【ショート】 戻れなかった春
―― short story ――
城の庭に、春が戻ってきた。
薄紅の花びらが舞い、騎士たちの訓練の声が響く。
その中に立つ青年――アレン・カウス。
金糸の髪、晴れた日の瞳。
リリアナは、もう姫ではない。
「……来てくれたのね」
庭の端、花影の下に立つ女がいた。
質素な麻の衣をまとい、手には籠。
アレンは膝をつき、彼女の足元に落ちる花びらを見つめた。
「あなたの言葉が聞きたい」
リリアナは小さく息を吸い、俯いた。
「私はもう、誇ることはできないの」
「求めたことはありません」
風が、吹いた。
花が二人の間を通り抜ける。
彼女は微笑んで、その花を手のひらに受け取った。
「あなたが選んだ道が、国を救ったわ。だから、もう振り向かないで」
アレンは剣を鞘に納めた。
遠くで鐘が鳴る。
春の終わりの音だった。
リリアナは、そっと、布袋を地面に置いた。
踵を返すと、花びらの中へ消えていく。
布袋を見つめたまま、
アレンの世界は、ゆっくりと色を失っていった。
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