【ショートショート】炭酸のシュワワ… #シロクマ文芸部
炭酸の入浴剤を、私はいつも使っている。
今夜ももちろん、湯船に放り込むつもりだ。
ああ、それにしても今日は最悪の一日だった。
仕事で派手なミスをし、苦手な上司からこっぴどく叱られた。
こんな日はゆっくりお風呂に入り、早めに眠るに限る。
そうだ。今夜は「これ、すごく良いよ!」と、この前の誕生日にプレゼントしてもらった入浴剤を使ってみよう。
いつもスーパーで買うものとは違う、初めて見るパッケージだ。
お湯に落とした瞬間、ゴボゴボゴボッと激しい勢いで泡が立ち上った。
「うぉっ、ずいぶん肩が凝ってるねぇ」
急にどこからか声がして、私は湯船の中で飛び上がった。あたりを見回しても、狭い浴室には私しかいない。
(疲れて、幻聴でも聞こえているのかな、私…)
まあ、それならそれでいいや、と湯船に深く身を沈める。
「お姉さん、この泡が消えるまでなら、話相手になれるよ」
お湯の底から響くような、おじいさんの優しい声が言った。
「どうしたんだい?」
促されるまま、私は今日あった仕事のミスを、堰を切ったように話し出した。
おじいさんはシュワシュワと泡を弾かせながら、「それは大変だったね」「がんばった、がんばった」「明日になったら、きっと良くなるよ」と、ただただ温かく慰めてくれた。
やがてプチプチと音が小さくなり、お湯が静かになる頃には、私の心もすっかり丸くなっていた。
翌朝、目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。久しぶりに、泥のように熟睡できた気がする。
体も心も、驚くほど軽い。
「あの不思議なおじいさん、いったい誰だったのだろう…」
ふと気になって、洗面所のゴミ箱から、昨夜捨てた入浴剤のパッケージを拾い上げてみた。
裏面の成分表示の隅に、小さな文字でこう書かれていた。
『品名 シュワシュワ仙人の労い湯。
※大変お疲れの方には、お湯の仙人の声が聞こえる場合があります』
「ふふっ、おじいさん、ありがとう」
私は小さく笑い、お気に入りのシャツに腕を通した。今日も頑張ろう!
※小牧部長、どうぞよろしくお願いします。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします。
いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます。