草むしり僧 第27話 「忘れる木」
草むしり僧 第27話 「忘れる木」
朝。
庭の隅に、古い柿の木が立っていた。
春には若葉をつけ、
夏には木陰をつくり、
秋には実をつけ、
冬には枝だけになる。
毎年、その繰り返しだった。
僧は木の根元の草を抜く。
一本。
また一本。
若い修行僧が幹に手を当てた。
「和尚さま。」
「なんだ。」
「この木は、去年の秋を覚えているのでしょうか。」
僧は草を一本抜いた。
「どうだろう。」
「たくさん実をつけました。」
「そうだな。」
「冬には全部落ちました。」
「そうだな。」
修行僧は枝を見上げる。
新しい葉が風に揺れている。
「忘れてしまったのでしょうか。」
僧は笑った。
「忘れたのかもしれん。」
「寂しくありませんか。」
僧は首をかしげる。
「覚えていたら。」
一本。
また一本。
「毎年、春になれん。」
修行僧は黙った。
風が吹く。
若葉が一斉に裏返る。
庭が一瞬だけ、白っぽく光った。
僧はその光を見ていた。
「木は。」
少し間を置く。
「忘れるのが上手だ。」
修行僧も木を見る。
去年の葉は一枚も残っていない。
去年の実も。
去年の風も。
それでも、
木はちゃんと立っていた。
僧は草籠を肩に掛ける。
「人は覚える。」
歩きながら続けた。
「木は芽吹く。」
その朝、
柿の木は何も語らなかった。
ただ、
新しい葉だけが、
静かに風を受けていた。
