心地いい沈黙
あぁ眠い。
最近台風のせいか夜風が涼しい。
この快適すぎる気温はいけない。
目を閉じたら数秒で落ちるだろう。
寝てはいけない。
なぜなら私は運転中だからだ。
しかも隣には嫁が乗っている。
リクライニングをしていないシートで
寝息を立てている。
たまに口からキラキラしたものが出るので
よほど深く落ちているのだろう。
起こすわけにはいかない。
ハンドルにグッと力を込める。
緊張からではない、眠いからだ。
体のどこかしこに力を込めてないと
意識が途切れそうでかなわない。
フロントガラスの外は夜で、雨。
私が最も嫌うコンディション。
自宅まであと15㎞。
近いといえば近いが
通いといえば遠い。
コンビニで小休憩すべきか?
眠気覚ましドリンクでも買って。
いやいやと首を振る。
私は既にカフェインが効かない体質。
見よ、車に備え付けてある
アイスコーヒーの水筒を飲み干してもなお
眠気が止まらない。
今更眠眠打破を飲んだところで
効果は期待できないだろう。
一刻も早く帰るしかないのだ。
しかしスピードは出せない。
中央分離帯が対向車のライトで見えない。
濡れた路面の光の反射率の高さに辟易する。
あぁイライラする。
制御できない眠気と
制御できない天候と
制御できない空腹が
自分ではどうしようもなくイライラする。
「んぉ」
主要国道の交差点を大きく右に曲がったとき
嫁が飼い猫のように目を覚ました。
寝ぼけ眼でゴシゴシと口元を拭いている。
そして沈黙の車内。
私が何か喋ったなら
嫁は上手く返してくれる予感はある。
でもあえての沈黙。
なぜなら沈黙が今一番心地いいのだから。
普段私と嫁は顔を合わせると
アホみたいに喋り倒しているが
同じ部屋で無言で居ることも多い。
沈黙が心地いい相手というのは貴重だ。
いや、少し違うな。
私は沈黙に耐えられず
取り繕うように話題で埋める人のことが
好きではないのだ。
そういえば嫁は
出会った頃からこんな感じだった気がする。
話したいことが噛み合うくせに
気まずい沈黙を微塵も感じない。
変なヤツ。
そんなことを考えていたら眠気は消え
つつがなく自宅に着いていた。
「うーし今夜は塩焼きそばね」
