目標が、会社の見通しベースとはいえ、半年も経たずに倍になるのは珍しいことです。

稼いでいるのは「便利なAI」ではなく「話し相手のAI」
リートンは元々、ChatGPTやClaude、Geminiなどをまとめて無料で使えるAIポータルとして知られていました。ところが、実際にお金を生んでいるのは、そこから切り出したキャラクター対話サービスのほうです。
韓国では「クラック」が2025年4月に独立したアプリとなり、日本では「キャラぷ」が2025年6月に独立、北米では2026年に「OOC」が始まりました。国ごとにアプリ名も通貨の単位も分けています。クラックは1クラッカーが1ウォン、キャラぷは1ゴールドが1円です。

北米のOOCは、3か月で月商100億ウォンに届いた
2026年5月に北米で始めたOOCは、開始から3か月で月商100億ウォン(約11.5億円)を超えました。この結果、海外の売上が韓国国内を上回っています。4月時点の計画では「今年、米国の売上比率を15%まで引き上げる」という表現だったので、想定よりかなり速く進んだことになります。
利用者は1日2時間以上、このアプリの中にいる
韓国の調査報道によると、この種のAIチャットアプリの利用者は1日平均で2時間を超えて滞在しています。8月18日時点のGoogle Playエンターテインメント部門の売上ランキングでは、クラックが6位、競合のゼタが8位。ゲームを除く全アプリで見ても15位と17位で、ウェーブやクーパンプレイ、ディズニープラスよりも上でした。
お金の取り方は「使った分だけ」にしてある
クラックでは、会話や画像生成のたびに「クラッカー」という有料の通貨を消費します。会話モードごとに消費量が変わるので、高性能なAIを使う会話ほど利用者の負担が増えます。
定額制にせず使った分だけ払う形にしたのは、AIの利用料がそのまま原価になるからです。月額固定にすると、長く遊ぶ利用者ほど会社が損をします。
なお、成人認証をしていない口座には月50万ウォン(約5万7,500円)の決済上限があり、成人認証済みには上限がありません。
韓国最大のゲーム展示会の看板が、ゲーム会社ではなくなった
クラックは「G-STAR 2026」のメインスポンサーになりました。ゲーム会社以外がこのポジションに就くのは初めてです。会社側はクラックを「ゲームではないAI対話型のコンテンツサービス」と説明しており、アプリストアの分類も「エンターテインメント」になっています。一方でゲーム物管理委員会は、有料の通貨を使い、確率によって得たり失ったりする仕組みはゲーム性を判断する重要な要素だと述べています。
実際、2025年12月にクラックが行った「クラッカー焼き」(有料クラッカーを賭けて2〜100倍になるか、全部を失うかが決まる企画)は、年齢制限なしで始まった後に苦情が入り、2日19時間で終了しました。
ちなみに、クラックもゼタも12歳から利用可能なアプリとして流通しています。
作った人にお金が戻る仕組みを、先に用意した
クラックに登場するキャラクターの多くは、運営会社ではなく利用者が作ったものです。2026年9月1日から、その作り手への報酬が現金化できるようになります。
最低1万ウォン(約1,150円)から換金でき、1回あたりの上限はありません。ただし、1つのキャラクター作品につき累計10億ウォン(約1.15億円)という上限が置かれ、換金時には税金が源泉徴収されます。
9月12日からは「クラック・オンリー」という独占公開の制度も始まります。一定期間このアプリだけで公開する代わりに取り分が増え、北米のOOCと日本のキャラぷにも作品が並びます。自社でキャラクターを持たない会社が持てる資産は、この作り手たちだけです。
後続の企業が学ぶべきは、この4点だと考えています
1つ目は、既存サービスの中の一機能を切り出して別アプリにしたこと。キャラクター対話はもともとポータルの機能の1つでしたが、分けたことで料金の決め方もブランドも自由度高く作れました。
2つ目は、国ごとに名前も通貨も変えたこと。多言語対応で押し切らなかった判断が、北米での立ち上がりの成功を導きました。
3つ目は、作り手への報酬を現金にしたうえで、先に上限を決めたこと。上限のない還元は原価が読めなくなります。
4つ目は、規制ができる前に自主規制したこと。同社は2026年7月に、AI倫理や心理学、法学の専門家によるユーザー委員会を立ち上げ、韓国インターネット自律政策機構が進めるガイドラインづくりにも参加しています。
ここから先の話。AIビジネスは「時間を減らす側」から「時間を使わせる側」へ移っている
生成AIのビジネスは、最初の数年は業務効率の話が中心でした。資料作成や議事録、コード生成のように、人間の作業時間を減らす方向です。この領域は導入が進むほど「1人あたり月いくら」の定額課金に落ち着き、単価は上がりにくくなります。
一方、リートンが伸ばしたのは反対側です。なるべく多くの時間を消費させる。そのうえで人が長く滞在するほど売上が増える仕組みにしています。
人が財布を開く理由は「必要だから」より「もっと続けたいから」のほうが強いというのは、ゲームや音楽配信が20年かけて確かめてきたことです。AIサービスの収益が伸びる方向は、当面この後者に寄っていくと見ています。
ただし、人の1日は24時間から増えない
総務省の調査によると、平日1日あたりの平均利用時間はインターネットが181.8分、テレビのリアルタイム視聴が154.7分でした。前年比でネットが8.2分増え、テレビが8.2分減っています。この調査は令和6年度分で2025年6月に公表されたものなので、直近の数字では、さらにその傾向が拡大しているのではないかと思われます。
このように、どこかが増えればどこかが減ります。AIチャットが日本でも1日2時間を占めていくとすれば、その2時間は必ず何かから奪った時間となります。
削られるのは、テレビよりも「暇つぶし枠」のほうです
AIチャットが奪う相手は、ニュースや長編ドラマではないと考えています。競合するのは、通勤中や寝る前の短い時間に開かれてきたものです。
ソーシャルゲームの周回、SNSの流し見、無料マンガアプリの1日1話、キャラクター人気投票への参加。いずれも「短く区切って何度も戻ってくる」使い方をされてきました。AIチャットの使われ方はこれとほぼ同じです。
Google Playの売上ランキングで動画配信アプリを追い抜いたのは、この暇つぶし枠の中での上位を奪取できたからです。
既存のエンタメ側に与えそうな変化は、3つでしょうか
1つは、キャラクターを保有している会社の判断です。自社の作品が誰かのAIキャラクターとして勝手に会話しているとき、それを黙認するのか、許諾して取り分をもらうのか、止めさせるのか。未だここを決めていない会社がほとんどです。
2つ目は、時間あたりの単価の見直しです。1日2時間の滞在に対して数百円しか回収できていないサービスは、同じ時間で数千円を回収するサービスに人材も広告費も持っていかれます。
3つ目は、ファンとの接点をどこに置くかという話です。ファンクラブや公式アプリが担ってきた「毎日ちょっと触れる場所」を、AIチャットが横から取りにきています。
この3つはいずれも、自社サービスに本格的にAIを導入するかどうかとは別の判断です。
伸びを止め得るのは、競合ではなく法律のほうです
北米は、この分野の規制が最も速く進んでいる市場です。
カリフォルニア州のSB 243は2025年10月に署名され、2026年1月1日に施行されました。
未成年者に対してAIであることを表示する義務、3時間ごとに休憩を促す通知、自殺や自傷に関する対応手順の整備、未成年への性的な内容の生成を防ぐ措置などを事業者に求めています。違反1件あたり1,000ドル以上を利用者側が直接請求できる規定も入りました。
ニューヨーク州の類似法は2025年11月から施行済みで、連邦レベルでも法案が出ています。米連邦取引委員会は、この分野の事業者7社に対する調査を始めました。OOCはこの環境のただ中に出たサービスです。
青少年が10%という数字分は、売上見込みから引かれる可能性があります
クラックの利用者のうち、青少年が占める比率は約10%です。同社は利用時間の上限設定、保護者の同意手続きの強化、決済額の上限引き下げを検討中で、詳細がまとまり次第まとめて発表するとしています。決済上限の引き下げは、1人あたりの単価を押し下げます。
米国の調査では、10代の72%がAIとの会話サービスを使ったことがあり、52%が日常的に使っているという結果も出ています。青少年比率10%という数字は、今後どちらの国でも上振れる可能性が高いと見ておくべきです。

原価の決定権は、自分では握れていません
クラックやキャラぷの高性能な会話モードは、外部のAIモデルを使っています。モデル側が値上げすれば、そのまま原価に跳ね返ります。使った分だけ課金する形にしているので値上げの転嫁自体はできますが、転嫁するたびに利用者は離れます。
営業費用1,060億ウォンのうちAI利用料がいくらなのかは開示されていません。ここが分からないうちは、1兆ウォンという評価も粗利が読めないまま付いた値段だと考えておくのが安全です。
日本のプレーヤーには、すでに競争が始まっています
キャラぷは2025年6月から日本で始まっています。投資家に日本拠点を持つVCが入ったことで、日本のコンテンツ企業との競合はさらに早まる可能性があります。
対抗する立場にいるのは、ゲーム会社とVTuber事業者、そして出版社です。目標となる1日2時間超という滞在時間は、これまでゲームや投稿動画、電子コミックが占めていた時間です。手招きしていると、がっつり時間を奪われてしまうかもしれません。
なお、このジャンルに関しては、以前もこのような考察を行わせていただきました。よろしければ、是非合わせてご覧ください!🙇♀️👇
それではまた、こちら「はっちょんブログ」でお会いしましょう!
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