『家庭菜園と仮定才媛』12外側の世界と観測記録
『家庭菜園と仮定才媛』12
外側の世界と観測記録
その町には、ずっと説明できない畑があった。
住宅街の端、地図には一応「家庭菜園予定地」と書かれているが、誰も正式に植えた覚えがない。
「また、何か起きてるな」
市役所の職員はそう言って、メモを閉じた。
この場所では定期的に“整合性の高い異常”が発生する。
・信号機が会話をしたという記録
・コンビニの商品ラベルが意味を持ち始めたという報告
・駅のホームが一つ増えたという証言
・雨が止む前に時間が止まったという観測
しかし、すべての記録は一つの畑の位置に収束していた。
「現地確認は?」
「行きましたが……」
職員は言葉を選ぶ。
「説明できるものは何もありませんでした。ただ、“説明が必要ない状態”がありました」
報告書にはこう書かれている。
観測対象:家庭菜園跡地
状態:未確定現実の集中領域
備考:人影あり。ただし人物ではない可能性もある
監視カメラの映像は、常に少しだけ遅れていた。
映像には畑が映っているが、その畑は「見た後で形が決まる」ように揺れている。
あるフレームでは、金魚鉢がある。
別のフレームでは、それは単なる水たまりになる。
信号機は存在しているが、信号の意味は一貫していない。
青だったという記録もあれば、まだ青になる前だったという記録もある。
「つまり……何が起きているんですか」
若い職員が尋ねる。
上司は少しだけ黙ってから答える。
「たぶん、“仮定”が現実に負けていない場所だ」
風が窓を叩く。
その音だけが、唯一どの記録にも矛盾しない現実だった。
