暗号資産「サナエトークン」発行中止、2つの論点を考察
こんにちは、元警視庁刑事・治安戦略アナリスト、小比類巻文隆です。
サナエトークン問題が国会でも取り上げられ、金融庁が調査に乗り出していると報じられています。
ニュースだけを見ると、「首相の名前を使った仮想通貨が問題になった」という印象を受けるだけかもしれません。しかし、この問題は単なる政治ニュースというより、現在の暗号資産の仕組みや制度の境界を考える上で、非常に興味深い事例でもあります。
※同じ内容をYouTubeでも投稿しています。
動画の方が良い方は、ぜひこちらでどうぞ。
今回は、このサナエトークン問題について、事実関係を整理したうえで、どのような点が問題視されているのか、そして法律上どのような論点があり得るのかを、視聴者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
問題となっているのは、「SANAE TOKEN」と呼ばれるデジタルトークンです。
まず、報道されている事実関係を整理しましょう。
このトークンは、格闘技イベント「BreakingDown」の運営会社の幹部として知られる起業家・溝口勇児氏が関わるプロジェクトの一環として、今年2月に発行されたとされています。
ちなみに私自身も、過去にこの会社が制作しているYouTube番「NoBorder」に出演したことがあります。もちろん今回のプロジェクトとは直接関係はありませんが、溝口氏が関わる番組に出演したことがあるという意味で、このニュースには個人的にも関心を持って見ています。

プロジェクト側は、このトークンについて、「新しいテクノロジーを使って民主主義をアップデートする」「ユーザーの声を政策立案者に届ける」などと説明し、政策提言などへのインセンティブとして利用する構想を掲げていました。
しかし、このトークンの名称には「サナエ」という名前が使われており、発行当時のサイトなどには高市早苗首相を想起させる表現やイラストが掲載されていたと報じられています。
また、発行に関わった人物が、SNSや動画番組などで「高市さんサイドとコミュニケーションを取らせていただいている」などと発言していたこともあり、一部では首相側が関与しているのではないかという見方も広がりました。
高市早苗首相の声明
これに対して高市首相は、3月2日、自身のSNSで「全く存じ上げない」と投稿し、このプロジェクトとの関係を明確に否定しました。首相の関与が否定されたことで、トークンの価格は急落したと報じられています。
その後、金融庁はこのトークンに関する実態調査に乗り出し、国会でもこの問題が取り上げられました。
衆議院の財務金融委員会では、金融庁が「暗号資産交換業者としての登録は確認できない」と答弁しています。さらに片山財務大臣は、「法令違反が認められ、利用者保護のため必要と判断されれば適切に対応する」と述べています。
一方、プロジェクト側はその後、トークンの名称変更や所有者への補償を発表し、検証委員会を設置する方針も示しています。
そもそも、こうした「トークン」とは何なのか。
ここで一つ、多くの人が疑問に思う点があります。
そもそも、こうした「トークン」とは何なのでしょうか。
一般的に、仮想通貨というとビットコインを思い浮かべる人が多いかもしれません。
ビットコインは、独自のブロックチェーンを持つ暗号資産です。
しかし現在では、既存のブロックチェーンの上に新しいデジタル資産を作ることができます。このときに作られるデジタル資産が「トークン」と呼ばれます。
たとえば、イーサリアムというブロックチェーンの上では、プログラムを使って新しいトークンを発行することが可能です。技術的には、個人や企業が比較的容易にトークンを作ることができます。
このため、トークンにはさまざまな用途があります。
たとえば、ゲームの中で使う通貨や、コミュニティ内で使うポイント、プロジェクトへの参加権などを表すものとして使われることもあります。こうした用途の場合、いわば「デジタルのポイント」に近い性格になります。
しかし一方で、トークンが市場で売買され、価格がつくようになると、その性格は仮想通貨に近づいていきます。つまり、トークンは「単なるポイント」と「投資対象となる暗号資産」の両方の性格を持ち得る存在なのです。
ここで関係してくるのが、日本の法律です。
日本では、暗号資産の売買や交換などを事業として行う場合、「資金決済に関する法律」==資金決済法==に基づき、暗号資産交換業として金融庁の登録を受ける必要があります。いわゆる仮想通貨取引所は、この登録を受けた事業者です。
この制度は、過去に発生したマウントゴックス事件などをきっかけに整備されたもので、利用者の資産保護などを目的としています。
今回の問題では、金融庁が「交換業者としての登録は確認できない」と答弁している点が注目
日本では、暗号資産の売買や交換を事業として行う場合、「資金決済に関する法律」により暗号資産交換業としての登録が必要になります。したがって、もし今回のサナエトークンのプロジェクトが、こうした交換業に該当する行為を行っていたとすれば、本来は登録が必要だったということになります。
もっとも、ここで重要なのは、トークンを発行すること自体が直ちに違法になるわけではないという点です。
ブロックチェーン上でトークンを作ること自体は、技術的には誰でも可能であり、それ自体が禁止されているわけではありません。
問題になるのは、そのトークンをどのように扱ったのか、つまり売買や勧誘などがどのような形で行われていたのかという点です。
さらに今回の問題では、もう一つの論点があります。
それは、政治家の名前やイメージが利用されていた点です。
もし、特定の政治家が関与しているかのような印象を与え、それによって投資判断に影響を与えたとすれば、表示の問題や勧誘の問題として議論される可能性もあります。
ただし、これが直ちに刑事責任に結びつくかどうかは、実際の説明内容や関係者の認識など、具体的な事実関係を慎重に検討する必要があります。
今回の事件は、単に一つのトークンをめぐるトラブルというだけではなく、現在のデジタル資産の世界が持つ特徴を示しているとも言えます。
トークンは、技術的には比較的容易に作ることができ、インターネットやSNSを通じて短期間で広く知られる可能性があります。
一方で、それが「単なるコミュニティポイント」なのか、それとも「投資対象となる暗号資産」なのか、その境界は必ずしも明確ではありません。
サナエトークン問題も、まさにその境界線の上で起きた出来事と言えるかもしれません。
このトークンは、政策提言へのインセンティブとして説明されていましたが、もし市場で取引され、価格がつくような性格を持っていた場合、その扱いは大きく変わる可能性があります。
今回の問題を通じて、私たちが考えるべき点は、こうした新しいデジタル資産がどのような形で社会に広がっていくのかという点ではないでしょうか。
トークンは、コミュニティ運営や新しいサービスの仕組みとして活用される可能性もあります。しかし一方で、その仕組みが投資や取引と結びついたとき、どのようなルールが適用されるのかという問題も生じます。
サナエトークン問題は、まだ調査が始まったばかりであり、最終的にどのような評価になるのかは現時点では明らかではありません。
ただ、この出来事は、暗号資産やトークンという新しい仕組みが、政治や社会とどのように関わっていくのかを考えるきっかけにはなるかもしれません。
皆さんは、この問題をどのようにご覧になるでしょうか。トークンという新しい仕組みが社会に広がる中で、どのようなルールや理解が必要になるのか。ぜひ、コメントでご意見をお寄せください。
今後も、治安・防犯・社会問題に関して、事実に基づいた見解をわかりやすくお届けしてまいります。
それでは今回はこのへんで。またお会いしましょう。
