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題名しりとり 第六話 水
題名しりとり
第六話 水
その村には、枯れない井戸があった。
雨が降らない年も、 誰かが忘れ去った季節も、 その井戸だけは静かに水を湛えていた。
村人たちは不思議に思った。
「なぜ、この井戸だけ枯れないのだろう」
長老は答えた。
「この井戸は、水を蓄えているのではない」
「では、何を?」
「流れていくものを覚えているのだ」
誰も意味が分からなかった。
ある日、旅人が村を訪れた。
旅人は井戸の水を一口飲み、 しばらく黙っていた。
そして、小さくつぶやいた。
「母の声がする」
村人たちは笑った。
水から声が聞こえるはずがない。
しかし、旅人の目には涙が浮かんでいた。
「昔、母が最後にくれた水の味と同じです」
それを聞いた村人も、 一人、また一人と井戸の水を飲んだ。
すると皆、それぞれ違うものを思い出した。
初めて雪を見た日の空気。
遠い友人との約束。
もう戻れない家の匂い。
井戸は何も語らなかった。
ただ、そこにあった。
水とは、過去を映す鏡ではない。
過ぎ去ったものが、 まだ流れていることを教えるものだった。
夜になり、月が井戸の中を覗き込むと、 底に小さな文字が浮かんだ。
誰かが、いつか書いた一文字。
それは――
「ず」
だった。
(つづく)
