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名もなき裏方にこそ花束を。仕事がつまらないと思ったら読みたい本

恩田陸『なんとかしなくちゃ。青雲編』文春文庫


「頑張っても、美味しいところは持っていかれちゃう」
仕事をしていると、そんなふうに感じることってありますよね。

でも、最近特に思うんです。結果が出るのは、裏で支えてくれる人のおかげだなと。私も年齢と共に、責任ある立場を任されるようになってから、部下や同僚のありがたみが、より身に染みるようになりました。

仕事先の会社を見ていても、安定しているところには必ずと言っていいほど、優秀な「番頭さん」がいらっしゃいます。トップが光るのは、裏方の支えがあってこそ。あらためて、裏方の仕事の尊さを感じます。

そんな裏方に光を当てた小説が、恩田陸『なんとかしなくちゃ。青雲編』

『夜のピクニック』や『蜂蜜と遠雷』など、恩田さんの作品は、展開が楽しみすぎて、今回も猛スピードで読み切ってしまいましたが、仕事をする上でのヒントがぎっしり詰まった一冊でした。


あらすじ

大阪の老舗海鮮問屋の家系に生まれた梯結子(かけはし・ゆいこ)。商才あふれる兄姉に囲まれた彼女の強みは、名前の通り人と人を繋ぐ「架け橋」の才能だった。

『エルマーのぼうけん』で道具類を自由に使いこなす発想を学び、憧れのヒーローは映画『大脱走』の調達屋。日用品を駆使して困難を突破する知恵に魅了された彼女は、やがて「物流と兵站(ロジスティクス)」への興味が高まっていく。

砂場の混雑解消から、格差のない誕生日会の提案、高校では部活の練習場所の調整に食堂の集客戦略、そして大学での異色コラボまで。解決困難に思えた身の回りの課題を、彼女は「融通無碍(ゆうずうむげ)」な発想で鮮やかに解決していく。


裏方の美意識

蛇口をひねれば水が出る。
スイッチを押せば電気が付く。

こうした「当たり前」の日常は、名もなき裏方たちの献身によって支えられています。

私は広報や労務、調達といった「裏方」の仕事を長年受け持ってきました。目立たないし、円滑に進んで“当たり前”なので、褒められることも滅多にありません。

でも私は舞台裏で「ボス整ってますぜ」と微笑みたい。物事が円滑に進むのを美しいと思うし、それ自体が最高に楽しいのです。

テレビや舞台でスポットライトを浴びるスターより、照明や音響などの舞台裏のプロフェッショナルに心惹かれるし、憧れます。
ジブリ作品なら、『千と千尋の神隠し』の釜爺、『魔女の宅急便』のパン屋のおソノさんのポジションが良い。

そんな私の心には、恩田陸さんの描く主人公・梯結子(かけはし ゆいこ)の姿が深く刺さりました。

彼女は類まれな発想力で課題を解決しながらも、決して表舞台に立とうとしません。高校の生徒会長選挙で「選挙参謀」として友人を勝利に導く姿は、まさに裏方のプロフェッショナルです。

仕事の本質は課題解決であり、誰かの幸せのためにあります。
大切なのは、自分がチームのどのポジションで力を発揮するか。
人を惹きつけるカリスマ性でリーダーになるか、調整力を活かして裏方で活躍するか。それぞれが最適な役割を果たせば良いと思っています。


大切なのは想像力としなやかさ

私が感じた主人公・結子の魅力は、単に課題を解決するだけでなく、他者の心に深く寄り添う姿勢にあります。

例えば誕生会のエピソードでは、経済的に苦しい家庭の子をただ参加させるだけでなく、その子の「絵が上手い」という強みを活かせる役割を分担します。惨めな思いをさせず、自信を持って楽しめるよう心配りをする結子の姿には、裏方仕事の大切な要素が詰まっています。

裏方の仕事とは、単純な流れ作業ではありません。仕事が円滑に進むために、例えば付箋に一言添えたりなどの工夫を凝らしたりする。その「想像力」が仕事の質と評価を大きく左右します。

そして、裏方に大切なのは、
結子のキーワードでもある「融通無碍(ゆうずうむげ)」

現場は予想外の連続です。手持ちのものを知恵と工夫で使いこなし、しなやかに乗り越える。そんな「何とかする」柔軟さで結果に繋げるのが、裏方の面白さでもあります。

表舞台か裏方か。

裏方の私にとって「つまらない」仕事はありません。
(最近はないけど)お茶汲みだって面白い。
「この安もんのお茶で唸らせてやるぜ」って楽しんでる。
茶葉の量、湯加減、出すタイミング……結構奥深いものなんです。

私はまだ、結子のレベルには達しませんが、この作品を読んで、もっと裏方を極めよって思いました。

とは言え、ずっと日陰も寒いから、時には裏方にも「ありがとう」の花束を。


小説のウラガワ

この物語でさらに面白かったのが、作者・恩田陸さんの回想。

自分は歴史に詳しくないのに、結子が大学で歴史の勉強を始めたからどうしようと思った…と書かれています。
作者が主人公を生み出しているというより、主人公が勝手に動き出すのを“記録”している感じ。小説家ってそういう感覚なんですね。

この青雲編は、結子の大学時代まで。
「城郭愛好研究会」の仮想城攻めで、戦略性を磨き上げた結子が、社会人としてどのような活躍をするのか…次作「熱風編」が今から楽しみです!

表紙のジオラマは金沢城の石川門かな?
結子ならこの名城をどうやって攻略するんだろ

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